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【正論】評論家・西部邁 国家を歯牙にかけぬ民意の堕落

2010.3.16 03:44
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 「自民党はだらしない」という批判がしきりである。しかし、そう難じる者たちも自民党の未来を本気で心配しているわけではない。自由民主主義の何たるべきかについて、真面目に考えることすらしていないのである。批判する資格のない者たちからかくも激しく叱(しか)られるところをみると、「自民党マイナス政権党はゼロ」ということかもしれない。

 ≪何を「再生」するのか≫

 自民党の内部から「保守再生」の声が挙がってはいる。だが、「保守」の意味が一向に明らかにされていないのだ。保守とは、自由のための秩序を国家の「歴史的」な規範に求め、平等の限界を国民の「歴史的」な公正感に見いだし、友愛に伴う偽善を国民の「歴史的」な節度によって防止する、という姿勢のことであろう。戦後の65年間、それら「歴史的なるもの」が破壊にまかされてきた。それを放置してきたのは、ほかならぬ自民党の責任である。

 いや、昭和期の自民党は歴史の慣性のようなものをひきずっていた。つまり、アメリカ流の自由(個人)民主主義の実行の仕方において、日本流がかろうじて生き長らえていたのである。しかし、平成期の世代交代につれて、その慣性も消え失せた。安倍元首相のように日本の歴史をよびもどそうとする指導者もいたが、小泉改革にみられたように、アプレゲール(大戦後派)による歴史破壊がほぼ完成したのである。「モダン(近代)」の原義は「モデル(模型)のモード(流行)」であるという趣旨で、平成改革という単純な模型が盛大に流行したわけだ。その騒がしい改革運動に自民党も迎合したのである。

 ≪社民主義が氾濫する≫

 アメリカ流の自民主義は自由の過剰としての無秩序を、格差の過剰としての差別を、競合の過剰としての弱肉強食をもたらした。それをみて日本の民主党は、アメリカの民主党と軌を一にし、社会(介入)民主主義を、つまり社民主義を標榜(ひょうぼう)した。平成改革を強く要求したその舌の根も乾かぬうちに、秩序回復、格差是正、友愛喚起を訴えるという二枚舌で、政権を奪取したのである。

 昭和期の自民党も社民的政策を推し進めていたのだが、そこには、無自覚にせよ、国柄保守の態度が何とか維持されていた。派閥や談合といった非公式の場において、少数派の立場にも配慮するという形で、国柄の持つ多面多層の性格を保持せんとしていた。しかし、「改革」がその国柄をついに破砕したのである。その結果、アメリカ主流の自由民主主義とその反主流の社民主義という、ともに歴史感覚の乏しい政治理念のあいだの代理闘争がこの列島で演じられる仕儀となった。

 かかる状況に切り込まずに保守再生をいうのはお笑い種でしかない。必要なのは「保守誕生」ではないのか。日本国憲法は社民主義のマニフェストにすぎないこと、自民党の旧綱領は社民主義へのアンチテーゼにとどまっていたこと、平成改革は国柄喪失の自民主義に突っ走っていたこと、そうした事柄を全面的に省察するのが保守誕生ということである。

 あと3年半は、政権から遠く離れた自民党にとって、保守の国民運動を繰り広げるのに絶好の機会ではないのか。多くの国民も、内心ひそかに、自分らの国柄が米中両国に挟み撃ちされている危機的様子に気づいて、保守誕生を待望していると思われる。

 ≪腐敗していく民衆政治≫

 自民党を怯(おび)えさせ、また民主党を高ぶらせているのは「数の論理」である。「民主主義は多数決だ」(小沢一郎民主党幹事長)という猛々(たけだけ)しい言葉の前で自民党は萎縮(いしゅく)している。しかし、この文句はデモクラシー(民衆政治)の腐敗の明らかな兆候なのだ。

 なるほど、民衆政治は「多数参加の下での多数決制」という数の制度である。しかし、これから正が出るか邪が出るかは、「民意」なるものが優等か劣等かによる。たとえば、議会での議論が必要なのは、民意によって選ばれた多数派の政権も、フォリビリティ(可謬性つまり間違いを犯す可能性)を免れえないからだ。またたとえば、ほとんどすべての独裁が民意によって、換言すると民衆政治を民衆自身が否定することによって、生み出されもした。こういうものにすぎぬ民衆政治を民主主義の理念にまで昇格させたのは、自民主義にせよ社民主義にせよ、近代の理念における錯誤だらけの模型であり流行である。

 デモクラティズム(民主主義)は民衆という多数者に「主権」ありとする。主権とは「崇高、絶対、無制限の権利」のことである。ただし、民衆が「国民」であるならば、国家の歴史に秘められている英知のことをさして、主権という修辞を与えることも許されよう。しかし、平成列島人のように国家のことを歯牙(しが)にもかけない単なる人民の民意に主権を見いだすのは、民衆政治の堕落にすぎない。これから誕生する保守の最初の仕事は、民主主義を国民政治への最大の敵と見定めることであろう。(にしべ すすむ)

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