『MOONくらいしす。#2』
原作: MOON.RENEWAL ©Tactics/Nexton
――起きた時には、車の揺れは止まってまちた。
かわりにさっきのお姉さんが、わたしの体をゆさゆさと揺らしていまちゅ。
「ほら着いたわよ。さっさと起きなさい」
「むにゃむにゃ…もう遊園地に着いたんでちゅか?」
「んな訳あるかっ!」
いきなり大声で怒鳴りつけるお姉さん。わたしはでりけーとなのに、玉のようなお肌が荒れちゃうでちゅ。
こういうお姉さんのことを「がさつ女」って言うんでちゅ。
「…がさつで悪かったわね」
「な、どうして思っていたことがばれたんでちゅか!?」
「声に出てたわよ…」
はうっ、それはうかつでちた。
天沢郁未、人生6年最大の不覚でちゅ。
――車を降りると、そこは暗い建物の中でちた。
「ここはどこでちゅか?」
「…FARGOの隔離施設よ。あんたのお母さんもきっとここにいると思うわ」
「ママが! それでは行ってきまちゅ!!」
「…待ちなさい」
折角ママとの感動の再会を果たそうと走り出した矢先、襟首をネコさんのように掴まれまちた。わたしの足がばたばたと宙に浮かんでいまちゅ。
「はやる気持ちは分かるけどね。このだだっ広い施設のどこに会いたい人がいるかも分かんないでしょ? それにどんなやばいヤツがいるかも知れないのに、いきなりアタックを開始する馬鹿がいますか!?」
馬鹿って言われまちた。わたしの繊細な乙女心がぐさりと傷ついたでちゅ。
「おーよしよし。泣かない泣かない」
わたしがむーとしていると、今度は頭を撫でられまちた。
そんなに子供扱いしないでくだちゃい。思わずネコさんみたいな声をあげちゃいまちゅ。
ふにふに、ごろごろ、にゃあにゃあ。
「…とにかく。私達にもう1人、仲間ができたわよ」
「うに?」
「ほら、この子よ」
そう言うと、お姉さんの後ろから1人の女の子が出てきまちた。
「名倉由依(なくら ゆい)って言います。よろしくね♪」
「……」
わたしは、この由依という女の子が味方についてくれると聞いて、内心ほっとしまちた。
貧弱なお子様体型…どう見てもぺったんこ。
どうやらこれでわたしの主役の座は護られそうでちゅ。
えぐえぐ……
すると目の前の子供が突然泣きだしてしまいまちた。一体このお子様体型に何があったのでちょうか。
「あんただって充分お子様体型でしょうが…」
「お姉さん、ひょっとして"どくしんじゅつ"を使えるんでちゅか?」
「また声に出てたわよ…」
…うぐ、またしても人生の不覚でちゅ。
――私達がせっかく井戸端会議で盛り上がっていたのに、身体中を黒づくめの服装で包んだ男の人が割り込んできまちた。
その人はスーツにネクタイをした姿で、両手には手袋。頭には目と口に穴をあけた毛糸の帽子を首もとまですっぽりと覆った人でちゅ。それはまるで特撮ヒーロー番組に出てくる怪しい戦闘員さんのようでちた。
そこでふと、わたしの頭にはある疑問が浮かぶのでちた。
ここは晴香お姉さんの耳もとにそっと口を寄せてから、
「…お姉さん、質問がありまちゅ」
「なにかしら?」
「…ここって、悪の組織だったんでちゅか?」
「今ごろ気付いたんかい!!」
そう耳打ちして訊いてみまちたら、いきなりお姉さんが怒鳴り散らしまちた。
…なんだかそっち系のお姉さんだったみたいでちゅ。
怖すぎでちゅ。
「でも、なんだか胸がときめいてきちゃいまちた…」
「何にときめいているのよ、あんたは…」
「悪の組織に囚われの身になったママ…それを助け出す娘とその仲間達。…でもママは悪の組織に洗脳されていて娘のことを憶えていなかったんでちゅ」
「そして娘はお母さんに向かって何度も語りかけるんです。だけど肝心の記憶は戻らないの」
名倉由依もわたしの話に参加してきまちた。なかなかノリの良いヤツでちゅ。
「そして娘が一人前のモビルスーツ乗りへと成長したとき、母の乗った搭乗機を誤って最大出力のツインバスターライフルで撃ち抜いてしまうんです! それが敵の仕掛けた作戦だとも知らずに…」
「はうっ! それは悲しい結末でちゅ!」
「母は死の間際、その一瞬だけ娘が誰であったかを思い出します。だけどその時はもう既に、取り返しのつかないことに…」
「ママ、ママぁ……」
「…なんだか、話が妙な方向に吹き飛んでいるわね…」
「そして娘は最愛の肉親を失った哀しみを乗り越えて、母の残した記憶と意識でコンタクトを取り、月の光をパワーユニットに集めると、サテライトキャノンの一撃を悪の組織のアジトに向かって撃ち放つんです!!」
「!!!!!! 感動的でちゅ!!」
「…おーい2人とも、こっちに戻ってこーい」
晴香お姉さんが、なんだかわたし達の目の前でぶんぶんと手を振っていたみたいでちゅ。
ここは無視けてーいでちゅ。
「おいお前達、早くこっちに来ないか!」
「あ、すみません。あたしが先に行きます」
気がつくと、晴香お姉さんは男の人と一緒にどこかに連れて行かれてまちた。
お姉さんはその最期の瞬間まで、わたし達に向かってブツブツと言っていたみたいでちゅけど、何も聞かなかったことにしておきまちゅ。