『MOONくらいしす。#8』
原作: MOON.RENEWAL ©Tactics/Nexton





 ――食堂には、お昼にも会ったお姉さんが席に座ってまちた。
 見るとお姉さんは思い詰めた顔をしながら両手の指を忙しなく動かしてまちゅ。それはまるで、あやとりの手つきのようでちた。
 わたしは自分の分の食事を取り出すと、お姉さんの隣に腰掛けまちゅ。

「…おぉ〜」
 そのご飯のメニューはとても素晴らしい物でちた。
 "かいせきりょーり"と少しも見た目の変わらないメニューでちゅ。
 …くんくん。
 インスタントやレトルトも使ってないようでちゅね。
 あれは疲れてたり忙しくて料理を作りにくい時、簡単に食べるのには便利でちゅけど、身体の健康をちゃんと考えてから食べた方がいいでちゅ。
 食器もちゃんとした焼き物を使っていてとても綺麗。これなら合格点でちゅ!!

「いただきまーす」
 わたしはさっそくこの美味しそうな料理をいただくことにしまちた。
 この酢の物も、煮魚も、青菜の天ぷらも。
 文句のつけどころのない美味しさでちた。わたしがそうして舌鼓を打っていると……

「…解けたっ!」
 お姉さんはそう言って、両掌をテーブルの上に静かにおいてまちゅ。その顔はとても嬉しそうでちた。
「いったい何を解けたんでちゅか?」
「…いえ、何でもありません」
 私が質問すると、お姉さんは黙って恥ずかしそうに下を向いてしまいまちた。

「ところでお姉さんの名前は何でちゅか?」
 わたしが訊ねると、お姉さんは左手の裾を捲り上げようとしてやめ、わたしに名前を教えてくれまちた。
「…鹿沼葉子(かぬま ようこ)」
「わたしの名前は天沢郁未でちゅ。よろしくでちゅよ」
「…そうですか」

「………」
 葉子お姉さんは、わたしの顔をじろじろと見てまちた。
「…んに? わたしの顔に何かついてまちゅか?」
「いえ、別に何も…」
 わたしからの質問に、また視線を逸らす葉子お姉さん。
 ??? なんだかクエスチョンマークな気分でちゅ。

 黙々と、しばらくの間、食器の鳴る音だけが食堂に響いてまちた。

「それでは私はこれで…」
「あっ、ばいばいでちゅ」
 先に食べ終わったお姉さんはそれだけを言うと、席を立ち食器を片づけて食堂を出ていってしまいまちた。
 それを手をぶんぶんと振って見送るわたし。

「…ありがとう」
 葉子お姉さんが食堂を出ていくとき、最後にそう言っていた気がしまちた。



 ――たくさん食べれて、お腹いっぱいでちゅ。
 幸せを顔いっぱいに広げながらわたしは、最初に来たお部屋に戻りまちた。
 ドアをちょっとだけ開けて、中を隈なく見渡しまちゅ。
 きょろきょろ。きょろきょろ。

 …ふぃ〜。
 どうやら、あのへんたいお兄さんはいないみたいでちゅね。
 これなら安心でちゅね。
 良い子はおやすみなさいの時間でちゅ。
 お部屋に入ってシャワーを浴びるとわたしは、ベッドの上で眠ることにしまちた。

 …

 …

 …

 …眠れまちぇん。
 わたしはでりけーとだから、いつもお家で使っている枕じゃないと眠れないんでちゅ。
 そこでわたしは、取っておきのおまじないをかけてみることにしました。

 ひつじさんが1匹、ひつじさんが2匹、ひつじさんが――――

 あぅあぅ。ひつじさんを300匹数えても眠れないでちゅ。
 テレビで言っていたおまじないなのに、全然効果がないでちゅ。
 あのテレビの人は、本物の魔女じゃなかったんでちゅね。
 おのれ、いかさま詐欺師。ジャ■に訴えてあげまちゅ!

 …それにしてもでちゅ。
 このまま朝まで眠れなかったら、わたしのこの宝石のように煌めくお肌がカサカサになっちゃうでちゅ。
 道行きすれ違う男達の視線を釘付けにさせる、このビーナスのような魅惑的なボディラインが崩れちゃったりでもしたら。
 あぁ、どうしまちょう……

 がたっ。
 そうしてわたしが、明日にも世界の終わりが訪れるような顔で真剣に悩んでいると、お部屋の外から何か変な音がしまちた。
 何の音でちゅか…?



 ――部屋の外に出ると、その音はまだ聞こえてまちた。
 耳を澄ましてみると、音は廊下の奥の部屋にまで続いていたのでちた。

 がちゃっ。
 静かにドアを開けまちゅ。
 わたしのいた部屋とほとんど同じ造りをしてまちた。
 殺風景なコンクリートの壁と、その中に置いてあるベッド……

 ――んっ?
 わたしのお部屋とはどこか違っているところを見つけまちた。
 大人の人の身長ならきっと気がつかなかったと思いまちゅ。

 ベッドの下にある、鉄の扉……
 取っ手を引っ張ると扉は簡単に開きまちゅ。
 中を覗き込むと、はしごが降りていて、そこから道が続いているようでちた。
 まさにご都合主義の典型でちゅが、これを使わない手はありまちぇん。
 これで晴香お姉さん達に会えるかもしれまちぇんし、わたしはそのはしごを降りてみることにしまちた。


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