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社説

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生方氏解任―幹事長室に風は通らない

 愚挙としか言いようがない。

 民主党が、生方幸夫副幹事長の解任を決めた。産経新聞に掲載されたインタビューで、生方氏が小沢一郎幹事長らを批判したからだという。しかし、解任までしなければならないような発言内容とは考えられない。

 生方氏は、小沢氏の政治資金の問題について「しかるべき場所できちんと説明するのが第一。それで国民の納得が得られなければ自ら進退を考えるしかない」と述べた。当然の見識だ。

 「民主党の運営はまさに中央集権です。今の民主党は権限と財源をどなたか一人が握っている」とも語った。

 皮肉まじりの辛口発言ではあるが、的外れな言いがかりではない。

 小沢氏が選挙の公認権と政党交付金などの配分権を握っているのは紛れもない事実だ。元秘書ら3人が逮捕・起訴されても、党内から小沢氏批判の声はなかなか上がらない。陰では「小沢独裁」への不満が高じているのにだ。

 解任の理由は、発言の中身というよりも、副幹事長職にありながら党外で執行部を批判した点にあるらしい。そこにいささかの傷を認めるにしても、処分の重さはいかにも均衡を欠く。

 生方氏はかねて幹事長室への権限集中に異を唱えてきた。小沢氏が廃止した政策調査会の復活をめざす会も立ち上げ、鳩山由紀夫首相や小沢氏に直接訴えてきた。

 それが気に障るから今回の挙に出たのだとすれば、常軌を逸している。「言論封殺」との批判を免れまい。

 首相も解任に同調しているようだ。内部からの批判を許容しない体質に、実は首相も染まっていたのだろうか。見識を疑う。

 生方氏解任を主導したのは、小沢氏に近い高嶋良充筆頭副幹事長だった。小沢氏は高嶋氏に「円満に解決できないのか」と語ったが、結局は「任せる」と応じたという。

 上に立つ者が考えを示さなくても、下の者がその意向を忖度(そんたく)し、成り代わって行動する。意に沿おうと思うあまり、度を越すことも多い。抜きんでた権力者と、その取り巻きがしばしば見せる典型的な「側近政治」である。

 それによって昨今の民主党は、風通しが悪く、暗い印象が強まるばかりだ。自由闊達(かったつ)を旨とする「民主党らしさ」はすっかり色あせた。

 かつて自民党全盛時代の幹事長室は多くの来客が自由に出入りし、「歩行者天国」と言われることすらあった。自民党でも幹事長をつとめた小沢氏がそれを知らないはずはない。しかし、いまさら氏に改心は期待できまい。

 党風を刷新するなら、内側からマグマが噴き上げてこなければならない。もう待ったなしのタイミングである。それができなければ、さしもの民主党への追い風もやむことだろう。

クロマグロ―資源保全へ議論引っ張れ

 高級なトロがとれるクロマグロ。日本の市場に出回るその量が半分になる事態は、なんとか回避できた。

 絶滅の恐れがあるとして、大西洋・地中海産の国際取引をワシントン条約によって禁止するよう求めていたモナコの提案が、カタールで開かれている条約締約国会議で退けられたからだ。予想外の大差だった。

 漁業の対象であるクロマグロを、シーラカンスやジュゴンと同列にワシントン条約の下で規制するのは適当ではない。科学的に資源管理しながら、利用していくべきだ。そういう日本の主張がアフリカやアジアの漁業国などの同調を得た。

 この海域のクロマグロはこれまで同様に、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)が漁業資源として管理していく。

 だが安閑としてはいられない。

 欧州連合(EU)や米国のように発言力の強いところがモナコ提案に共鳴した。大西洋や地中海のクロマグロが乱獲によって激減しているのは事実だ。これからも国際社会の厳しい視線が注がれるだろう。

 もし、ICCATの資源管理がうまく機能しないようだと、ワシントン条約による保護を求める国際世論が再び強まるに違いない。モナコ提案をICCAT体制に対するイエローカードとして受け止めねばなるまい。

 ことは大西洋や地中海のクロマグロだけの問題ではない。乱獲が続けば、太平洋のクロマグロやミナミマグロ、メバチマグロなど、他のマグロ類も規制すべきだという声が広がる恐れがあることを肝に銘じておきたい。

 ICCATは昨年、大西洋と地中海のクロマグロの漁獲量を4割ほど減らす方針を決めた。今後は、数量の規制をさらに強めるだけでなく、幼魚まで一網打尽にする巻き網漁の禁止を含む、思い切った資源管理策を打ち出してほしい。密漁、不正取引の監視や取り締まりの徹底も欠かせない。

 世界最大の消費国である日本には、科学的根拠に基づく規制の議論を引っ張っていく責任がこれまで以上にある。「不正に捕まえたマグロは輸入しない」といった毅然(きぜん)とした態度も求められよう。

 厳しい規制によって、クロマグロの刺し身やすしの値段が上がるかもしれないが、それは、マグロを食べ続けるための「必要経費」だと受け入れるべきではなかろうか。

 クロマグロに限らず、海の豊かな生態系を未来に残すためには、持続可能な漁業が求められる。

 それには「取る人」「買う人」「食べる人」がそれぞれ痛みを分かち合わないと実現できない。四方を海に囲まれ、その恵みを古くから利用してきた日本は、手本を世界に示したい。

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