きょうの社説 2010年3月19日

◎公示地価の下落 「新幹線効果」の反動きつく
 ここ数年、北陸の地価を下支えしてきた「新幹線効果」がリーマン・ショック後の不況 にこらえ切れず、一挙にはげ落ちてしまったのだろう。石川県の公示地価が全用途平均下落率で、全国平均の4・6%をはるかに超える6・7%に達した。これは予想を超える衝撃的な数字である。

 富山県は同下落率が5・5%と石川県より落ち幅が小さかった。理由は富山市で昨年、 市内電車(路面電車)の環状線が開業した効果だろう。ただ、下落幅は昨年の公示地価より拡大しており、深刻な状況に変わりはない。

 北陸三県で最も目立ったのは、金沢駅周辺や片町・竪町など中心部の不振である。地価 は軒並み9%前後の大幅な下落となり、北陸新幹線の金沢開業を見越した活発な土地投資が裏目に出て、大幅な反動安となった。

 金沢市を超える14・2%の下落地点があった小松市中心部の惨状も目を覆うばかりで ある。コマツの小松工場閉鎖と大和小松店の撤退決定が響いたのは間違いないだろう。この猛烈な資産デフレが続く限り、本格的な景気回復は望めないのではないか。

 救いは、東京都内の一部で足元の実勢価格が上昇に転じるなど、全体として下げ止まり の傾向がうかがえる点である。公示地価は遅行指標であり、金沢駅前に近い同市本町2丁目でも、1年前にあたる昨年1月1日時点との比較では8・7%の下落だが、半年前の7月1日時点では3・3%の下落にとどまり、マイナス幅がかなり縮小した。数字を見る限り、最悪期は脱した印象である。

 政府は、国内民間需要に自律的な回復の芽が出てきたとして3月の月例経済報告で、景 気の基調判断を8カ月ぶりに上方修正した。設備投資の下げ止まりと住宅投資の持ち直しがみられるためである。北陸でも昨年12月の新設住宅着工戸数は15カ月ぶりに前年比プラスに転じている。

 日銀は17日の金融政策決定会合で、追加の金融緩和に踏み切った。政府もデフレ対策 として、土地税制の見直しや土地利用規制の緩和などの地価対策にもっと目を向ける必要があるのではないか。

◎派遣法改正 雇用安定に資する議論を
 政府がまとめた労働者派遣法改正案は、仕事がある時だけ雇用契約を結ぶ「登録型」を 原則禁止にするなど、1986年の法施行から続いてきた派遣の規制緩和を、規制強化へと大きく方向転換させる意味を持つ。

 世界同時不況で、いわゆる「派遣切り」が急増し、派遣労働者の大量失職が社会問題化 した。規制緩和にひずみが生じれば、それを是正するのは当然としても、規制強化がかえって失業者を増やすという指摘も見過ごすことはできない。改正法の施行について、公布から3〜5年以内の猶予期間が設けられているのも、早急な実施による混乱を避けるためである。

 2008年6月時点の派遣労働者202万人のうち、派遣で働けなくなる人は44万人 に上るという試算もある。失業率が5%前後で推移し、正社員も雇用調整助成金で維持されている側面を考えれば、雇用情勢は楽観できる状況にない。規制強化の副作用への対応を含め、雇用の安定化へ向け、法改正のさまざまな影響について国会で審議を尽くす必要がある。

 改正案は「登録型派遣」について、秘書や通訳などの専門業務26種や高齢者派遣を除 いて禁止し、製造業派遣も、派遣会社と長期の雇用契約を結ぶ「常用型派遣」を除いて認めない。雇用期間が2カ月以内の派遣も原則禁止される。労働政策審議会が昨年末に出した報告書に沿った内容である。

 審議会では、経営側委員から「必要な時に必要な人材を確保できない」「コストの大幅 増につながる」などの懸念が出され、生産体制の柔軟性が失われることへの危機感の強さをうかがわせた。成案を急いだあまり、労使の対立構図は解消されず、法改正が直接雇用や長期雇用の流れをどこまで引き出すのか道筋は不透明である。

 製造現場などでは、派遣労働者に代わり、期間従業員やパートが増えるとの見方もあり 、今後も非正規という働き方が労働市場で一定の役割を果たしていくことに変わりはない。派遣を含めた非正規を労働制度の中でしっかり位置づけ、処遇改善の議論もさらに進める必要がある。