Ragnarok Online - IF - どじっ娘アコシリーズ
第5話 『首都プロンテラ編』



 ゲフェンでの騒動も一段落し、私達は首都プロンテラへと歩いていた。

「親書も無事に手渡す事ができましたし、協会の人たちも大喜びでしたね」
「ま、あいつらにはひとつ貸しを与える事ができたわけだ。当分は協会もあまり大きな顔が出来ないだろうよ」
 そういえば、協会の人たちと話しているとき、お兄さんはずっと機嫌が悪いようにしてた。どうして?って聞くとお兄さんは“それはオトナの事情だから、お子様はそんな事をいちいち知らなくていい”って言ってくる。酷いよ私は子供なんかじゃないよ。アコライトの修行もいっぱいしたし、お料理やお化粧だってできるようになった! だからもう少しオトナの扱いをしてよ!
「むー!」
「おい、なんだなんだ」
 私はお兄さんの二の腕を強引にとって、腕組みをしてみせる。これが今の私に出来る、精いっぱいの“せのび”だ。
 それにしても、昨夜からずっと胸がどきどきしているの。頭の中もいつもお兄さんの事ばかり考えているし、私よりオトナのお兄さんなら、きっとその理由が分かるのかなぁ?
 こうしてお兄さんと腕組みをしながら歩いていると、なんだかほっとする――――




 ――と。私達が首都プロンテラの北門に差し掛かったときだった。なんだかいつもの街と様子がおかしい。
 なんだか嫌な予感がする。朱に染まる空。ところどころで煙が上がっている。プロンテラの街に、いったい何が――?

「――ちッ。アコライト、急ぐぞ!」
 お兄さんと私は大急ぎでプロンテラの街へと入っていった。
「な、なにこれ――」
 プロンテラの街の建物のあちこちに火の手が上がり、逃げ惑う人々。
 街中は大混乱だった。

「ハァアアア――」
 お兄さんの後ろ! 緑色の肌をした大男がやってきて、斧を振り上げていた。
「ふ・・・」
 けれどお兄さんは斧を素早い身のこなしでするりと避け、
「マイトスタッフ三点突きぃ!!」
 柄の長い杖で大男を素早く突くと、大男は何メートルも向こうへと吹き飛んでいった。
 そういえばお兄さんって、
「こう見えても俺は槍騎士を目指していた頃もあるんだぜ」
 って言っていた事もあったっけ。

「大聖堂の司教様が心配だ。アコ、先を急ごう!」
 私達は大聖堂へと急いだ。





「おぉ・・・お二人とも、無事に戻られましたか」
「・・んなコトはいい。街は一体どうなってるんだ?」
 司教様はご無事だったみたい。よかったぁ。
 見ると、大聖堂には緊急避難所として大勢の市民が詰め掛けていた。
 そこにはケガをしている人もたくさんいた。

 私達は司教様から街で何が起こったのかを聞いている。
 司教様がおっしゃるには、いきなり街にたくさんの魔物が現れた、っていうことみたい。
「統制はなく、出身さえバラバラな魔物どもの群れ――か」
 お兄さんは難しい顔をして考えている。
「となると――答えは1つか」
 そしてお兄さんは私のほうを振り返った。
「アコライト、街で“枝”をバラ蒔いているヤツを探すんだ」
 お兄さんがそういうと、私は司教様におじぎをして、大聖堂をあとにした。





「お兄さん、“枝”って何のことですか?」
「“古木の枝”だ。あれにちょこっと念を籠めて投げると、そこから魔物が召還される仕組みになってる。召還者の念が強ければ強いほど、強くて数多くの魔物を召還できるってわけだ」
 ??? 枝から魔物が生えてくる? ちんぷんかんぷんでよく分からない。
 私は首をかしげていた。
「はぁ・・・お前なんかに難しい話をした俺が馬鹿だった」
 お兄さんが大きく溜め息をつく。
 あーひどい!私は真剣になって考えているのに!
「しかし――これだけの数の魔物を召還できるヤツ。かなり手ごわい相手というコトになるな」
 街では既に、警備隊やプロンテラ騎士団や聖騎士団の方々、何人かの冒険者の人たちがいて、魔物達と戦っていた。

 私もお兄さんも、メイスと杖を手にして魔物達と戦っている。
「えいっ!えいっ!えいっ!」
 メイスを振るい、魔物達に一撃を加えていく。次々と倒れる魔物たち。
「・・・なぁアコライト。前から気になっていたんだが」
「はい? 何ですかお兄さん」
「お前の、どんな魔物でも一撃で倒せるって言うデタラメさ・・・どうにかならないのか?」
「???」
「いや、なんでもないんだ・・・」
 そう言ったお兄さんの背中は、なんだかとても寂しげだった。

 ――ふと。道の曲がり角から。
 誰かが枝のようなものを投げているところが見えた。
 気になった私は、その人影を追いかける事にした。

 速度増加をかけて、私は人影を追いかける。
 人影は枝をまいて私を止めようとするけれど、私のメイスの一撃に魔物達は吹き飛ばされていく。
 鎌を持った子ヤギさんだって。女王アリや女王バチだって。バッタやオオカミやクマの群れだって。黒い馬に乗った黒い騎士だって。
 私のメイスの一撃の前に敵はいないのよ! えっへん!



 ――そして私はプロンテラの街の中央。噴水のあるところまで人影を追い詰めた。とうとう観念したのかしら。
 と、人影が私のほうを振り向いた――それはエプロンドレスに身を包み、紫色でちょっと跳ねた感じの髪をした女の人だった。

「――本日は、当カプラサービスをご利用いただき、誠にありがとうございます」
 女の人はそういうと、私に向かって丁寧におじぎをしてくれる。
 カプラサービス――って確か、冒険者達が安心して冒険ができるようにって、色々な形で冒険のサポートをしてくれる組織・・・私もアコライトになりたての頃は、色々とお世話になってたっけ――
「――ときにアコライトさん。本日はどのようなご用命でしょうか――」
 けど、この人は私が知ってるカプラサービスとは違う。言っている事は同じだけれど、言葉に全然優しさや暖かさがない。
 とても事務的で、刺々しく、まるで機械のような――そんな雰囲気。

「――それでは少々強引ながら、速やかにご用件をお訊かせ願います――」

 私が何も話さないでいると、エプロンドレスのお姉さんは手に何十本もの枝を持ち、それを私の足元に向かって一度に投げた。枝は瞬く間に魔物の姿に変わり、私に襲い掛かる――けど、そんなの私のメイスの敵じゃなかった。



「貴女が、プロンテラの街にたくさんの枝をまいた犯人ね?」
 私はお姉さんにメイスを向け、お兄さん風にかっこよくポーズを決める。
「――いかにもその通りでございます」
 けれどお姉さんの表情は涼しげだった。
 ポーズはバッチリ決まったと思ったのに。何がいけなかったんだろ。

「――冒険者達のマナーは日に日に悪くなる一方です。自動人形の違法製造。相次ぐ不正。詐欺行為。合理性を追求するあまり、初心者や経験の浅い者を蔑ろにする行為。冒険者たちはそうした現状に疑心暗鬼となり、今度は自分達が同じく他の冒険者達を苦しめ続けるという悪循環・・・それらは、この私が到底許せるものではありませんでした」
 長々と続く、お姉さんの難しい話に、私の頭はけむりを吹き出し、パンクしそうになっていた。
 悪かったわね、私はどうせ頭が悪いわよ!
「・・・頭のよくない私にはよく分からない話だけれど。要するに、あれでしょ?」
 それでもがんばって考えて、私はカプラのお姉さんに言った。
「今度は貴女が。何の罪もない冒険者や街の人を苦しめる人になっちゃったっていうコトでしょ――?」
 そう、はっきりと言ってあげた。

「――そうとも言いますね。冒険者がみんな、あなたのような方ばかりだったら良かったのに」
 お姉さんは私の言葉にふっと顔を緩めると、私に向かってにっこりと笑顔を向けた。
 悔しいけどこのお姉さん、笑うとかなりキレイじゃん。
「けれど、もう遅いのです――」
 お姉さんはどこからか、一本の剣を取り出して私に切りかかってくる。
 わわっ、危ないっっ!!
「――解かりますか? 自動人形や不正行為を行っていると知りつつサービスを続けなければならなかった私の気持ちが? ――ハラスメントな視線で見られても、それでも笑顔を絶やす事は許されなかった! ――ただ嬉々と、黙々と、冒険者のルールを平気で破るような方々のお手伝いをしなければならなかった!!」
 泣きながら剣を振るうお姉さん。その言葉のひとつひとつに感情がむき出しになっていた。
 さっき大聖堂で司教様が貸してくださった盾のお陰で、お姉さんの剣を受け止める事ができている。
 お姉さんの振る剣の一撃が、すごく重くて、そして、どこか哀しかった。
「って、いい加減にしなさいよっ!!」
 私はメイスでお姉さんの剣を弾き飛ばす――
「まったく――そんなに悪いことをしているって解かっていたら、一言注意くらいできなかったの?」
「――――」
「目の前で悪いことをしている人がいて、それを見て見ぬ振りをするのが一番悪いわよ――」
 私は自分でも解からないくらい、お姉さんに向かって言葉を衝いていた。

「――これを避けきってください」
 お姉さんは両手を左右に広げると、そこから剣や槍、斧などの――何種類もの武器がふわりと浮かんで現れた。
 続いてお姉さんが手をかざし、それを私に向かって振り下ろす。

 するとたくさんの武器が一斉に、私をめがけて飛んできた。メイスや盾だけじゃ避けきれない――やばっ。小さかった頃からの記憶が走馬灯のように浮かんできそうだよ――私はその瞬間を覚悟して眼を閉じた。

 ――かかかっ!!!

 って、目を開けると、飛んできていた武器が全部地面に落ちてるじゃないですか。あれれ?
 気がつくと、私の目の前に蝶の仮面をつけたハンターの女の人が立っていた。
「お久しぶりね――可愛いアコライトさん」
「貴女は、フェイヨンで私を助けてくれた弓手さん!! ハンターだったんですね」
「ん・・・まぁね」
 その女の人に向かって私は。ありがとー、あの時は本当に助かったよーとか言っていた。
「あははー・・・」
 女の人はなぜか苦笑いをしていた。えーなんでなんで?
 そういえば、この女の人の笑い方の癖といい、
 憎たらしいくらい抜群のプロポーションといい、どこかで見たような気がするのよねー。
 ――まーいっか。いまはあのカプラのお姉さんのほうが先よ。

「あなたが例えどんな飛び道具で抵抗しようと、私の百発百中の弓矢が全てを射落とします。それともこの場でご自慢の枝を使われますか? 例えどんなに強いモンスターが召還されようと、このアコライトさんのメイスで一撃だと思いますけれど?」
 女の人が弓を番えてそういうと、カプラのお姉さんはがっくりと項垂れて、持っていた枝を捨てると両手を挙げて降参の意思を示していた。



「カプラサービス所属、デフォルテー嬢。“枝”の不正使用による騒乱罪および、多数の冒険者ならびに市民への殺人未遂の容疑により、その身柄を拘束する――」
「――――」

 カプラのお姉さんは、その後かけつけた騎士団の人たちに捕まり、そのまま連れて行かれてしまった――
 あたりを見ると、ハンターの女の人はいつの間にか姿を消していた。
 さっきのお礼を言いたかったのに。んー私も冒険者を続けていたら、きっとまたどこかで会えるでしょ。
 私は大聖堂へと戻っていった。







「――そうか。それはなんともやり切れねぇ話だったな」
 私はお兄さんにカプラサービスのお姉さんとの事を話していた。
「うん・・・」
「こう見えても俺は騎士団に多少顔が利くからよ。情状酌量を見て、少しは罪を軽くしてやってくれって頼んでみるわ」
 うつむく私にそう言って言葉をかけ、お兄さんは私の頭をぽんぽんと撫でてくれていた。

「ていうかなー・・・やっぱりお前の話を聞いているとだ」
 お兄さんが呆れたような顔で私を見る。何よ何よ、いきなりそんな目で。
「お前には支援より、殴りのほうが似合って――ごぶぁっ!!?」
 私はすかさずお兄さんに拳を突き上げ、世界を一周するくらいの勢いで殴り飛ばした。
 あぁ神様。こんな風に私を生んでくれてありがとう。はぁはぁと息を切らせながら、私はそう神様に感謝していた。


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