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社説

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中国人民元―徐々に切り上げへ動け

 中国の人民元の為替相場をめぐって米国などが切り上げ圧力を強めている。中国は態度を硬化させているが、冷静に考えれば人民元を徐々に切り上げることは中国にとっても得策であることが見えてくる。

 人民元の対ドル相場は1ドル=6.83元のまま、1年8カ月も動きを止めている。中国の中央銀行が人民元を売ってドルを買う為替介入で押さえ込んでいるからだ。

 人為的に安くした人民元の力を借りた中国製品の輸出攻勢には、欧米から途上国まで反発の声をあげている。これに対し温家宝首相は最近の記者会見で「圧力をかけて強く(切り上げを)迫るのは貿易保護主義」と言い返した。そんな姿勢は「中国傲慢(ごうまん)論」のもとにもなっている。

 巨額の財政出動をてこに世界金融危機の影響から真っ先に抜け出し、高成長を回復した中国経済のエネルギーはすごい。その勢いに照らせば、人民元の切り上げで輸出品が高くなったり、輸入品が安くなったりする影響を吸収することは難しくない。

 中国はもっと介入の手を緩めてはどうか。2005年7月にいったん介入を緩和し人民元改革に踏み出してから3年間で対ドル相場は2割ほど上がった。その中でも中国は10%成長を続けた実績をみても、「元高恐怖症」にとらわれる必要はない。

 もちろん、自国の通貨が安いほうが輸出品の競争力を維持できるし、逆に輸入品は高くなるので中国企業や農家は助かる。社会の安定のために働き場所を守りたい気持ちは分かる。

 だが、「弱い元」がもたらす危うさも目につくようになっている。

 「元売りドル買い」の為替市場介入で、国内に人民元が必要以上に出回り、だぶついた資金が不動産に向かっている。2月には主要70都市で前年同月比10.7%も値上がりした。じわじわと物価も上がりつつある。過熱気味の経済を引き締めるために利上げをしても、その効果を打ち消してしまう。

 一方、元を切り上げて強くすれば、その利点も少なくない。外国から資源や技術を含む輸入品を安く買える。効率の悪い企業が生き残りをかけて革新に動く圧力にもなる。

 1985年のプラザ合意で日本は米国などに押されて円高をのみ、影響を打ち消そうとして内需拡大策がバブルを生んだ。その崩壊で長くデフレに苦しんできたことを考えると、中国がその轍(てつ)を踏みたくないと考えるのも当然ではある。

 だが、元高を怖がっていては、後でかえって急激な調整が必要になってしまう。それを避けるには、少しずつでも動かし始めたほうが長い目で見て中国にとっても得策ではないか。

 日本の経験を教訓にしてほしい。

大災害支援―国際体制づくりへの責任

 大規模な自然災害に国境はない。しかし、救援や復興の速度や質は、どの国が現場になったかによって大きく異なるのが現実だ。多くの助かるはずの人が犠牲になるという理不尽をなくすには、国際的な救援体制がカギだ。

 大地震で22万人を超す死者が出たハイチを岡田克也外相が訪れ、自衛隊の緊急援助出動などに続く新たな支援の用意を表明した。災害対策の先進国である日本は国境を越える協力体制作りにも積極的でありたい。

 ハイチ大地震の犠牲は、近年で最大級だった2004年12月のスマトラ沖地震さえ上回りそうな惨状だ。

 この大地震が示したのは、もともと統治機能が破綻(はたん)の瀬戸際にある脆弱(ぜいじゃく)国家や最貧国が大災害に襲われた時の悲惨さだ。直後にあったチリの地震より規模はずっと小さかったのに、はるかに大きな被害が出た。

 貧しくて防災対策が整えられていないうえ、あまり機能していなかった政府が地震で完全にまひしてしまった。このため、発生直後の被害状況の把握にすら手間取り、国際的な救援活動が後手後手に回るという混乱が目立った。

 また、現場が問題を抱えた国だった例としては、08年5月にサイクロンに襲われたミャンマーも挙げられる。政治的な理由で政府が外からの救援の受け入れを渋り、被害を深刻化させた。

 こうした問題を克服する上で、まず考えなければならないのは災害時の国連の役割だ。国連は、広域にわたる災害で国際社会の対応を主導する。だが、膨大な情報の収集や救援活動の調整に追われるあまり、迅速な決定ができない問題が指摘されてきた。担当部局を中心に機能の強化を本気で考えるべき時だろう。

 地域特性に応じた多国間の救援体制作りも大切だ。日本が今年の議長国となるアジア太平洋経済協力会議(APEC)は、大災害への対応の問題に力を入れる方針だ。日米中豪や東南アジア諸国でつくる東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)の参加国も、昨年から台風被害の共同救援演習を始めている。

 ならばさらに踏み込んで、こうした国々が大災害の多い地域の実情に通じた高い技量の専門救援チームを育成し、その情報も共有するような仕組みを考えてはどうか。多国間の枠組みを持つチームなら、政治的理由で他国からの援助を警戒しがちだった国も受け入れやすくなるはずだ。

 今年の主要8カ国(G8)首脳会合では脆弱国家への支援が重要議題になる。今月末には議長国カナダでG8外相会合、米ニューヨークでハイチ支援国会合が開かれる。岡田外相には、議論を主導するような意気込みで臨んでほしい。

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