Ragnarok Online - IF - どじっ娘アコシリーズ
第6話 『プリースト転職編』



「おいアコライト!さっさと起きろ。遅刻するぞ」
「ふぁ〜い・・・」
 いつもよりちょっと早い朝の時間に、私はお兄さんの怒鳴り声で起こされる。本当は私は朝が弱いんだけれど、これで起きないと今度はお兄さんからくすぐりの刑を受けるから、私は眠い目を擦りながらゆっくりとベッドから目を覚ます。

「今日はいつものように二度寝なんて荒技を使われたら一大事だからな――ここでしっかり見張っててやるから、さっさと支度しろ」
「私が着替えてるトコ、覗かないでよお兄さん・・・」
「あほか。お前みたいなお子様の着替えを見て、喜ぶヤツがいると思ってんのか」
「お兄さんひどいよ・・・むにゃむにゃ」
 眠気の半分覚めないまま、私はするすると着替えを済ませる。
「お兄さぁん、しゅっぱつの用意ができましたぁ・・・zzz」
「・・・よだれくらい拭いとけよ・・・」
 お兄さんが大きな溜め息をついていた。

 ――こうして私達は家の玄関を外に出る。
 今日は陽射しが眩しかった。ぽかぽかとしてて、すごく気持ちのいい陽気。見渡す限り雲ひとつない、澄みきった青空だった。
「とても清々しい朝ですねぇこういう日は――」
「――はしゃいでそこら辺を走り回るなよ?」
「え、どうして私の考えていた事がわかるんですか?」
「お前の行動パターンはお見通しだ・・・」



 ――そうしてお兄さんと私はプロンテラの大聖堂にやってきた。私の修行の成果が司教様に認められて、ついに今日、プリーストにクラスチェンジする為の試練を受けるコトになったわけだけれど。なんだかすごく緊張してる。私なんかに試練を乗り越えられるのかなぁ。

 と、私が試練のことで頭がいっぱいになっているときに、
「司教の親爺さんには悪いけどよ。やっぱりお前はプリーストよりモンクにクラスチェンジするべきなんだって」
 なんて言う物だから。私は思わずお兄さんを殴り飛ばしてしまっていた。

「・・・あ、阿修羅覇凰拳も顔負けの一撃だったぜアコライト・・・・・・がくり」
 その言葉を断末魔に残して、お兄さんは息絶えた。
 そんなお兄さんを放っておいたまま、私は大聖堂の中へと足を踏み入れていった。



「おっ、今日の主役のご登場だ」
「アコライトちゃんが転職するって噂を聞いたんで、臨時パーティをサボってやってきたぜ」
「オレもオレも! わたしもわたしも!」
「主のご加護がありますように・・・」
「お姉ちゃん。がんばってねぇ〜!」
「立派に試練を果たして来るのぢゃぞ」
「アコライト殿! 魔法協会を代表して応援にあがりました」
「我々騎士団も、テロ鎮圧の功労者である君の成功を願っているよ」
「私達プロンテラ市民も、あなたのご無事を心から応援させていただきます」

 ――大聖堂の中には、たくさんの人が私のクラスチェンジの為に集まってくれていた。
 臨時パーティで知り合った冒険者のみんな。いつの間にかハンターになっている私の妹。フェイヨンの長老さま。ゲフェン魔法協会の魔法士さん。プロンテラ騎士団のナイトさん。見ず知らずのプロンテラ市民の方々まで――
 みんな、暖かい目で私のクラスチェンジを応援しに来てくれている――嬉しくて、涙が出ちゃいそう――



「――それではプリーストとなるための試練を始める」
 司教様の声が、荘厳なこのプロンテラ大聖堂に響き渡った。
「アコライトよ。そなたに、プリーストとなるための覚悟はあるかな?」
「――はい」
 私はそのために、今までずっとがんばってきたんだ。
 プリーストになっても、私はもっともっとがんばろうと思う。
「よろしい。ならばそなた、見事この試練に打ち勝ってみせるがよい。大いなる主のご加護のあらん事を――」
 司教様がそう仰ると。
 突然私の足元が光りだし、そのままどこかに飛ばされてしまった。







 気がつくと、そこは何も見えない、真っ暗闇な場所だった。
「――ルアーフ!」
 私は修行の成果で覚えた光の魔法を唱えると、辺りが明るい光に照らされて、周りのものがハッキリと見えるようになる。

『そのまま先に進むが良い――』
 念話で司教様の声が聞こえる。
 私はその声にしたがって、目の前にある階段を降りていった。



 ――そこにはたくさんのお化けがいた。
 怒っている顔や泣いている顔、誰かを妬んでいる顔やうらんでいる顔。それぞれが色んな表情をしていた。だけどそれは、どれひとつとして明るい表情をしていなかった。
『彼等は人間の持つ、負の感情そのものじゃ――彼等を乗り越え、見事この回廊を通り抜けて見せよ』

 ごくり。さすがの私もこの試練には緊張感が走った。
 おばけそのものはゲフェンの事件以来、免疫が出来ちゃってるわけだけれど。

 長い長い回廊を歩く。
「助けて・・・苦しい・・・いやだ・・・違う・・・アコライトだ・・・許して・・・待ってくれ・・・許さない・・・未熟な娘が・・・ごめんなさい・・・」
 おばけ達が、私のそばでそんな言葉を繰り返し呟いていた。
 なんて哀しくて――そして、なんて後ろ向きな言葉の数々。しばらくの間はガマンできていたけど、それが段々と。
「オレタチを・・・無視・・・するな・・・」
 ぷっちーん。今のは切れた、完全に切れた。
 すっかり頭にきた私は、手に持つメイスに魔法の言葉を籠めると、それを地面に向かって思いっきり叩きつける。
「マグナムッ、ブレ〜イクッ!!」
 お兄さんから教えてもらったその技で、私はおばけ達をまとめて吹き飛ばす。
「あんた達いい加減にしなさいっ! たった一人の女の子によってたかって、苦しいとか助けてとか。いい歳したオトナが恥ずかしくないのっ? そういう言葉は、自分の力で何とかしてから言いなさいよっ!!」
 私の頭の上からぷんすかと蒸気を出しながら、残りの長い長い回廊を歩いていった。
『――――はぁ』
 その途中で、司教様が念話で溜め息をついているのが聞こえた――





『これが最後の試練となる――気を引き締めてかかるが良い――』

 回廊の奥にある階段を降りていくと、今度は道幅の広い一本道に出てきた。
 つまり、さらにこの奥に進めってコト?

『そなたの心を存分に見せてもらう――さあ、行くがよい』

 えぇええっ!? 私の心を見るですって? いくら司教様でもそんなコト・・・私はもう年頃の娘ですよ。いくら齢が離れていても、見せられる物とそうじゃない物がありますって――!!
『・・・・・・はぁぁ・・・・・・』
 また司教様の溜め息が聞こえる。私はしぶしぶ先に行くことにした。





“ククク――”
 ――しばらく進むと、目の前に赤い目をした剣士の人がいた。
 だけどちょっとだけ身体が透けてる。誰なんだろう?

“娘よ、プリーストとなる事を諦めよ――そうすれば、お前が一生かかっても使い切れないほどの金をやろう――”
 剣士の人は私にそんなコトを言ってきた。プリーストになる事をあきらめろ、ですって? だけどたくさんのお金が貰えるのならそれも良いかも――っていけないいけない。私はプリーストになりたいのよ。

“まだ決心がつかぬか? もう一度言う。お前が望むだけの金を――”
「本当の幸せはお金なんかじゃ買えないわ〜〜!!!」
 私は誘惑の言葉をかけてくる剣士の人をメイスで思いっきり殴り飛ばしてあげた。
 剣士の人はぴくぴくと身体を震わせながら、遠くの岩肌にめり込んでいた。



 ――またしばらく歩くと、今度は真っ黒なマントに身を包んだ大男が、ふわふわと浮かんでいた。
“娘よすぐに引き返せ――さもなくば貴様の命は無いものと知れ”
 初対面でいきなりこんな事を言ってくる大男。あんた暗すぎーっ! っていうか、いくら怖いからってそこから逃げていたら人生なんてやってられないでしょーがっっ!!!
“オォオオオ――!?”
 気がつけば、さっきの剣士の人みたいに思わず殴り飛ばしちゃってた。
 大男は剣士の人がめり込む近くの岩肌にめり込んでぴくぴくとしていた。



“アコライトの娘よ――とうとうここまで辿りついたようだな”
 今度は鎌をもった大きなヤギさんだった。いったい今度は何を言ってくるんですかーっ。
“そう急くでない娘よ――ひとつワシと契約をせよ。そうすれば、お前の本当の望み。支援プリーストとしての能力も強さも思いのままぞ”
 ぴくっ。ヤギさんの言葉にうっかり食指が動いてしまう。すっごく魅力的なお話。だけど。
「強いって言うのは自分でがんばるから、意味があるんだもん!」
“――そうか残念だ。ならばその芽が育たぬうちに魂を刈り取らなくてはなるまい――”
 そう答えると、ヤギさんは心からがっかりしたようにして、私に襲いかかろうとしてきた。けど遅いっ!!
 すぱこーん!!
 私はヤギさんに場外ホームランを放つ。
 ちょうどさっきの二人がめり込んでいる岩肌のあたりに、ヤギさんの身体は見事に突き刺さった。
「♪〜♪♪〜〜」
 私は子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、道の奥へと進んでいった。



“““わ、我々はこれまで数千年の歳月を生きてきたが――あのような修道士に出会ったのは初めてだ――”””



 そして私は、全ての試練を乗り越える――――







 ――目を覚ますと私は、プロンテラ大聖堂のさっきまでいた場所にいた。夢だったの?

「おめでとうアコライト君。きみは見事試練を乗り越える事ができたようだ」
 司教様の試練を乗り越えたと告げるお言葉に、大聖堂にいる全員が歓声を上げてくれた。

「やったなアコライトちゃん。いやこれからはプリーストちゃんかな?」
「ばんざーい! ばんざーい!」
「・・・主よ、この素晴らしきおぼし召しに感謝します」
「ひっく、ひっく、お姉ちゃぁん。プリーストになる夢が叶ってよかったねぇっ!!」
 妹は私の胸に飛び込んで嬉し涙を流してくれた。
 やだ、そんな顔をされると私まで泣きたくなってくるじゃない。
「ふぉふぉふぉ。姉妹そろってクラスチェンジを果たすとわ、幸先の良いことぢゃ」
「新たなプリースト殿の誕生に、魔法協会代表として感無量であります!」
「ふふふ。騎士団一同、君のさらなる精進に期待しているよ!」
「これで我がプロンテラの街も安泰です。ううう・・・本当によかった」

 みんなの祝福の言葉が、あたたかい声が、心にいっぱいしみこんで。とても嬉しかった。
 きっと、今日という日を忘れる事なんてないと思う。ありがとう、みんな。本当にありがとう――



「――それでは、プリースト拝命の儀を執り行う。新たなるプリーストの命を預かるものよ、前に」
 司教様にそう呼ばれると、私は新たに身に纏った聖衣で、司教様の前に出る。
「おお・・・綺麗だ」「すごく似合ってるよお姉ちゃ〜ん♪」
 後ろからそんな声も聞こえてきて、とても恥ずかしい。
 やがて司教様のお言葉が発せられる。
「そなたはここにアコライトとしての修行を終え、プリーストとしての生を歩む事となるが、しかし修行はこれで終わりではない。これからも、いやこれからだ、気持ちを新たにし、さらなる修行に励むが良い」
「――はいっ!!」
 私は精いっぱいの笑顔で、それに応えた。







 ――そして拝命の儀のあと。
 私のクラスチェンジを見に来てくれた人たちから、プレゼントとしてたくさんの“鈍器”をもらった。
 魔法のカードがいっぱい挿してある物とか。属性の石を練りこんで作ってある物とか。それはもう色々な“鈍器”のオンパレードだ。
 私は支援プリーストを目指しているのに、どうしてもらったプレゼントがみんな“鈍器”だったのかしら?
 頭にクエスチョンマークを浮かべながら大聖堂の外にでると、お兄さんが待っていてくれていた。
「おいアコ。これから打ち上げも兼ねてみんなで冒険に行くことになってるんだ。さっさと支度しろ」
「ひどーいっ、私はもうアコライトじゃありませんってばっ!!」
「うるさい。お前なんかまだアコで充分だ。このお子様が」
 プリーストになってもお兄さんは相変わらずだった。
 いつになったら私の事を認めてくれるようになるのだろうって思いながら。
 これからクラスチェンジの二次会みたいな催しで、駆けつけてくれた人達全員でどこかに冒険にいくみたいだった。

「――よし、ポータルの準備も出来てるぞ。まずはどこから行ってみたい?」
「じゃあねぇ、最初はここからっ!」
 お兄さんが開いた瞬間移動の魔法で、世界中あちこちを回っている。
 今日は疲れてヘトヘトになるまで、冒険者のみんなと一緒に冒険を楽しんでいた――

【…NEXT?】



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