『MOONくらいしす。#12』
原作: MOON.RENEWAL ©Tactics/Nexton





「――何、ロスト体だとッ!!?」
「食堂からだッッ!!!」

 しばらくすると、そんな声で辺りが騒がしくなってまちた。
 廊下中には赤々とランプが光っていまちゅ。いったい何の騒ぎでちょうね。



「郁未ちゃん、逃げてっ!」
 由依ちゃんが言いながらこっちに向かって走ってきてまちゅ。更にその向こうには――
「オォオオオオ――――!!」
 目に怪しい光をともした由依ちゃんのお姉さんが、もの凄い顔で追いかけているみたいでちゅ。
「いったい何なんでちゅか〜!?」
「わからないよっ、気がついたらお姉ちゃんが突然ああなってて――」
「貴女タチ、待ツノヨ――――」
 わたし達は必死でC棟の中を逃げ回りまちた。でもお姉さんはわたし達を狙ってどんどん追いかけてきまちゅ。
 このままでは、いつか追いつかれてしまいまちゅ。
 ちょうど目の前にドアがありまちた。ここに逃げ込むのでちゅ!

 ばたん!!

 ……ふぃ〜。
 なんとかドアの中に逃げ込めまちた。これでひと安心でちゅね、由依ちゃん――って、
 あれ、由依ちゃんがいないでちゅ。まさかドアの向こうに置いて来ちゃったでちゅか…?
 がちゃがちゃ。
 あうっ、ドアが押しても引いてもどうしても開かないでちゅ。
 由依ちゃん大ピンチでちゅ。どうしまちょう。

「待チナサイ、ユイ。許サナイワ――――」
「うぐぅ助けて〜〜!!」
 ドアの向こうに残された二人の声は、段々と遠ざかっていきまちた。
 由依ちゃん、無事に逃げ切るんでちゅよ。わたしは心の中でそうささやかに祈るのでちた。











「ぐっへっへ…子猫ちゃん。こんな所で何をしているのかなぁ?」
 びくっ!
 聞いたことのある声。聞くだけで泡立ってくるこの鳥肌の感覚。
 まさか――
 恐る恐る振り向くと、そこには昨日にも見たあの下品な男がそこにいまちた。
 昨日と同じで、はぁはぁと息を切らせながら、わたしの方をじろじろと見ていまちゅ。

「昨日はB棟にいたはずの子猫ちゃんが、どうして今日はC棟なんかにいるのかなぁ? ひょっとして脱走なんか考えてないだろぉなァ…おい?」
 嗅ぐだけで毒に冒されてしまいそうな臭い息を撒き散らしながら、男はわたしに向かって歩いてきまちゅ。
 わたしは負けないように男に向き合いまちゅ。

「晴香お姉ちゃんが探してまちたよ?」
「あ"? 誰だそいつは? …いつの女だったっけなぁ――」
 こいつ最低でちゅ。こんな男の妹だなんて――晴香お姉さんは本当に可哀想でちゅ。



「まぁいいや。今は目の前にある果実をおいしくいただきましょうかね。ぐっへっへ――」

 下品な男がそう言って、わたしに襲いかかろうとしたとき、

 ――ごすっ!!
 鉄の棒のような物で頭を思いっきり殴りつける音が聞こえまちた。
 その場にばたり、と倒れる下品な男。
 そして男の後ろから誰かが現れると、組み手の要領で男の関節をあっさりと極めてしまいまちた。

「巳間っ!? てめえ――」
「高槻、やはり人間として許すことができなかった。貴様のような奴だけは。しかもこんな幼い子供にまで手を出そうとするとは――同じ男として哀しいぞ」
 その人は、昨日もわたしを助けてくれた、あのカッコイイお兄さんでちた。
 戦うお兄さんの姿も凛々しくて、見ていてクラクラしちゃいまちゅ。
「ぐっ――」
 高槻と呼ばれた下品な男は抵抗していまちゅが、ここはカッコイイお兄さんの方が一枚上手のようでちた。
 しっかり押さえ付けているために全然動くことができないようでちゅ。
 へへん、ざまーみろでちゅ。悪は必ず滅ぶものなんでちゅよ。





「――ところで君、いま"晴香"と言わなかったか?」
 不意にお兄さんから質問をされまちゅ。
 このお兄さんは確か、"巳間"って呼ばれてまちた。巳間…みま…
「君はひょっとして、義妹の巳間晴香を知っているのか?」
 そうでちゅ。
 晴香お姉さんのフルネームは確かそんな感じでちた――って、

「もしかしてお兄さん、晴香お姉さんを知っているんでちゅか?」
「俺の名は巳間良祐(みま りょうすけ)、晴香の義兄だ。…そうか、義妹はここに来ているのか」
 …う。
 どうやら、こっちが晴香お姉さんの本当のお兄さんだったみたいでちゅね。
 今までずっと勘違いしてまちた。
 よかった、あの下品な男がお兄さんじゃなくて。



「晴香お姉さんが、お兄さんのことを探してまちたよ?」
「…あぁ、まさか晴香がこんな所にまでやってくるとはな。すべては俺の責任だ――」
 お兄さんは思い詰めた顔をして落ち込んでしまいまちた。
 なんとか力になってあげたいでちゅ。

「――君、晴香は今どこにいるか知らないか?」
「確かB棟ってところで、お兄さんのことを探しているはずでちゅ」
「そうか、ありがとう」
 えへへ、お兄さんのお役に立てて私も嬉しいでちゅ。

「とりあえず俺は、義妹のところに行くことにしよう」
 そう言ってさっきまで呼吸器と関節を極めていた男を離すと、かっこいいお兄さんはどこかに行ってしまいまちた。
 高槻という男はピクリとも動かず、すっかりこときれているみたいでちた。
 わたしもお兄さんの後を付いていくことにしまちゅ。


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