【コラム】私たちの中のトヨタ

「見ず、話さず、聞かない。 （会社は）この３つを徹底的に実行する。 会社が出す情報以外は従業員に入らないようにしようということだ」。

最近出版された翻訳書『トヨタの闇』に出てくる若月忠夫・全トヨタ労働組合委員長の言葉だ。 全トヨタ労働組合は、‘労組でないような’従来の労組に対抗し、０６年に組合員１５人で始まった‘戦う労組’だ。 若月委員長の会社批判は辛らつだ。 「トヨタ自動車は厳格というよりも全体主義であり、ファッショだ。 北朝鮮と一つも変わらない。 すべてのものが統制される」。

この本は少数者の声を生々しく伝えている。 過労死したトヨタ職員の夫人の言葉、トヨタの下請け業者の劣悪な労働環境の話は涙ぐましい。 トヨタが年間１０００億円を超える広告宣伝費をテコに批判報道を無力化しているという指摘にも頷ける。 トヨタが意図したものか、またはマスコミが自ら伏せたのかは知らないが、こうした証拠も数多く提示されている。 例えばトヨタの脱税事件を報道しながら、メディアが「申告漏れ」という微温的な表現を使っているのがそうだ。 脱税が単純な錯誤から生じたという印象を与える表現だ。

トヨタのリコール問題が浮上して２カ月が過ぎる。 部品会社に対する技術・資金支援を減らしたり、コスト削減のために管理が難しい海外部品会社の下請け比率を高めたのが問題だった、という指摘が多かった。 私はトヨタが批判を容認しない閉鎖的な組織だったという点に注目する。 大規模な生産工場の特性上、生産管理レベルで組織紀綱や規律が重視されることは考えられる。 しかしこれをあまりにも強調すると、少数の小さな声は消え、会社経営陣の独断や専横を防ぐ内部自浄能力までも無力化されてしまう。 新韓金融投資のキル・ギモ研究委員は「トヨタ問題の裏には牽制のない意思決定が隠れている」と述べた。

これは決してトヨタだけのことではない。 今回の問題が浮上するまで、韓国では「トヨタに学べ」ブームが起きていた。 最近はかなり改善されたものの、依然として位階を強調する組織文化にも強く残っている。 どの会社でも‘会長’の権威は絶大だ。 アップルの最高経営者スティーブ・ジョブズのように、ジーンズ姿で大衆の前に姿を現し、自社の製品を気さくに紹介する会長を国内ではほとんど見たことがない。

「韓国式経営」の善し悪しを質すより、利益を多く出して企業を成長させるのが重要だという反論が出てくるかもしれない。 しかし今後、企業に対する株主の力は弱まり、従業員や地域社会など利害関係者の影響力が強まるという見方が多い。 従業員の‘心の管理’をうまくしてこそ少数の批判までも聴取でき、未来企業として生存できるということだ。 トヨタだけでなく、好調な三星（サムスン）・現代（ヒョンデ）自動車など韓国企業も例外ではない。

徐敬ホ（ソ・キョンホ）経済部門記者