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都青少年健全育成条例:改正案 漫画、ゲームなど性描写の規制強化

 ◇作家ら反対運動開始

 東京都は18歳未満を対象にした児童ポルノの規制強化のため、今月30日に開かれる本議会で「都青少年健全育成条例」の改正を目指している。改正案には実在する児童ではない漫画やアニメ、ゲームのキャラクターを想定した「非実在青少年」への規制や、ただ画像や図版を持っている行為を規制する「単純所持」規定が盛り込まれている。これに対し漫画、アニメ、ゲーム、出版などの業界関係者は、表現の自由を阻害する恐れがあるとして反対運動を始めた。18日に開かれる総務委員会の動向が注目される。【内藤麻里子、臺宏士】

 ◇児童ポルノ根絶を狙い

 条例改正案で「非実在青少年」とは、「年齢又(また)は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」をいう。このうち「強姦(ごうかん)等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもの」で、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるものは不健全図書等に指定され、18歳未満への販売などを禁止する。

 つまり18歳未満、もしくはそう推定されるキャラクターを使った漫画、アニメなどで著しく社会規範に反する性表現があった場合は、18歳未満の青少年への販売などが許されない。

 ゲームのデザイナーやシナリオライターで作る「コンテンツ文化研究会」は、早くから条例改正問題に取り組んできた。杉野直也代表は非実在青少年の基準があいまいだとし、「年齢がない場合、背景や音声などから類推するのは無理がある。絵柄によっても左右される」と指摘する。「児童ポルノの規制はもちろん必要だ。だが、不明確な基準では、芸術などに大きな影響を与える」と話している。

 漫画家たちも大きな危機感を抱き、今月15日、永井豪さん、里中満智子さんらがそろって東京都庁内で記者会見した。また、約60人の反対する漫画家リストを公表した。

 漫画家で、京都精華大の竹宮惠子マンガ学部長には、代表作の一つに10歳の少年の性を扱った『風と木の詩』がある。永井さんも過激な性表現をした『ハレンチ学園』で世に出たことに触れ、「(条例が通れば)確実に世に出ることができなくなる」などと訴えた。

 ◇表現の土壌断つ結果に

 ちばてつやさんは「表現、芸術などが生まれる時はいろいろな種類の花が咲く。汚い、臭いと言って、つながっている汚い花の根を絶ってしまうと植物群全体の元気がなくなってしまうのと同じで、規制によって表現全体が元気がなくなってしまう」と述べた。

 一方、日本ペンクラブの言論表現委員会(委員長、山田健太・専修大准教授)も「小説も無関係ではいられない」と、対応策の検討を始めた。

 作者だけでなく出版社からも疑問の声が上がっている。日本書籍出版協会と日本雑誌協会が15日に都議会最大会派の民主党に提出した意見書では「青少年と性をテーマとする作品では性描写は避けて通れない。いかに健全な表現であろうと恣意(しい)的に不健全と判断される恐れがある」と批判した。

 ◇慎重な議論が必要だ

 園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法、情報法)は非実在青少年規制に関し、「改正案は『みだりに』などの表現で規制対象を限定したというかもしれない。しかし、漫画のような創作物での芸術的な表現はそもそもデフォルメされるものだ。条文は具体的な禁止対象がはっきりせず、違憲性が問題になり得るほど過度にあいまいだ」と指摘する。単純所持規制については「現行の児童ポルノ禁止法の定義にあいまいな部分が残る以上、過度の規制になる。法の見直しが先決であり、それを飛ばして条例で規制することは本末転倒だ」と批判。その上で「出版社が集中する東京都の規制強化の影響は、他の道府県にすぐに及ぶ。慎重な論議が必要だ」と話した。

 これに対して都青少年課は「現行でも不健全図書指定の対象の8割から9割は漫画だ。性的感情を刺激しないが、強姦や獣姦、何人もの女性への乱暴行為を賛美するといった反社会的な行為は、現在の基準では指定が難しい。同性愛だからといってただちに反社会的となるわけではない」と説明。単純所持規制についても「罰則はなく、児童ポルノを根絶しようという社会機運を高めるためのあくまで理念規定だ。国に先んじたわけではない」と話している。

 ◇「単純所持」も定義あいまい

 「単純所持」については、条例改正案18条の6の4で、「都民等の責務」として「何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する」と規定している。「単純所持」規制も、児童ポルノ禁止法が99年に成立してから再三議論されてきた。

 奈良県は05年に全国で初めて児童ポルノの単純所持を禁止する「子どもを犯罪の被害から守る条例」を制定し、規制対象年齢を「13歳未満」とした。13歳にした理由を奈良県警は「特に精神的身体的に未成熟だ」と説明する。

 昨年の通常国会でも当時の自公・与党や民主党が出した改正案が審議された。与党は正当な理由なく所持することを禁止するとともに、「自己の性的好奇心を満たす目的」での所持に対して罰則を設けると提案。民主党は購入したり、繰り返し取得する行為を禁止するという案を出したが、与野党が歩み寄れずに改正には至らなかった。

 改正案に反対を訴えている山口貴士弁護士は、「改正案では何をもって単純所持というかの基準が不明確であり、しかも児童ポルノ禁止法にさえない単純所持を禁止することは、地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができるとする憲法94条に反する」としている。

毎日新聞 2010年3月18日 東京朝刊

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