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社説:日銀また緩和策 世界の流れと逆では

 世界の主要国が着々と出口に近づく中で、日本だけが反対方向に進んでいるようだ。リーマン・ショック後に導入した異例の景気刺激策を解除していく「出口戦略」で鮮明になってきた日本と他国の違いである。

 日銀が昨年末に続き、追加の金融緩和を決めた。確かに物価の下落は続いているが、今なぜ追加策なのか、と首をかしげてしまう。

 危機対策が相次ぎ打ち出された2008年末当時と比べ、世界経済も日本経済もはるかに明るい。日本の景気が「二番底」に沈む心配も薄れ、政府はこのほど景気判断を「着実に持ち直してきている」と上方修正した。日銀も基本的に同じ立場だ。

 回復してきた景気をさらに後押しする狙いなのかもしれないが、すでに金利は歴史的に低い水準まで下がっており、追加的な効果はほとんど期待しにくい。逆に、日本の金利が上昇に向かう時期はさらに遠のいたとの見方が強まって、円で資金を借り、より高い利益が見込める国外で運用する動きが再び加速する可能性がある。世界経済をけん引している新興国などでバブルを膨らませる副作用が心配だ。

 海外の中央銀行に目を転じると、新興国や資源国から金融引き締めの動きが広がってきた。先進国は遅れているものの、金融危機の震源地で失業率が日本よりはるかに高い米国や、ギリシャ発の信用不安懸念がくすぶる欧州でさえ、政策を危機モードから平時モードに戻す動きが計画に沿って進んでいる。なぜ日本だけ出口に背を向けているのか。

 政府内には日銀にデフレ克服策を求める声が強い。亀井静香金融担当相のように、あからさまに国債の直接買い入れを要求する閣僚もいる。

 厳しい財政難にありながら、政府は当面、手厚い財政支出を維持する構えのようだ。国債の大量発行が続くことになる。そんな中で長期金利が上昇すれば国債の利払い費が膨張し、財政は立ちゆかなくなる恐れがある。日銀に金利を低く抑えてほしい政府の思惑が透けて見える。

 米国のバーナンキ連邦準備制度理事会議長は議会に対し、財政赤字の削減計画をしっかり立てることが政治家の仕事だと訴え、出口戦略を求めた。責任ある中央銀行の主張だ。

 その米国も含め、他の先進国では、いつまでに赤字をどの程度、縮小させるといった数値目標ぐらいは掲げている。それさえないのが日本だ。中央銀行に放漫財政のツケを回そうとする国は結局、市場の信認を失い、長期金利が上昇し、財政や経済全般を苦しめることになる。

 日銀に追加策を求め続けるのではなく、政府こそ、財政の出口戦略を早期に示すべきではないか。

毎日新聞 2010年3月18日 2時35分

 

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