Ragnarok Online - IF - どじっ娘アコシリーズ
第1話 『臨時パーティ編』
私はアコライト。今日は臨時パーティを組む約束だったはずなのに。
待ち合わせ場所にしていた広場でそれらしい人たちに声をかけたら、何故かこうなってしまっていた。
「へへ、アコライトの姉ちゃん。初めまして」
「今日は色々とヨロシク頼むよ」
な、なんだかみなさんの様子がおかしい。こんなのあたし話に聞いてない。詐欺だ。
私は逃げようとする。だけど、いつの間にか私は裏通りの袋小路に追い詰められていた。
「折角出会えたんだ。お互い仲良くしよう? な?」
いやらしい目つきと手つきをしながら、男の人たちはジリジリと距離を詰める。あぁどうしようどうしよう。私の命運もここまでなのかしらねぇ教えて神様。
私のそんな心の叫びも空しく、男たちは意を決したように一斉に私に飛び掛ってきた。
「きゃ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
タイトルコール 【アコライトだもんっ!】
プロンテラ警備隊の詰所。ひと通りの取調べを受けた後、私が幼い頃からお世話になっているプリーストのお兄さん。
が、いつものように呆れ顔でやってくる。
さっき警備隊の人から受けとった金一封の入った布袋を見ながら、お兄さんはもう何度目だよ、って顔で私を見ていた。
「まさか、臨時パーティのメンバーとお尋ね者を間違えるなんてな・・・前もって顔写真や名前の入ったメモを渡していただろ?」
「あのぉーそれがー途中で人にぶつかったときに無くしてしまったみたいで・・・」
「はぁ・・・」
心底呆れられる。そしていつもの大きな溜め息だ。
さっき私を襲おうとしていた人達と、今日PTを組む予定だった人たちの写真を改めて見比べてみる。なるほどよく見ると顔つきが全然違う。
はぁぁ・・・・ またお兄さんからの溜め息が聞こえてきた。ぅぅこの空気が私には堪える・・・
「先方はカンカンになってたぞ。来るのが遅いーって」
「あうう・・・」
ごめんなさいごめんなさいっ!! 私ってなんてドジなのかしらっ。
「もう別のアコライトを雇ってPTを組んでしまったそうだ・・・そもそもお前にはアコライトとしての自覚が・・・って、ちゃんと話しは最後まで聞けよ!」
私は胸が苦しくなって、気がつけば席を立ち、今日パーティを組むはずだった人達に会うために走り出していた。
「速度増加っ!!」
修行の成果で覚えた加速の魔法。私は自分に速度増加を唱えると、煙を撒く勢いで約束だった待ち合わせの場所へと急いだ。
猛ダッシュで待ち合わせ場所へと走る私。道行く人みんなが私を振り返るけど、今はそんなことは気にしない。ひたすらダッシュ、ダッシュ、ダッシュ!
あの人たちはまだいるのかしら。私はただ、そのことだけを考えていた。
待ち合わせ場所だった場所に着いた。
相変わらず人で賑わってる。世界中から集まった冒険者達が、それぞれ仲間を求めて集う、冒険者の冒険のための社交場。
きょろきょろして、私はあの人たちを探す。って、いた。さっき写真で見た人たちと同じ顔。間違いない!
その人たちはもう旅支度を整え、出発しようとしているところだった。私がドジだったせいで、カンカンなんだろうなぁ・・・とにかく謝らなくっちゃ。
「あうーっ。待ってくださーいっ!!」
私は大声で呼び止めた。お叱りも冷笑も覚悟の上。
「おやおや、例のアコライトさんが漸くお出ましになりなさったw」
「ほらほら、こっちこっちーw」
私のことに気付いたパーティの人たちは、にやにやしながら私に手を振ってくれた。
はぁ、はぁ・・・
息も絶え絶えになって、私は申し訳なさそうに今日組むはずだったパーティの人たちの前にやってきた。
どうやってお詫びすればいいんだろ・・・あまりの情けなさに、私は言うべき言葉が見つからなかった。
「君が途中で来れなくなったって聞いて、新しく別のアコライトの娘を雇っちゃったんだけど、せっかくだから君も一緒にパーティに参加しない?」
けれど、みなさんは怒った風でもなく優しく私を迎えてくれた。
「はいっ。どうぞよろしくお願いしますっ!!」
「はいはいこちらこそw」
――そして。
「だから言ったじゃないか!この辺はまだあたし達には厳しいって!」
「そんなこと言ったって、迷い込んでしまったものは仕方ないじゃないかっ!!」
「今はモンスター殲滅に集中集中!」
どうもパーティが道を誤ってしまい、レベル帯の会わない狩場に迷い込んでしまったらしくて。それで今、大勢のモンスターに私達は襲われているみたい。
「もうっ!倒しても倒してもキリがなーいっ!!」
「ハンター!罠とアローシャワーで援護を!」
「OK!」
「アコライトちゃん。PT全員に支援よろしく!」
「あ、はいっ!!」
てきぱきと出される指示。私もアコライトとして、パーティのみなさんに支援魔法をかける。けれどほんの何回か魔法を使ったところで。
「SPが切れちゃった・・・」
「「「えええっ」」」
脱力したようなパーティのみなさんの顔。恥ずかしい。穴があったら入りたかった。
ごめんなさいごめんなさいっ!!
「って、アコライトちゃん。後ろっ!」「え・・・」
いつの間に。
後ろを振り向くと、数体のモンスターが私に急接近していた。一斉に鎌のような腕を振り上げて私に襲い掛かろうとしてる。
「あ、あぶないっ!!」
パーティのみんなが口々に叫んだ。私は。
どすっ。どかっ。ばきっ。
ぱたん。
「へ……」
すかさず取り出したメイスで一撃。続けて別の一体に一撃。また一撃。
モンスター達は呆気なくその場に倒れていた。
みなさんが私を見て呆れていたことに気づいたのはそれからしばらくしてからのこと――
「さすがアコライトちゃん。いざっていうときに頼れるね」
「あはは――」
あれからメイスを取り出した私は、他のモンスターにも殴りかかり。そのモンスターのすべてに一撃をくらわせる度、次々と音も無く沈んでいった。
気がつけば起きているモンスターは一体もいなくなっていて――
――その腕前を買われ、今私はパーティの前衛を任されていた。
「君がいれば、もっと高難度のダンジョンも攻略できそうな気がするな」
「うんうん」
――それは決して冗談ではなく、心底真顔でそんなことを言われていた。
ひどい、ひどすぎる。女の子に向かって言う台詞じゃないわ。
パーティの後衛にいる、私の代わりに雇われたって言うアコライトの女の子。さっきからずっとSPを切らさずに支援魔法をかけ続けていた・・・はぁ。
あの子を見ていると気がめいる。わたしはどうしてこんなに支援向きじゃないんだろうって。
「あっはっはっはっはっ」
臨時パーティが解散した後、お兄さんにさっきまでの事を話したら、案の定大笑いされた。ひどいよ私は真剣に悩んでいるのに。
「それはな、人間向き不向きって言うものがあるんだよ?」
向き不向き?
「お前は支援なんかより鈍器を持ってガンガン殴っていた方が性にあってるって」
めりっ。
「もう知らない」
なによなによこの無神経! 頭にきた私はお兄さんの顔に思いっきり拳を陥没させると、席を立った。
――ふん、何よ何よ結局何もわかってくれないんじゃない。
ひとりで修行するときにいつも来る場所で、私はメイスを片手に修行していた。
「がんばってもがんばっても、腕力ばっかり強くなる私の気持ちなんて、誰にもわからないのよーっ。ばかやろーっ」
メイスをぶんぶんと振り回しながら、私は心の叫びを声に出していた。
そうして頭がからっぽになるまで途方に暮れていると――
「助けてーっ」
――と。突然、悲鳴が聞こえてきた。
声のする方を見ると、剣士風の男の子がモンスターに追われていた。息を切らしながら必死に逃げているようだった。
よくみると怪我をしているみたい。ここは助けなきゃ!と、思い立つが先か、私は得意のメイスでモンスターに一撃を食らわせて倒すと、男の子にヒールの魔法をかけてあげた。
「ありがとう。おかげで助かったよ。さすがはアコライトだね」
男の子からお礼を言われる。でも素直に喜べない私がいる――
「はぁ・・・・・・」
「? どうしたの?」
私のついた溜め息に、男の子は心配して声をかけてくれる。
もう、こうなったらこの子に愚痴ってしまうことにした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「だから、私は頭もよくないし、殴ることしか能がありませんから」
「……なーんだ、君はそんなことで悩んでたんだ」
えっ。
そんなことってどういう意味だろう?
私はきょとんとした目で、男の子を見る。
「だってそうだろ。さっきのように誰かが困って助けを求めている時、笑顔でヒールをかけてくれる・・・そんな君は、充分立派なアコライトだと思うよ?」
その言葉を聞いて、私は救われた思いがした。
「うんっ!」
そして――
「さぁさぁ!泣く子も黙るメイス使い!殴りが得意なアコライトはいかがですかっ!!」
私はすっかり元気になり、殴りが得意なことを売りにして、道行く冒険者のお手伝いをしていた。
「はぁぁ・・・」
お兄さんはそんな私を見て、人知れず溜め息ばかりついていた……そうだ。