突発的思い付き短編

 

 

シンジのススメ外伝

 

 

その頃のアスカさん

頃の壱 使徒襲来

 

 


 

 

紅茶色の髪を揺らして少女が走る。

「加持せんぱ〜い♪」

「おっと」

飛びつき腕を組む。

「どうだい?調子は」

無精髭に、後ろで束ねた長髪。

裏の世界ではそれなりに有名な、トリプルスパイ加持リョウジである。

 

有名なのが一流か、というとそうではない。

真の一流諜報員は、その存在すら悟らせないものなのだ。

 

「当然絶好調よ!シンクロも3ポイント上がったしハーモニクスも誤差は小数点以下よ」

赤毛の少女が跳ねる。

惣流・アスカ・ラングレー

世界に名だたる(秘密組織だが)ネルフに所属する、エヴァンゲリオン弐号機専属パイロット、セカンドチルドレンたる少女。

大学を13歳で卒業した才媛である。

国籍アメリカ、ドイツ在住、日本人の血が4分の一入っていると言う一人多国籍軍と評判だ。

 

「私に伝えたいことってなんですか?」

やけに嬉しそうに、歩き始めた加持に続く。

「機密解除になったんでな。連絡役さ」

「なんなんです?」

小首を傾げるアスカに、一息おいて簡潔に告げる。

「使徒が出た」

「!」

アスカの目つきが変わる。

瞳孔が開く。

興奮状態になったようだ。

(やれやれ、ドイツの連中もつまらんことをしてくれたもんだ)

明らかに何らかの条件付けを精神に植えつけられている。

今のところシンクロには問題になっていないようだがこういう条件付けを受けた精神は

(限界を超えたときが脆いんだよ)

 普通の少女ならば色々な経験をつみ始める頃だ。

精神的に不安定な年齢でもある。

それを嫌っての操作なのだろうが・・・。

(10年近くココに居たんだ。相当根が深いな。一途なのは臨機応変が効かないって事をわかっちゃいない。さて、上手く誘導してやらないと)

彼女のガード兼内部監査の任について早2年、どうにもアスカの精神が幼すぎる。

どうやら自分に恋している様子だが、まあ応える気は毛頭無い。

ドイツの連中は邪険にするなって言いやがるが、何事も経験だ。

挫折の一つや二つ経験しないでどうする。

片方の手で精神操作を行い、逆の手では褒め立てその能力の向上のみを強いる。

手前らの“作品”の“性能”にしか興味は無い、ってことか。

冗長性や耐久性は二の次、本部に対する優位性を誇示するためだけに固執した訓練と数値至上主義。

あんな精神じゃ誰かの後塵を拝するなんて無理であろう。逆境をバネに、と言うには彼女には心のしなやかさが無いように見受けられる。

セカンドインパクト孤児の加持には、養護施設で小さな妹弟達の面倒を見た記憶がよみがえる。

(親を亡くして辛かったが、オレや兄弟達はちゃんと生きていた。まっすぐに。)

だから

何とかしてやりたい。

そう思う。

 

 


 

ドイツ支部内カフェ

個室ブースに陣取り正面に座ったアスカに書類を渡す。

電子データより紙の書類のほうが機密度は高い。

「国連からの指揮権移譲以降の戦闘指揮の要約だ。葛城も頑張ったようだがな」

のんびりと言う加持。

すさまじい速さで【極秘】と書かれた表紙のレポートを読む。

 「なにこれ・・・」

なによこれ

使徒に対する兵装ビルからの牽制、それに伴うエヴァによる近接戦闘。

それはいい。

情報の少ない使徒戦において先ずセオリー通り、と言った感じだ。

 ATフィールドによる攻撃の無効化。コレも同様、予測できたことだ。

しかし

初号機の高機動による敵コアの貫通破砕。

 

瞬間最大2100m/s

 

ありえない

自分には未だ自在に操れないATフィールドによる敵のそれの侵食。

その後の機動。

自分に出来るのか、と問われればATフィールドの展開は兎も角、この機動は不可能であろう。

 

 

 

「音速にして6マック。その質量と合わせて、恐ろしいほどの威力だな」

不意に声をかけられ加持の居たことを失念していたことに気付く。

「加持さん、これ・・・」

「事実だ。いまごろドイツ支部にも報告が届いているはずだ。だが数値を改竄して君に伝えようとするだろうからな。」

 

 

 いまなんて?

「改竄・・・って・・・なんで?嘘を私に教えてどうする気なの?」

「アスカが弱いからだ」

困惑するアタシに断言するように言う加持さん。

「私は弱くなんか…!」

「ほらソレだ」

眉根を寄せて反論しようとするその言葉を遮られる。

「アスカの能力は比肩する者を探すのが難しいほどだ。俺もそれは認めている」

だったらなんなの?

「アスカは今まで負けたことが無い。違うか?」

うなずく。

ええそう。今まで私は一生懸命やって来た。

ママが死んで

パパに捨てられた

ただひとつ

エヴァのパイロットであることだけは譲れないと頑張った。

勉強も

訓練も

誰にも負けないように

「その君が、誰とも知れないパイロットに明らかに足元に及ばない能力を見せ付けられる。

するとどうなるか。

ドイツ支部の連中はアスカの挫折した姿を見たことが無い。

そりゃぁ焦るさ。

どう転ぶかわからない、もしかしたら負けた、と思ってシンクロに影響が出るかもしれない。

そうなったら責任は誰が取るか。

支部の責任者は全員更迭だろうな。

で、だ。アスカには事実を知らせない。

使徒が現れたのなら弐号機も本部に正式に配備となる。

その後の責任は本部にあると。

これはまあ、俺の予想だがね。いいとこ突いてると思うぞ?」

俺がコレをアスカに教えたのは君が勝ち負けにこだわる相手を間違えてると踏んだからだ、と

 

そうだった

使徒殲滅が最大の、唯一の使命。

その経過は関係無いのだ。

加持に諭されるまで自分の及びも付かない性能を発揮する初号機とそのパイロットに

 

 

憤りと

 

 

 

憎しみと

 

 

 

羨望とが

 

 

 

 

混ざり合ったどうにも出来ない不快な澱のような

そんな気持ちで占められていく自分が在った

 

捨てられる

 

また捨てられる

 

 

 

セカンドチルドレンなんて必要ない

 

 

 

 

しょごうきのぱいろっとだけいればもんだいなくしとをたおせるんだからイラナイジャナイカ

 

 

 

 

 

イッショニシンデチョウダイ

 

 

 

 

ナツカナクテナ

 

 

 

 

ワタシハイツデモハハオヤヲヤメルコトガデキルンデスヨ

 

 

 

ちがう

 

 

 

ちがう

 

 

ちがう

 

ちがうちがう

そうじゃない

 

 


 

 

(やれやれ)

どうにかなりそうだ、と

テーブルに目を落としなにやらぶつぶつと呟いているアスカを見てそう思う

条件付けの上書きと言う形になるがとりあえずは暴発することは無くなるだろう。

後のケアはりっちゃんにでも任せよう。本職だしな

「そうよ・・・」

ん?

「この惣流・アスカ・ラングレーが・・負けてられますかってーの」

くっくっく

こみ上げる笑いを押さえもせずに

「な、なに笑ってるんですか加持さん!」

「落ち込んだり、立ち上がったり忙しいなと思ってね」

これなら大丈夫だろう。

負けを認めたうえで更に上を目指す。

「いい傾向だな」

「なにがですか?」

いやいや、気にしないでくれ。

嬉しくてしょうがないんだ。

激しい感情の起伏。

あいつを思い出す。

もうじき、だろうな

「日本か・・・」

「私が行くからには使徒なんてすっきりサッパリ殲滅よ!」

あっはっはっは

「な、なにわらうんですかぁ〜」

「すまんすまん。そうそう、おまけだ」

封筒を渡す。

「?」

「ファーストと、サードの資料だ」

ま、表面上のだがな、と付け加える

一度に情報を与えすぎたかと心配になるが、情報の処理能力だけなら一級品だ。

 

「ま、後悔の無いようにな」

 

外伝1  了

 

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