福のため徳を積んだ韓国人

【新刊】チェ・ジョンホ著『福に関する言説』(石枕)

 「新年に多くの福を授かりますように」。韓国人なら誰もが新年にこうあいさつを交わす。悪い癖を繰り返したり、悪事をすると「福が逃げる」、良いことをすれば「福が入る」と言う。昔は自分の住む家を探してくれる不動産仲介事務所を福徳房と呼んだ。そして、この場所によく出入りする女性は、福夫人と呼ばれた。 

 「福」という言葉は昔の文献にも頻繁に登場する。訓民正音(ハングルについて解説した書物)の創製後、初めて韓国語の歌を記した『竜飛御天歌』の第1章は、「海東六竜が雄飛され、なす事すべてが天福であり」という言葉から始まる。恵慶宮洪氏の『閑中録』には、「美しく献身的なため、国の福だ」「言葉を慎んで家国の福をお磨きください」などの表現が出てくる。金万重(キム・マンジュン)の『謝氏南征記』にも、「良い人は福を受け…」といった言葉が多く登場する。宮中・両班・平民のすべての身分を越えて、「福」は韓国人の意識の奥底に存在しており、韓国文化の根底をなしている。

 言論人で学者でもある著者(蔚山大碩座(せきざ)教授〈寄付金によって研究活動を行えるよう大学の指定を受けた教授〉)は、「福を願う心」が韓国人の生に基本的な動機を与えていると主張する。韓国人の日常言語や文学作品などに見られる「福」に関する言説は、韓国人の価値観を再発見するカギだ。著者によると、韓国人にとって福は「寿」「富」「貴」「康寧」「多男子」を具体的に表しているという。すなわち韓国人にとって福とは、「金に恵まれ、高い官職に就き、子供を多く持ち、長生きすること」なのだ。

 このような福の思想は、明らかに現世主義、物欲主義、享楽主義、権勢主義の側面を持つ。しかし、「どうすれば福を享受できるのか」という方法論に立ち入ると、倫理的で道徳的な側面と向き合う。福を願う心は、現在の苦痛に耐え、節制する生活として現れるためだ。実際に、韓国人は福を得るために徳を積む生き方をしてきた。

 「福」の言説が今日の韓国人をどのように作り上げ、グローバル時代を生きる現在の韓国人にとってどのような含意があるのかについての説明が少ないのは残念だ。しかし、韓国人と韓国文化の特性を「福」というキーワードで解き明かす著者の叙述は、韓国人が持つ可能性と限界について考えるきっかけを与えてくれる。

李漢洙(イ・ハンス)記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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