基礎認識上の大きな背景ギャップを埋めてしまいましょう!

 先ず、日本の常識/世界の非常識という話として本質部分のみ述べます。

 プライべート・バンキング・サービスの活用は口座を持つことが入口ですが、その目的が提供される「信託業務サービス」でない場合、意味のない行動と断定します。この「信託業務サービス」とは、資産の相続、事業継承等に、主に税制面でのアドバイスをしてもらうサービスを総称していますが、その際、基本的な実行手法として、オフショアに会社(法人=もう一人の人格)を作り、その株式をオフショア信託に持たせる等、必ず個別担当者が相対の上で、様々なスキームを駆使した節税対策(タックス・プランニング)を付加して行われることがあります。これらは何故、可能なのか。

 世界には現実に様々な国が存在します。それは即ち、異なる「ルール」の混在が容認されていることを意味しています。一例を示せば、国によって税率が異なることはその最たる例です。故に経済活動の成果を所得(収益)とすれば、所得には課税され、その課税は所有者に掛り、その際には、その所有者が居住する国が課税の徴収権を行使するということが国際ルールの基本です。つまり各国の税制を比較すれば、そこには明らかな差異があります。
 その上で、管理委託財産の
“財産権”を工夫(契約による分解)して、分散させ得ることが出来ると、全く同じ投資行動であっても、管理手法が違うだけで、可処分所得に違いが生ずることは誰でも判るでしょう。そして、それは机上の管理で可。

 この手法のベースには常に信託が位置付きます。

 ここで“信託=TRUST”を一言で説明することは難しいのですが、因みに広辞苑によれば信託(Trustとは、信用して委託すること。他人をして一定の目的に従い、財産の管理・処分をさせるため、その者に財産権を移すこと...とあります。
 
ある人(Aさん)が、他の人(Bさん)を信頼できる人と認めた上で、自身の所有財産を自らが認めたその人(Bさん)に譲渡し、自ら(Aさん)の指定した者((Cさん)又は(Aさん)自身)の利益のために管理を依頼すること。故に信託とは、財産の名義を他人に移転し
第三者のために管理してもらう仕組みと説明されますが、もっと掘り下げると他人のための財産管理制度ということです。
 昨今の私たち日本人は「他人のために」なんてことをいつしか忘れ去った..先ずは誤解の要因です。

 日本にも当然信託法は戦前からそのままあります。しかし、例えば民事信託活用なんていうと専門家でも誰もきいたこともないでしょう。だから日本国内に信託応用など皆無です。そこに“信託者=受益権者”という間違った認識が定着。法体系が異なる(日本は仏独〜大陸法、対する英米の体系は英〜慣習法)こともあり、固定した考え方が生まれてしまうのです。

 信託=TRUSTの歴史は中世の十字軍に遡り、当時の英国は度々バイキングの侵略にさらされ、その不安の中で、家族を残して長期出征する者たちが、教会へ後を託す..つまり、家族が生きるための田畑や家畜を教会に託し、教会のものを家族が専有使用しているという事実関係..家族を思い、命を賭す必要が絞り出した人知こそが「信託」の発端です。本来、日本人が一番理解できるはずの情状と、歴史の重みを無視して、何でも違法行為だの租税回避行為だのと論じる人がいますが、それはおそらく無知というものです。

 例えば1億円をスイスのプライブェート・バンキング口座に預金し、それを信託すると、どういう処理になるか?

 この場合、そもそも1億円はあなたが稼いだ可処分所得ですから、その絶対所有権をあなたが保持していることは当然です。「絶対所有権」とは、財産に対して「使用」「収益」「処分」という3つの権利をもっていることですから、預金した段階では、所有権者はあなたのままです。
 さて、これが信託されるとどう変わるのか。完全な所有権者は「スイスの銀行」となり、その中身に言及する権利は、信託者にさえ認められないわけですから、その後、受託者の管理処分権行使によるこの海外資産(預金)からの運用収益を誰(受益者)がいくら受けているかを把握することは困難なことに加え、 海外の金融機関に対する税務調査権も及ばない話なのです。ましてや1億円を何処かに隠したという話でもなく、スイスの銀行に信託したという正直な事実主張以外出来ない話ではありませんか。

 これを以って租税回避行為などと聞かれることにはうんざりします。

 因みに、1億円の国内資産を留保するためにどれほどの納税を経てきたかを試算してみるといいでしょう。生活するためのコストに掛る間接税負担も合わせたなら、おそらく、ほぼ同額くらいの納税実績を間違いなく積んできていることが判ることでしょう。

 上記の取引に関しては、信託者が日本の居住者、受託者がスイスの居住者(銀行=法人)となったとき、改正外為法に照らしても、資本取引に差額が生じないわけですから、渡益課税は絶対にあり得ません。そしてその後は課税徴収権がスイスにあることには説明の必要がないでしょう。

 では、その後の、この信託の受益権者が“もう一人のあなた”になっていて、その“もう一人のあなた”は何と税金を払わなくてもいい国(タックス・ヘイヴン)に住んでいたら..。因みに信託財産はドル預金に固定され、年間5.0%の金利を生んでいたとして、為替を固定して考えたなら年間約500万円を“もう一人のあなた(受益権者)”は受取り続けることになりますね。さてそのままで20年後を想定してみましょう。その時、もう一人のあなたは1億円を持つことになっていませんか?
 仮にその頃あなたが被相続人となってしまったとして、
当初の信託財産(1億円)は国内において相続対象となることは当然ですが、もう一人のあなたに相続の影響はあるのでしょうか..?実は、この類似ケースが昨今、海外資産の相続税回避行動として問題視(マーク)されています。

 それは、以上でかいつまんだ信託サービス手法を以って、自分自身で実質コントロールしたとみなされるケース。つまり自分で100%支配権を行使できる法人(タックスヘイヴン国等に設立)やその口座を承継した相続人に対する追徴課税が国内でも起きています。そして、今後は同様の行為は、その95%は間違いなく実質所得課税の原則から全て租税回避行為と断定されるでしょう。
 
そのポイントは1点。装っているか否かということです。自分で日本からコントロールする限り、申告義務が生ずる。実質所得者課税という徴収権にみとめられた裁量に従わざるをえないことを理解しなければなりません。

 前段の話と決定的に違うのは、プライベートバンキングに生ずる委託預金の先で、受託者たるスイスの銀行がどのような利益配分を管理する法律事務を行おうとも、あなたが支配しているなどの議論はあり得ません。当然その法人所得等への徴収権は当該法人の居住国が持つことにも疑問は生じません。実際、欧米の資産家は、長い間こんなサービスを享受してきました。そしてその枠組みにおいて資産を、時代や社会変化の中にあっても守り続けてきた対処実績こそが、スイスの誇りと信用です。

(2009.4)