Step ahead 日本女性としてさらに輝く先へ

北川景子

Keiko Kitagawa 1986年、兵庫県生まれ。2006年、『間宮兄弟』(森田芳光監督)で映画初出演し、同年『ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT』(ジャスティン・リン監督)でハリウッドデビューを果たす。10年は公開中の『花のあと』(中西健二監督)につづき『瞬 またたき』(6月19日公開、磯村一路監督)、『死刑台のエレベーター』(秋公開予定、緒方明監督)が待機中。 http://star-studio.jp/kitagawa-keiko/

森 鈴香(ジェイヌード)=インタビュー、文
奥村恵子(Image)=写真


北川景子 インタビュー
“若さ”の生きかた

作品に参加するとき
自分にどんなプラスになるのか
どういういいことがあるかとは考えません。
原作の先生がガッカリされないように、
脚本家や監督が思い描いたとおりに、
そしてひとのこころを動かせるように。
わたしは"ピエロ"のようでありたいんです。


わたしの春を
変えてくれたもの


 北川景子さんは春があまり好きではありませんでした。
「春はいちばん苦手な季節なんです。気持ちも安定感をなくしますし……。春って心身のバランスが崩れやすい季節らしいんです。でもそれよりも憂鬱なのは花粉症! “桜が咲く=花粉が飛ぶ”というふうにしか考えられなくて、桜の花も好きになれないぐらいでした。でも今年はお花見に行きたいな」
 そんな心境の変化をもたらしたのは山形・庄内の桜。昨年の春、目にうつった満開の桜は「一生のうちに出合えてよかった、桜ってこんなにきれいだったんだ」と北川さんにとっての春をすこし変えてくれました。でも、それは桜だけの力ではなかったのかもしれません。北川さんが出合ったもうひとつのもの。それは昨年、この桜のなかで撮影した映画『花のあと』という作品でした。この作品で北川さんは、江戸時代に生きる剣術に長けた以登という女性を演じています。
「役者ならばだれもが憧れる藤沢周平さんの作品を、まさか自分が演じられるとは想像したことがありませんでした。この作品では自分でも感じることができるぐらい成長できたような気がします。これまでは演じているあいだは別の人間になれることがうれしくて役者をしているところが大きかったんです。自分という人間があまり好きではなかったから……。カットがかかったとたん『また北川景子に戻ってしまった』とイヤな気持ちにさえなっていました。でも『花のあと』はちがいました。演じるということは自己満足を得るためのものではない、真剣に以登というひとを生きることに専念しなくてはいけないと台本を読んだときに思ったんです」
 北川さんは自分自身のことをよく「若い」といいます。それは自戒のようにも聞こえる。これまでは若さゆえに甘やかされることもすくなくなかったそう。でも『花のあと』では、そんな“特別あつかい”は一切なかったのです。
「衣装部、照明部、俳優部……。それぞれのスタッフたちがプロフェッショナルとしていっしょに作品をつくるのだから、役者だけを甘やかすということはしないという雰囲気がありました。自分も俳優部の一員として作品づくりにたずさわっていることを意識できたのがここちよかった。撮影中じゃなくても座りかたから言葉づかいまで、プロデューサーさんには逐一注意されていましたけれど! 『どの部分がいけないんでしょうか?』とたずねると『全部!』って(笑)。一からたたきなおしていただきました」
 そんな厳しい現場に入る前のこと。藤沢作品にしてはじめての時代劇に、台本を読んで身の引き締まる思いでいた北川さんを、最初に待ちうけていたのは殺陣と作法、所作の稽古でした。クランクインする半年前から徹底的に心身にたたきこんだそう。そんなふうにして役に近づいていくのも北川さんにははじめての経験でした。それゆえに途中スランプもあったり、生傷もたえなかったとか……。
「現代劇は自分が思ったように動いてもいいけれど、動作も言葉づかいも細かい指示がありましたから、そのとおりに動きながら演じることはむずかしかった。でもそれが楽しくもありました。撮影後、家に帰って考えこむこともありました。ふだんはくよくよ悩むタイプではないんですけれど……」
 そんないろんな“はじめて”がつまったこの作品の撮影をとおして、北川さんがずっと感じていたのは新鮮な緊張感と強い刺激。共演した先輩役者たちの芝居には、ただただ「なにがすごいのかも説明できないほど、すべてがすごい」と圧倒され、一つひとつにおどろき、めまぐるしい勢いで学び、吸収していたそうです。
「市川亀治郎さんはふだん歌舞伎という生の舞台で活躍されている方。だからこそ本番のときの気迫がちがうんです。現場でそれを感じているうちに、わたしもつねに『絶対やり直しはきかない』という強い緊張感をもって演じなければと、自分の芝居について考える機会をいただきました。それに夫役の甲本雅裕さんには不思議な体験をさせていただきました。この作品の最初のシーンと最後のシーンではちょうど1年が経っているんです。でも最初に台本を読んだとき、1年で大きく成長した以登を表現するには、わたしにも1年の時間が必要なんじゃないかって、すこし不安になったりしていたんです。でも現場で実際に甲本さんといっしょにお芝居をしているうちに自然と以登として成長していくことができたし、ラストシーンでは以登がそういう表情になっていたんですよね」
 また以登は言葉が少なく、表情での芝居が多いことも緊張の糸を緩められない理由のひとつでした。
「台本に『まる一日、黙って座って考えている以登』というようなト書きがあるのですが、それを言葉をつかわずにどう表現するのか。そういうシーンがとても多かったんです。以登は感情をあまり顔に出さず内に秘めている女性。でもお客さんには表情だけで伝えなければいけない。そのバランスがむずかしくて、毎カット毎カット監督と話し合いを重ねました」
 そうしてできた作品が公開を迎えるとき。それは北川さんが役者としてもっともよろこびや達成感を感じられるとき。
「わたしたちであたためてきた時期を経て、公開初日の舞台挨拶でお客さんにはじめて作品をわたした瞬間、なんとも言えない感動がこみあげるんです。あとはみなさんが育ててくれるんだなって。すこし淋しい気持ちにもなりますけれど、この日のためにがんばってきたんだと毎回思うんです」


若い時代は早く終わって
しまえばいいのに(笑)


 4年前、映画に初出演した『間宮兄弟』の森田芳光監督との出会いが、ずっと役者として生きていこうと思わせてくれた。当時はセリフを覚えることで必死だったのに、いまはたくさんのスタッフのことを考えながら芝居ができるようになったそうです。
「技術的なこともそうだし、寒そうにしているなとか体調が悪そうだなとか、周りのひとのことに気づけるようになりました。自分が主演でないときも、主演の方の立ち居振る舞いや現場での居かたを勉強させていただいて、それに近づきたいと思っています。主演させていただくことで勉強することや気づかされることもあるし、興業的なプレッシャーも感じます。でも、主演でもそうでなくても変わらないひとでいたい。成長するにはたくさんの作品を経験していくことが大事。いただける仕事があるかぎり、演じつづけていきたいんです」
 自分から若さを取ったときになにが残るのか、年を重ねながら成長していける役者であるには、いまなにをすればいいのか。23歳の春、北川さんはそんなことに思いをめぐらせています。