イラク戦争の開戦から20日で7年。兵士と民間人を合わせ10万人以上が犠牲になったとされる現地で、ジャーナリストの玉本英子さん(43)=大阪府豊能町=が10度目の長期取材を続けている。日本での関心は薄れつつあるが、「あの戦争を支持した日本人には結果を見届ける責任がある」と話す。
玉本さんはフリージャーナリスト集団「アジアプレス・インターナショナル」に所属。開戦前の2001年秋から、毎年約1〜2カ月の取材をバグダッドや北部クルド地域などで重ねてきた。今回は2月15日に入った。治安が比較的安定し、各地から避難民が殺到している北部クルド地域のアルビルを拠点に市民の生活ぶりを取材している。
アルビルにあるジャワヘリ小学校には避難民の子ども約900人が通う。6年生のハッサン・モハメド君(12)もその一人。自宅でじっくり話を聞くと笑顔が消え、ツメをかんで体を震わせ、大粒の涙を流し始めた。
「どうしてぼくたちがこんな目に遭うの」
肩を抱きすくめた母親(43)の説明ではハッサン君の父親は5年前、バグダッドの自宅前で2人組の男に射殺された。トラウマがふとした瞬間によみがえる。父親は治安機関の職員だったが、殺害された理由は今も不明だ。「この悲しみをどう乗り越えていけばいいのでしょう」。母親は嘆くばかりだった。
今月上旬には女子刑務所で収監者の話を聞いた。32人のうち14人が売春の罪に問われた女性で、その多くがテロなどで夫を奪われていた。夫が行方不明となり、売春で4人の子どもを育てていたという女性(30)は「ここを出ても私にはあの仕事しかないの」と、天を仰いだ。
故郷を離れた国内の避難民は約200万人と言われる。「心に深い傷を抱えたまま生活苦に直面している女性や子どもたちの姿は、戦争を境に社会や家族が崩壊したイラクの象徴。全土でどれだけの人びとが悲しみの中にいるのか想像すると、胸が痛い」と玉本さんは言う。