『MOONくらいしす。#13』
原作: MOON.RENEWAL ©Tactics/Nexton





 ――奥へと続く廊下は、まるで遊園地の立体迷路のようになっていて、お兄さんをあっという間に見失ってしまいまちた。

 うー、ここはどこでちゅか。
 仕方ないから、わたしは一人で歩くことにしたでちゅ。
 うろうろ、うろうろ、うろうろ…

 …

 …

 …

 その長く続く迷路の廊下を歩いていると、下の階に続いている階段を見つけまちた。
 深すぎて奥が見えないでちゅ。他に出口みたいな場所もないでちゅし。
 わたしは階段を降りていくことにしまちた。















 カツカツカツ――――

 その階段の道を、もうどれくらい降りていったところでちょうか。
 中は暗くてよく見えないでちゅ。
 光苔のような――淡く白くひかる輝きの線が、目の前の輪郭を照らしてくれるおかげで、何とか前を見て歩くことができるくらいでちゅ。
 蛍のような小さな光の粒々が、まるでおとぎ話に出てくる妖精のようにふわり、ふらりと舞っていまちた。





『70599』
 そう書かれた扉の前。階段はここで終わっていまちた。

 ゴゴゴゴゴ――――

 わたしが前に立つと、扉はひとりでに音を立てて開いていきまちゅ。
 そこにあったのは、一面のお花畑。
 その回りのあちこちには、よく分からない機械があちこちにありまちた。まるで宇宙船の中のような感じでちゅ。

『――よく来たな――』
 お花畑を歩いていると――そんな、心の中にずしりと響くような声が聞こえてきまちゅ。
 見上げると、真ん丸いものがそこに浮かんでいたのでちゅ。
 それはまるでお月様のようでちた。

『――我はMOON。太古より人間の行く末を観、干渉を及ぼしてきた。その力のゆえ、ある者には神と讃えられ、またある者には凶星
と忌み嫌われてきた存在――』
 そのお月様(みたいなもの)は、なんだかムズかしい事を言っていまちた。

『――されば我は世界のあらゆる物事を識る――さればここに辿り着きし求める者よ、汝は何を望むのだ――?』
 …言ってる意味がよく分からないけど、わたしはそのお月様(みたいなもの)に訊ねてみることにするのでちた。

「わたしのママをしりまちぇんか?」
『――母を求めるか――されば汝の求める心の証を我に――――』
 ……ママの手がかりが掴めるかもしれないと思った、その時でちた。



「見ツケタワヨ――――」
 由依ちゃんのお姉さんが、ぐったりとなった由依ちゃんを脇に抱えながら、わたしの後ろに現れたのでちゅ。
 とうとう逃げ切れなかったんでちゅね、由依ちゃん……
 お姉さんは由依ちゃんをお花畑に横たえさせると、わたしに向かって襲いかかってきたのでちた。

「わわっ、何をするんでちゅか!?」
「食ベ物ノ恨ミ、タバスコヲ食ワセタ恨ミ――」
 あややや。お姉さんは結構根に持つタイプの人だったみたいでちゅ。
 目を血走らせてわたしの方に向かってきまちゅ。
 そんなそんな、大人げないでちゅよ。

 ターン……
 ピストルを撃つ音――
 入ってきた扉の方を見ると、FARGOの巡回員の人達が大勢で自動小銃を構えながらやってきていまちた。
「ロストした娘はポイント70599に逃げ込みました! もはや追いつめたも同然です」
「よし、直ちにターゲットを確保しろ。生死は問わぬ」
「は!」

 ガガガガガガ――――
 声がしなくなると、銃声が一斉に鳴りだしまちゅ。
 機械に段々と弾の跡を作っていきまちゅ。
 お姉さんはそれをひょいひょいと躱していきながら、男の人達に向かって戦っているようでちた。
 その間、わたしは耳を塞いでその場に横になっていることしかできまちぇんでちた。

『やめろ人間達。これ以上争えば――』
 お月様(みたいなもの)が喧嘩を止めようとしていまちゅ。
 でもそれも虚しく――
 ぴしっ。
 銃の弾は、お月様(みたいなもの)に見事に命中。

『――NoooooooooooooooooH!!!!!!』
 そう大きく叫んだ後、お月様(みたいなもの)は、まるで風船に穴が開いたように小さくしぼんでいって、跡形もなく消えてしまいまちた。





 まるでご主人様を失ってしまったように建物が、ガラガラと音を立てて崩れだしまちゅ。

「……ちッ、退避だ総員退避ーー!!」
「待チナサイ――――」

 わたしは、さっき転んだときに足をケガしてしまったみたいで、動くことができまちぇん。
 由依ちゃんも倒れたまま目を覚まそうとしないでちゅ。
 肝心の由依ちゃんのお姉さんも、男の人達を追いかけて行ってしまいまちた。
 わたしはママに逢えないままこの短い人生を終えてしまうのでちょうか――
 意識が、だんだん遠くなっていきまちゅ……

「……やれやれ。世話が焼けますね……」
 気を失ってしまう直前、わたしと由依ちゃんを抱きかかえる葉子お姉さんの横顔が見えたような気がしまちた。
 その顔はどこか、微笑んでいるみたいでちた――――

















 ――結局ママはどこにも見つからないまま、FARGOの建物は壊滅したのでちた。
 目が覚めたのは、わたしが住んでいたお家のある街でちた。

 街を歩いていると、"FARGO第3支部"と書かれたトラックを見つけまちた。
 そこでは、『"第4支部"というところが壊滅したので、"フカシのチカラ"を求める若い女性を募集する。』 みたいな宣伝を出していまち
ゅ。
 FARGOって、あの建物以外にもいくつかあったんでちゅね。
 ママはひょっとしたらそこにいるのかもしれないと思い、わたしはトラックの中に乗り込むことにしまちた。
 ここがダメでも、また他の支部に潜り込めばいいんでちゅ。
 もし何か怖いことがあったとしても、わたしのこの美貌と運で切り抜けてみせまちゅ。

 かけがえのないママ。
 大好きなママ。
 いつかまた、ううん今度こそ絶対に!
 最愛のママに早く逢えるといいな、まる。





− 了 −


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