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1995年9月11日 毎日新聞(夕刊)

自己啓発セミナー参加の大学生死亡
「熱湯修行が死因」 両親が会社に賠償提訴

 今年2月、京都市内の私立大学4回生(22)が三重県内のリゾート施設で行なわれた 自己啓発セミナーに参加中、熱中症で死亡する事故があり、大学生の両親が11日までに、 大阪府吹田市内のセミナー企画会社や社長(57)らを相手取り「風呂で熱湯につかる危 険な修業をさせたうえ、本人が身体の異常を訴えた後も適切な処置をとらなかった」とし て約6500万円の損害賠償請求訴訟を京都地裁に起こした。会社側は「熱湯につかる修 業は存在せず、自分の意志で入浴して事故にあった」などと全面的に争う姿勢をみせてい る。

 訴状などによると、大学生は今年2月12日から1週間の日程で、セミナー企画会社と 名古屋市内のボランティア組織が開いたセミナー(参加費約50万円)に参加。12日午 後11時半ごろ、大浴場でセミナーの一環として行なわれた熱湯につかる修業をしていた 際、体調の異常を訴え脱衣場で倒れた。指導担当者らは大学生にバスタオルをかけた程度 で、通報で出動した救急隊にも「回復した」などと連絡したため途中で引き揚げた。約1 時間後、大学生が倒れたことを聞いたリゾート施設の従業員が再び救急車を呼び、病院へ 運んだが熱中症のため、多臓器不全を起こしており、3日後の15日午前10時過ぎに死 亡した、という。

 両親は、ふろ場で熱湯につかるという修業は人間の生理的機能を著しく害する危険な修 業であるうえ、セミナー関係者が必要な介抱や直ちに医療機関の治療を受けさせなかった のは参加者の生命、身体の安全を保護すべき義務を怠っている、などとして今年7月、提 訴。11日午後に第1回口頭弁論が開かれた。

 画会社社長らは答弁書などで、大学生がセミナーに参加していたことは認めているが、 「熱湯につかる修業は企画したことがなく、入浴は大学生が自分の意志で行なった」など と反論している。

 治療と病理解剖を担当した医師の学会での報告によると、大学生は病院に運ばれた段階 で意識が混濁しており、体温は41度だった。下肢のはれがひどく、足から順に入浴し高 温にさらされた時間が長かったためと思われるなどとしている。

国民生活センターなどによると、自己啓発セミナーは受講料が高額だったり、受講者が 精神や身体の不調を訴えるケースもあり、同センターへの苦情や相談は89年度の約 600件から93年度には約1000件にほぼ倍増。相談者の約7割を10代、20代が 占めている。

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