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きょうのコラム「時鐘」 2010年3月19日
水をたたえる金沢城公園の宮守(いもり)堀を見てきた。来月のお披露目を控えた試験通水で、慌てて出掛けるほどではないのだが、つい足が向かった
水をたたえた堀は美しい。人が水に引かれるのは、はるかな昔、海の中で生命が誕生した証しにほかならない、と聞いたことがある。真偽のほどは分からないが、確かに水を眺めると心が和む 旅先で宿に入ると、真っ先に水道の蛇口をひねって水を飲むことがある。大概、近くの川が水源だから、淀川や信濃川の河原で水をすくった錯覚に浸る。たあいのない楽しみは、ある大学教授のまねである。欧州を旅するたびにホテルでラインやセーヌの水を楽しむ、と教わった ナポレオンやヒトラーも飲んだ水だと思うと、時に複雑な味がしたそうである。そんな芸当はとてもできないが、コップ一杯の水でも、いろんな楽しみ方があるものである 水に引かれるのは、渇きを覚えるからでもある。人の情けや潤いが乏しい世の中だから、堀の水がひときわ美しく映るのだろうか。新しいお城自慢の誕生はうれしいが、癒やしを求めて頻繁に通うようでは心は弾むまい。 |