『MOONくらいしす。#7』
原作: MOON.RENEWAL ©Tactics/Nexton





『"これより、ELPODにおける第一段階を始める"』
 そしてわたしも食堂を出て、廊下にある"ELPOD"と書かれたドアを開けると、さっき入ったお部屋と似たような所に着きまちた。

「いったい何をするんでちゅか?」
『"これからお前の精神の強化を図る。真実に近づくための…な"』
「"しんじつ"って何でちゅか? それってウマイんでちゅか?」
『"…"』
 自分にとって都合の悪い質問をされると、すぐにダンマリでちゅか。
 なんだか、ここの人達ってそんな人達ばかりでちゅ。

『"…そこで何を見るかはお前次第だ。あくまで精神レベルの問題なのだからな"』

 ようやく返事が返ってきまちた。

『"…さあ、円陣の中央に立つが良い…"』

 気が乗らないでちゅけど、これもママに会うための試練みたいなものでちゅね。
 わたしはお部屋の真ん中にある光の上に立ちまちた。

 すると、ぱあっと光が強くなって、わたしを包み込みまちゅ。

 下から風が吹き上げてきて、スカートがひらひらと舞い踊ってまちゅ。服も光のせいで透き通って見えまちゅ。
 お願いだからこんな恥ずかしい演出はやめてくだちゃい!
 …わたしがそう思ったよりも先に、身体中からふっと力が抜けまちた。
 意識が、だんだん昏く深いところに落とされていきまちゅ。





 ふふ…
 ふふふふふ…

 今度は、真っ暗な闇が目の前に映りまちた。
 何も見えない…ところ?
 手を伸ばしても、どこにも手の届かない…広い、ところ。
 ふとどこかから、不気味な嗤い声が聞こえて、きまちゅ。

 くす、くすくす…

 響き渡る、声。
 聞こえるそれは、まるで、
 わたしの心の中まで、見られているような…
 なにもかも、向こうは全部知っているかのような…
 うにゅ…なんだかとっても怖い感じでちゅ。

 そういえば…
 この声って、どこか聴いたことがあるような…
 聞き慣れた声、いつも耳にしている声。
 わたしの声に良く似ているような気が……

 え……わたし!?



”ふふ、よく来たわね。初めまして…かしら?”
 すると性悪そうな顔の女が現れて、腕組みをしながらこっちを睨んでいまちゅ。

”とはいえわたしは、貴女のことをずっと近くで見てきたんだけど…”
 その女はわたしを見ると、くすくすと嗤い出しまちゅ。
「質問がありまちゅ! お前は誰でちゅか!?」
”わたしは貴女、貴女はわたし。言ってみれば貴女自身の分身、といった所かしら?”
 よく見ると、その女はわたしと同じ顔と髪、同じ身長と服装をしていまちゅね。首筋にあるほくろの場所、前に道端でうっかり転んで傷のできた膝小僧。なにから何までそっくりでちゅ。

”どう? これでわたしのことを理解してもらえたかしら?”
「わたしはお前みたいに、不貞(ふて)くされた顔はしていまちぇんよ!!」
”…この姿が、貴女の心の闇を映し出しているとしても?”
「わたしは、ママの言いつけをいつも守っている、とっても良い子ちゃんでちゅ!」
”(自分でそういうこと言うかしら、この子…)そういう貴女は、いつも自分が良い子みたいに振る舞ってはいるけど、本当はとても酷い女の子なのよね…”
 わたしは内心ギクリとしまちた。

「…どど、どうしてそんなことが言えるんでちゅか?」
”だってわたしは貴女のことを影からずっと見てきた。だから貴女のことはすべてお見通しなの”
 …何でちゅかこの女は。なんだか気味が悪いでちゅ。

”納得できないなら、自分の目ではっきりと確かめてくれば良いわ。貴女がいったいどんな女の子なのかを――”
 女がそう言うと、また目の前が真っ暗になっちゃいまちた。



 ――あれあれ? ここはお家の近くの公園でちゅ。

 お隣さんのかずき君と仲良くキャッチボールをしていた場所……
 確かにわたしは、前にこうして遊んでまちたけど……

「おーい、いくみー! 今からボールを投げるからな〜!」
 そんなことを気にする暇もなく、目の前で元気よくわたしの名前を呼んでくれたかずき君が、野球のボールを投げてきまちゅ。
 緩やかにカーブを描いたボールが、ゆっくりとわたしの方に向かってきまちゅ。

 ぱしっ。
 わたしはそれを、グローブでしっかりと受け止めまちゅ。
「おぉ、いいスジしてるなーいくみは」
「えへへ〜♪」
 その時かずき君に褒めてもらえたのが、とてもうれしかったんでちゅ。

「じゃあ今度は、わたしが投げまちゅよ〜?」
「おーし、どんと来い!」
 わたしは、かずき君にもっと褒めてもらいたくて、精いっぱいの力を込めてボールを投げまちた。
 ちょっと力が入り過ぎちゃったみたいで、ボールは変な方向に飛んでいっちゃいまちた。
「あ、やばいぞその方向は…」

 ――がっしゃーんっ!!

 投げたボールは、裏のおじいさんの家の窓ガラスを叩き割ってしまったのでちた。
 そこのおじいさんは、怒るとカミナリのように怒鳴り出すことから、別名"カミナリじいさん"とみんなの間でそう呼ばれてまちた。
「コラー!! ワシの家の窓ガラスを割ったのは誰じゃ〜〜!!!」
 案の定、カミナリのようなおじいさんの声がしまちた。
 そこで怖くなったわたしは、グローブをかずき君に向かって投げるとそのまま逃げ出してしまったのでちゅ。

 ……お空の色が暗く変わりだした頃。
 公園の中は伽藍と静まり返っていまちた。
 カミナリじいさんのお家をこっそり覗き込むと、かずき君がそこから出てくるところでちた。
 泣いてまちた、かずき君。
 頭の上には、いくつものたんこぶを付けて。
 しかもわたしは、かずき君に謝らないまま自分のお家に帰ってしまったのでちた――





”――ひどい子ね”
 気がつくと、目の前にはさっきの女の姿がありまちた。
”あの後、男の子は親御さんからもたっぷりと叱られたわ。貴女の代わりに罪を全部背負って…”
「………」
”泣いていたのよ、あの男の子。友達を置き去りに一人で逃げていった貴女には、到底分からないでしょうけど…”

「…ごめんでちゅ、ごめんでちゅ」
”ようやく分かり始めたみたいね。貴女がどんなにひどい女の子なのか…”
 わたしは自分がやってしまったことの重大さに気がついたのでちた。
 涙が止まらないでちゅ。
”何か言ってみたらどう? はじめの頃の元気はどこに行ったの?”
 ひっくひっく…
 わたしの中のなにもかもが、流れる涙でぐしゃぐしゃになっていまちた。

”くす…貴女が侵してきた悪行の数々。もっと見せてあげようかしら…?”

 うわーーーーんっっ!!!
 わたしは耳を両手で塞いで、ぶんぶんと頭を振っていまちた。
 何も聞きたくない! 何も言いたくない! 何も見たくない!
 これ以上何かを思い出してしまったら、わたしが壊れていってしまいそうでちゅ!!
 わたしはただ、泣きながらそこで蹲っていることしかできまちぇんでちた。

”なんだか、これ以上責めるのが可哀想になってきたわ…”
 女の姿がふっと消えた後も、しばらくの間わたしは泣き続けていまちた。
 かずき君、かずき君……



『"…これで、第一段階を終了する…"』

 ぼーっとした頭を起こすとそこは、"えるぽっど"とかいう変なお部屋の中でちた。
 変な感じがしたので頬の辺りに手をやると、なぜか涙で濡れていまちた。
 さっきまで、とても哀しい夢を見ていたような気がしまちゅ……

 …まぁいいでちゅ。
 イヤなことはさっさと忘れてしまうのが一番でちゅ。

 わたしは身体を起こすと、ご飯を食べるために食堂へと向かいまちた。


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