Ragnarok Online - IF - どじっ娘アコシリーズ
第3話 『東方の街フェイヨン編』



 お兄さんと私はフェイヨンという東方の街に来ていた。そこは見渡す限り自然の緑に囲まれた場所。
 空気がとてもおいしい。こういうところで森林浴なんてやったら気持ちが良さそうだ。

「お姉ちゃん。いらっしゃ〜い」
「おひさしぶり〜」
 街に入ると、私の妹と長老さまが出迎えてくれた。妹はハンターを目指してがんばっている。あれから弓の腕前も上達し、今では立派な弓手の一員となっていた。
「それにしても大きくなったなぁアーチャーちゃん」
「おかげさまで。フェイヨンのみなさんもとても良くして下さるから、私もがんばりがいがあります」
「この子わ、フェイヨン1の誇りぢゃよ。ふぉふぉふぉ・・・」
「もうっ。長老さまったら・・・」
 そうなのよ。妹は昔っから頭が良くて、手先の器用な子だったわ。スタイルも良くて、性格だってお淑やかだしさ。
「どこかの馬鹿とは大違いの、よく出来た妹だよな」
 お兄さんがこれみよがしに私に言ってくる。うーっとても気にしているのに!
「まぁまぁ。プリのお兄さんも相変わらずなんですから。とりあえず長旅で疲れた身体を休めていってよお姉ちゃん」

「いやぁ〜こうやって温泉に浸かっていると生き返りますねぇ〜」
「くすくす。なんだか言い方がおじさんみたいだよ。お姉ちゃん」
 私と妹はフェイヨンの秘湯と呼ばれる温泉でゆったりとくつろいでいた。あぁ極楽極楽。これぞ東方の神秘ってヤツね。本当、生きててよかったぁ〜と思える瞬間。

「魔物が出たぞ〜〜〜〜〜〜!!!!」

 ゆでだこになるくらい温泉に入っていたら、仕切りの外からそんな大声が聞こえてきた。魔物!?
 私と妹は大慌てになって服を着た。



 メイスを持って温泉から出ると目の前には――
「がるるるる・・・」
 一匹の巨大な虎の姿と。
「い、いや――」
 その足元で倒れている、お兄さんの姿があった。一瞬、頭の中が真っ白になる。
「――――あぁあああ!!!」
 私は何もかも分からなくなって、気がつけば巨大な虎をメイスの一撃で吹き飛ばし、そのまま動かないお兄さんの前で泣き叫んでいた――――





「――幸い、命わ取り留めたようぢゃ」
 長老さまが、お兄さんを屋敷へと運び込むと、手当てをしてくれたみたい。
 生きてるって聞いてよかったぁ。だけどさっきからずっと目の前が滲んで、お兄さんの顔を見られないよう。
「――しかし!」
 そこで長老さまは突然思いつめたような口調になる。
 妹が言うには、今にもこの世の終わりを予言するような人の目だったらしいわ。
「この若いのが意識を取り戻すにわ――このフェイヨンの奥地に咲くと言われる“幻想の華”が必要なんぢゃあああ!!!」





 そして私は、妹と一緒にフェイヨンの離れにある洞窟へとやってきた。
「お姉ちゃん。ここから先は魔物がたくさん出てくるよ。気を引き締めていこ」

 洞窟へと入る――洞窟の中は意外と明るくて、奥までくっきりと見える。
「輝苔ね、この洞窟にはいっぱい生えてるの」

「お姉ちゃん!魔物が近づかれないように牽制をお願い!」
「おっけー!」
 フェイヨンの魔物は手ごわかった。次から次へとやってくる。けれどやって来るほとんどがアンデッドの属性だったから。
 私のヒール砲も少しは役にたったみたい。私はメイスを振り回し、魔物を牽制しながら妹に支援の魔法をかける。妹は魔物と一定の距離を取り、弓矢で応戦している。その動きには全然無駄がなくて、見とれるくらいとても正確。魔物をどんどんやっつけていく。
 この子も、いつの間にかこんなに立派に成長していたんだ。


「――ふぅ。着いたね。あそこに生えているのがきっと“幻想の華”だよ」
 私達は洞窟の最深部。小さな丘の上に咲く、一輪の光り輝く花を見つけた。“幻想の華”っていうだけあってそれは、見つめているだけでうっとりしてしまいそうなくらい、とてもキレイな花だった。
 さっそく私は、“幻想の華”を摘もうとした。だけど目の前で突然。

「――あれ?」
 目の前にあった“幻想の華”が消えていた。あれれ?
「お姉ちゃん!前!」
 妹に言われて私は目の前を見あげる。そこには狐の毛皮を着た女の子が、“幻想の華”を持って立っていた。
「ウォルヤファ――この洞窟に棲む、いたずら妖怪よ!つかまえなきゃ!」
 私がはっとした途端。妹がウォルヤファという女の子はぴょん!と飛び上がり、花を持ったまま逃げていった。

「追いかけましょ!」
 妹が言うと、私もウォルヤファを追いかけていった。

「はぁ、はぁ、はぁ――」
 私と妹が思いっきり走っても、全然追いつけない。あの女の子、足速いよ――こうなったら!
「速度増加っ×2!!」
 私は自分と妹に加速の魔法をかける。これなら追いつけるはずよ。ダッシュダッシュ!

「つ〜かまえたっ!!」
 わたしはウォルヤファに追いつき、後ろから思いっきり抱きとめた。その途端ぼんっ!と煙のようなものが立ち、大きな丸太になってしまった。あれれれ?? ウォルヤファはもう別のところにいて、あっかんべ〜をしていた。む〜悔しいっ!!
「――えいっ!!」
 続いて妹がウォルヤファにスライディングをかける。それもひょいっと躱されてしまった。
 それからも、しばらく私達の追いかけっこは続いた。今度こそ捕まえた!と思ったら、次は仲間の狐にパスしたり。妹と協力して狐を捕まえても、今度は嫌ってくらいに仲間を呼んでみたり。

「っく。ふぇぇ――」
 いくら追いかけても捕まらない女の子に、私はがっくりと膝をついていた。
「その“幻想の華”がないと――私のお兄さんが目を覚まさなくなっちゃう――」
 涙が止まらなかった。その花がなかったら、お兄さんが、お兄さんが――

「お願い――その花を、私達に譲ってよ――」

「・・・・・・」



 二人が花を諦めたと思って。ウォルヤファは丘の木蔭でうしししし。としたり顔で笑っていた。

 ――すとっ。

 ウォルヤファのすぐ横で、一本の矢が掠める。それはびぃんと、背をもたれていた木に突き立っていた。
「??」
 ウォルヤファは立ち上がり、辺りをきょろきょろと見渡す。けれど誰もいる気配がない。
「???」
 訳のわからない、と言いたそうにして、ウォルヤファは自分の巣へと帰ろうとした。

 ――すとすとっ。

「!?」
 今度は足元に二本の矢が突き刺さる。これには流石に驚いたようだった。慌てて逃げようとする。

 ――すとすとすとっ。

 まるでその動きを読んでいるかのように矢が飛んでくる。「!!!!!」びっくりして飛び上がった。
「――ちょっと、おイタが過ぎたみたいね」
 涼やかで、凛とした声が洞窟に響く――現れたのは、女性の人影だった。
「さあ、その華を渡してもらえるかしら?」
 女性はにっこりと笑うと、これが最後通牒よ、という眼でウォルヤファを見る。
 びくびくと怯え、ウォルヤファは手にしていた“幻想の華”を女性に手渡した。
「よしよし、いい子ね――」
 まるで泣いている赤子をあやす様に、女性はウォルヤファの頭を撫でていた。



「ひっく、お兄さんが、お兄さんがぁ――」
 どうすることもできない。どんなにがんばっても、あの女の子を捕まえられない。“幻想の華”は、きっと手に入らない。
 そのせいで、お兄さんは――

 と。いつの間にそこにいたんだろう。目の前には、蝶ちょみたいな形をした仮面をつけた女の人が――いた。
 逆光で、よく見えない――
「すぐそこで拾ったの。私には要らない物だから貴女にあげるわ」
 それだけを言い残して、女の人はいなくなった。私の手には、一輪の“幻想の華”が握られていた――



 ――しばらくして、妹が戻ってきた。
「お姉ちゃん。ごめん、私じゃあの子を捕まえられなかったよ――」
 妹は息を切らせながら、とても残念そうに言った。
「あれ?お姉ちゃん、その手に持っている花って・・・?」
「あ、うん。さっきすごく親切な女の人がやってきて、私にあげるって言ってくれたの」
「ふふ・・・そっか、よかったじゃないお姉ちゃん♪」





 ――そして私達が、フェイヨンの街に戻ってきたら。
「へへへー、今日はいつもより多く廻っております!」
 お兄さんがそれはもう、とても元気そうに宴会芸をしていた。
「これ・・・どういうことなの?」
 半分呆れ顔で私が訪ねる。妹はその後ろであははーと苦笑いをしていた。

「実はな――かくかくじかじか・・・だったんだよ」
「え――――っっっ!!!!」
 私は屋根が抜けるような大声を上げていた。だって、だって――
「若いのわの、本当は虎にわ襲われずに死んだ振りをしていただけだったんぢゃよ」
 私を、試すために――
「“幻想の華”って話は真っ赤なウソで、お前がどこまで頑張れるか確かめたかったんだよ」
 そう――私はこの人に騙されていたんだ。何のために泣いたりまでして――

「いや〜ぁ、本当に悪い! だがこれも、お前の修行の為を思ってな? 一芝居打たせてもらったんだって!」
「――――か・・・」」
「あ? 何がどうしたって?」
「ばか〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!!」
 私は神の祝福を乗せ、全身全霊をこめて放った拳で、お兄さんを遙か上空まで殴り飛ばしていた。



 ――そして。
「アコライト〜・・・いい加減に機嫌を直してくれよぉぉ」
「知らない!」
 お医者さんから全治2ヶ月の重傷って診断されたお兄さんが、今度こそ本当にフェイヨンの床で深く寝込みながら。うーうーとうなっていた。


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