野音を若者でいっぱいにする男
【この人に聞きたい】今年、結成26年目を迎える、4人組のアラフォーロックバンド「怒髪天」が、10代の若者や働き盛りのサラリーマンなど幅広い層から熱狂的な支持を集めている。去年のツアーはすべて公演が即刻ソールドアウト。労働をテーマにし「聴く蟹工船」とまで称される彼らの音楽に込められた思いとは何なのか。ボーカリストの増子直純(43)を直撃した。
アラフォーロックが込めた思い
――3月3日に新アルバム「オトナマイト・ダンディー」が発売された
増子 ハードコアバンドから始まったんで「大人を信じるな、つまんねえ」と歌ってきた。でも、刷り込みで大人を実際は分かってなかった。いざなったら楽しいし、なんで大人って楽しいと言わねえのかなって。絶対に言ってやろうと思って、アルバムを作った。
――大人が聴く曲がなくなっている
増子 みんな大人になる前にバンドをやめちゃってるんで、生き残った俺らがちゃんと言わないと。自分らが40(歳)超えたいい大人なんで、日常を切り取れば、それがリアルに伝える曲になる。
――伝えるものとは
増子 よく応援歌的と言われるんだけど、頑張れとは言わない。頑張ってるのを見たら、あいつがやってるなら俺もやったろうかと思うでしょ。オリンピックで(浅田)真央ちゃんはみんなに頑張れなんて言わない。頑張る姿でそう思うんだから。
――最近の音楽シーンにもない
増子 恋愛ものとかファンタジーな曲ばっかりでしょ。20歳前半を過ぎたら、恋愛ばかりで暮らせない。会社をクビになるよ。キチンと自分の仕事なり、人生と向き合っていかないと。どうしてあんな浮かれた曲ばかり作れんのかな。
――確かに
増子 それにまじめな恋愛を歌ってるお姉ちゃんが半裸の格好してるとか意味分からない。あと、演奏には関係ない人がメンバーにいたり。こんなにメンバーいらねえんじゃねというのもあるでしょ。固有名詞は避けるけど、アレで売ったりするから信じられないよ。
――日本の音楽では求められるものが違う
増子 音楽は生活に密着したもん。俺らの曲はリズム&演歌。演歌って酒や涙の曲があるけど、ロックになんで演歌がなかったのかなと。だから、ガンガン作ってやろうと思ってる。日本の音楽業界って洋楽至上主義で、洋楽を早く輸入してパクるかに終始しちゃってる。曲の元ネタを聴くと、ガッカリすることも多いよ。そういうもんじゃないものを作りたいなと。
俺たちゃどのバンドより働いてきた
――社会で働く世代に受けている
増子 音楽雑誌を見ても、どのバンドより間違いなく働いてきた。工事現場や包丁の実演販売とか。職種も年数も。働きながら、バンドを続けていこうと思ってたから。
――1991年にデビューしたが、96年に一時活動を休止した
増子 3年間、休止したのはバンド村から出たことなかったんで、しっかり働いてみようと。そしたらすごい人がいっぱいいた。稼いだ金を飲み代で全部使って、次の日の朝6時に現場にしっかり来るとか、実演販売では口だけで売るたくましさがある。人間の持つすごみを知ったし、20歳そこそこのバンドではとらえきれないと俺は思ってる。
――10代がライブに詰め掛ける理由は
増子 リアルさじゃないかな。本来、ロックは生活に向き合った血肉の通ったものが入ってる。演歌と言ったけど、日本人の心には演歌の心意気が絶対にある。失恋したら北へ行くみたいな。ロックが日本らしさを度外視して始まってる。
ハイスタ横山くんとも一緒に働いた
――ここまでくるには苦労も多かった
増子 契約の話があって、25歳で東京に来たら1週間で事務所が潰れた(笑い)。いきなり4人暮らし。バンドブームが終わった後でライブのお客さんも2~3人。でも、下北沢のライブハウスで照明やってたのはハイスタンダードの横山(健)くん。プロモーションビデオの大御所の丹下(紘希)くんも東京で同じタイル屋のバイト仲間だった。その頃からの付き合いの人は、ほんとただ音楽を好きでやってた。
――今後の展開は
増子 メンバーで仲良く続けるのと、自分の思いと100%シンクロする曲を作ることだけ。「上を向いて歩こう」みたいな日本のスタンダードな曲を作ることが命題だと思ってる。ウチのドラム(坂詰克彦)は2年前に痛風になったし、健康だけはほんとしっかりしないとね。
(10年03月12日付け 特集面)
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ますこ・なおずみ 1966年4月23日、北海道札幌市生まれ。84年に「怒髪天」を結成し、88年に現メンバーで活動開始。デビュー後、いったん活動を休止するもインディーズで活動再開し、2004年にインペリアルレコードから再デビュー。JAPANESE R&E(リズム&演歌)なる独自サウンドを引っ提げ破竹の勢いで活動中。4月17日の「リズム&ダンディー」(日比谷野外大音楽堂)は即日ソールドアウト。5月3日からは千葉を皮切りにワンマンツアー「オトナマイト・ダンディー・ツアー2010“NEO ダンディズム”」をスタートさせる。
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