水野教授は、鑑定書で「通訳人は発言内容を十分理解していない」と指摘。裁判員らの心証形成に影響を与えた可能性が大きいと結論づけた。
鑑定によると、たとえば、被告人質問で弁護人から「結果として覚せい剤を持ち込んでしまったことへの思い」を問われた際、被告は「I felt very bad」と答えたが、男性通訳人は「非常に深く反省しています」と訳した。水野教授は「心や気力が砕かれた状態をいう表現で、反省の弁ではない」と指摘する。
また、覚せい剤が入っていたスーツケースに知人女性が白い結晶入りの袋を詰めるのを見たと話していた被告が、検察官の質問に「nothing done with the suitcase」と述べた部分を、女性通訳人が「スーツケースには何の細工もされていなかった」とせずに、「スーツケースは空だった」と訳したのも文脈からすれば誤り、としている。
渡辺弁護士は「無罪主張の被告が急に反省の弁を述べたり、虚偽の説明をしたりしたように受け止められた恐れがある。被告が適正な裁判を受ける憲法上の権利を侵害されたのは明らかだ」と話す。
一方、法廷での通訳を長年務めてきたという担当通訳人の男性は取材に「通訳人2人のチームで臨み、最善を尽くした。裁判員と裁判官は、すべての証拠を総合的に判断したと理解している」と話している。大阪地裁の広報担当者は「個別の裁判に関してはコメントしない」としている。(阪本輝昭)