『MOONくらいしす。#9』
原作: MOON.RENEWAL ©Tactics/Nexton





 ……途中で道が分かれてまちゅね。
 わたしはとりあえず、左の方に曲がって行くことにしまちゅ。
 道の奥にあったはしごを登ると、物置みたいな場所にたどり着きまちた。





 そのお部屋の外に出て、廊下を歩いていると……
「…あっ、郁未ちゃん?」
 目の前を由依ちゃんがどういうことか泣きながら、とぼとぼと歩いていまちた。
 由依ちゃんはわたしを見つけると、まるで元気を取り戻したようにこっちに向かって走ってくるのでちた。

「巡回員の人に見つかると大変だから、とにかく誰もいない部屋に入ろ?」
 ??? 由依ちゃんが言うので、とりあえず適当なお部屋に入ることにしまちた。



「…そうなんだ。郁未ちゃんはお母さんを捜すためにここに……」
「でちゅ。由依ちゃんはここで何をするためにやって来たんでちゅか?」
「…私はね、お姉ちゃんを捜すために、ここまでやってきたんだよ…」
 自分のお姉さんを探しに来たと言う由依ちゃん。
 だけどそれは、どこか力のない言葉でちた。
 トラックから降りたときにはあんなに明るかったのに、今の由依ちゃんの様子はどこか違っていまちた。
「このFARGOに入り込めば、お姉ちゃんの手がかりが掴めると思ったの、だけど……」
 由依ちゃんの声が、まるで沈んでいるようでちゅ。

「私のお姉ちゃんが、毎日あんな酷いことをされていたなんてっ!!」
 そこまで言うと由依ちゃんは、堰を切ったように泣き出してしまいまちた。
 いったい何があったというのでちょうか。
「んーと、由依ちゃんのお姉さんって、どんな人なんでちゅか?」
「…うん。この写真に写っている人だよ」
 由依ちゃんはそう言うと、一枚の写真を取り出してわたしに見せてくれまちた。
「あははっ。由依ちゃんのお姉さん、ほっぺを抓られてまちゅ」
「違う、その奥の女の人」
「……」
 写真には二人の女の人が写っていまちた。
 手前にいる由依ちゃんのほっぺを後ろから意地悪そうに抓っているのが、由依ちゃんのお姉さん。
 わたしのママには到底及びまちぇんが、綺麗な女の人でちゅ。

「友里(ゆり)お姉ちゃん…はやく逢いたいよぉ……」
「探しても見つからなかったんでちゅか?」
「…うん。このB棟をあちこち探し回ったけど、お姉ちゃんはどこにもいなかった。きっとC棟のどこかにいるんだと思う……」
 C棟…晴香お姉さんがいるはずの所でちゅね。ひょっとしたら、さっきの通路から行けるかも…
 こんな時間でちゅから、また明日行くことにしまちゅ。
「わたしも由依ちゃんのお姉さんを探してみまちゅ。何か分かったらお知らせしまちゅ」
「うん、ありがとう」

 そうして、わたしは由依ちゃんと別れたのでちた――――



 地下室につながっている物置に戻ろうとしたとき、不意に後ろから声をかけられまちた。
「…おやぁ? こんな所に見慣れないヤツがいるなぁ。どこかから迷い込んだ子猫ちゃんかな〜?」
 すごく下品な声。
 そこにはお医者さんごっこで遊んでいるような偽物のお医者さんを思わせる、そんな男の人がニヤニヤと笑いながら立っていまちゅ。
 とっても嫌な感じがぷんぷんしてまちた。
「ぐっへっへぇ……」
 とてもお酒臭くて、足腰もフラフラさせてまちゅ。耐えられなくなって、思わずわたしは大声を出していまちた。
「お前は誰でちゅか!?」
「オレ様は、このFARGOの選ばれし研究員様その人だぁ…文句あっか」
 FARGOの研究員…まさか、まさか。
 そんなわたしの予感もお構いなし、大声を出したにも関わらず男は、はぁはぁと息を切らせながらじりじりと近寄ってきまちゅ。
 これって恐ろしいでちゅ。かなり怖すぎでちゅ。ユメなら覚めてほしいでちゅ。

「お前絶対どこか怪しいなァ…オレ様のこの超弩級の頭脳が、ピリピリとそう伝えてくれているのさァ…どれ、何も怪しくないと言うのなら、ハッキリとオレ様にその認識番号を見せてみろォオオ……」
 男はわたしの腕を掴もうと、その小汚い手を伸ばしてきまちた。
 あうっ、絶体絶命のぴんちでちゅ!!

「よせ」
 するとその下品な男の奥の方から、すごくカッコイイお兄さんの声が聞こえてきまちた。

「その子は、俺が今日担当になったばかりの新入りだ。お前はいっさい手を出すな」
「あ? そんな話は聞いてねぇぞ?」
 そのお兄さんは研究員という人の側までやってくると、何か話をしているみたいでちゅ。
 よく見ると、すごくイケメンのお兄さん。流れるような線をした綺麗な目もとが、見ていてしびれちゃうでちゅ。
 水もしたたるいい男ってきっと、このお兄さんのことを言うんでちゅね。
「…チッ」
 下品な男は、わたしの顔を見てお決まりの捨て台詞を残すと、そのままどこかに行っちゃったでちゅ。

「大丈夫か?」
 そしてカッコイイお兄さんは、わたしの方を振り向いて話しかけてくれまちゅ。
「…見たところ君はClassAのようだな。どうやってB棟にやってきた?」
 お兄さんと視線が合いまちた。うぅ、その声もかっこ良すぎでちゅ。
「…まぁいい。俺があそこでやって来なかったら君は、今頃ただでは済まなかったというのに」

「ほら、今日のところは無事に帰してやるから、早く自分の部屋に戻れ」
「…今夜は帰りたくないんでちゅ」
「わがまま言うな」
 そう言って、お兄さんに無理矢理部屋まで連れ戻されまちた。
 強引なお兄さんでちゅ。

「……君を見ていると、義妹がまだ幼かった頃を思い出すよ」
 お兄さんが別れ際、何て言ったのかは聞き取れなかったけど、わたしは手を振ってお兄さんと別れまちた。





 ――わたしは自分の部屋に戻りまちた。

 困ったことに、ますます眠れなくなっちゃいまちた。
 さっきのお兄さんの顔が、目に焼き付いて離れないんでちゅ。
 素敵な男の人だったでちゅ。あんなかっこいい人といつも一緒にいられたら、きっと毎日がバラ色でちゅのに。
 それが人生6年目にしてこの天沢郁未が抱いた、甘くときめく初恋の瞬間だったのでちた。


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