WHO憲章の健康定義が改正に至らなかった経緯

 

臼田寛、玉城英彦

世界保健機関

World Health Organization

CH-1211 Geneva, 27 Switzerland

 


抄録

WHO(世界保健機関)の昨年の総会(第52回世界保健総会:WHA: World Health Assembly)に先立って日本の公衆衛生関係者の一部では、WHOが従来の健康定義にspiritualdynamicを加えた新しい文章へ改正するという情報が話題となった。WHOにおいて一昨年来、健康定義を見直すこのような動きがあったことは事実である。しかし改正案が提出された昨年5月の第52WHAでは、実質的な審議が行われないまま事務局長預かりとなり、定義改正は行われなかった。それ以降この改正案について目立った新しい動きは出ていない。改正案が生まれた背景や審議経過について紙面をお借りして報告する。

 

Key words: 世界保健機関、健康憲章、健康定義、spiritualdynamic

 

T.健康定義改正案が生まれた背景

   これまで日本においては、この健康定義改正案の提唱者ついてはほとんど触れられることがなかったが、改正案をWHO執行理事会に提案したのはアラブ諸国(表1)を中心とするWHO東地中海地域地方事務局である。

 

表1  WHO東地中海地域加盟国 

 

 

アフガニスタン、バーレーン、キプロス、ジプチ、エジプト、イラン、ヨルダン、

クウェート、レバノン、リビア、モロッコ、オマーン、パキスタン、カタール、

シリア、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、チニジア、アラブ首長国連邦、

イエメン

 

   

 

これら各国が位置する中近東と呼ばれるユーラシア大陸一角からアフリカ大陸地中海沿岸地域では、イスラム教が信仰の中心に据えられ人々の精神生活から日常行動面の多岐にわたって指導原理となっており、医療健康面においてもユナニ医学1)という伝統医学が現在でも実践されている。新しく健康定義に盛り込むことを提案されたspiritualdynamicの真の意味もこれらイスラム文化の影響を強く受けた健康観を無視しては語れないものと考えられる。

また、アラブ諸国がこの時期に改正案を提出した最も大きな理由の一つは、現行のWHO健康定義に含まれる physical, mental and social well-being という3つの指標が西洋医学の成熟限界に伴いphysical一辺倒となり、また、あまりに数値化、客観化されすぎた事の反動として伝統医学への回帰が起こった世界的流れの一環と無関係ではない。

 

U.改正に向けての具体的動き

WHOには意思決定機関として執行理事会と総会がある。その機能は表2に示すとおりである。

 

表2   WHO執行理事会 WHO総会 の特徴と主な役割

 

WHO執行理事会 (WHO Executive BoardEB)

地理的配分を公平に考慮した上で、総会によって選出された32ヶ国が推薦する執行理事(任期3)から構成される総会の下部機関である。理事会は年に2回開催され、中心となる会議は1月に行われ、2回目の短期間の会議が5月の総会に引き続いて行われる。執行理事会の主たる役割は総会の決議や政策を有効にし、助言し、相対的にその作業を促進することである。

 

世界保健総会  (World Health AssemblyWHA) 

WHOの最高意思決定機関であり毎年5月にスイスのジュネーブで開催される。191ヶ国の全加盟で構成されている。WHAには、各加盟国の厚生大臣を始めとして主として厚生省職員が代表として出席する。主にEBから上がってきた2年ごとのプログラム予算承認や主要な政策に関わる事項等の決議を行う。

 

                

 

健康定義改正案が執行理事会で提案されたのは1998119日から開催された第101WHO執行理事会(EB101 : 101st Session of the WHO Executive Board)においてである。ここで健康定義を従来の

 

"Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity." (www.who.int/aboutwho/en/definition.html)

  「健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」(昭和26年官報掲載:この和訳にも多少改訂が必要かと思われる。)

 

からspiritualdynamicの二つの語を新しく加えた、

 

"Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity."

 

という新しい文章に改める提案をWHO総会へ提出するための検討が初めて行われた。

まずこの会議の議事録2)の要旨をまとめたのが資料1である。


 

資料1の審議内容からわかるように、改訂案に賛成、反対、保留などの意見が活発に交わされている。議論が余りに多岐に渡るため(当然と言えば当然であるが)、途中からEBの議員のなかには採決を急がせるような発言も見られる。ここで議決しなければ、1998年の総会には間に合わないので、2000年まで待たなければならないし、議論を先送りすることは時間の無駄である、と議長に迫る議員もいる。検討する時間は十分にあるが、今度の総会へ計るかどうかの採択は今回の会議で行うべきである、として、活発な議論の後、投票に持ちこまれた。

この執行理事会での投票では、総会への提案に対して賛成22、反対0、棄権8で第52回総会の議題とすることが決まった(www.who.int/gb/pdfangl/eb1017.pdf)

 

V.世界保健総会での審議結果

健康定義改正案は平成11517日から525日まで、スイス・ジュネーブにおいて開催された第52WHO総会で、欧州連合(EU)、アルゼンチン、中国、日本、オーストラリア、ロシア、バーレーン、リビア、スリランカの代表によって審議された。

なお総会ではほとんど実質的な審議に入らなかったためここでは議事録)から発言内容を以下に要約して紹介する。

欧州連合(EU)代表のVoigtlanderは、改正に反対し、他の重要案件が山積している時期に加盟各国の同意を得るのは困難であり、改正は必ずしも必要ではないとして、事務局長預かりとすることを提案した。アルゼンチン代表のPicoも、改正に反対し、改正を議論するのは現在行っているWHOの組織構造改革終了後が望ましいとした。中国代表のZhaoも改正に反対し、現在の健康の定義は非常に明解なもので半世紀にわたって親しまれており、改正の必要も意義も全くないと述べた。日本代表の仲村英一氏も改正に反対し、改正案は専門家の検討によって提出され重要性も高いが、今回の総会で議論すべきことではないと審議の見送りを主張した。オーストラリア代表のWhitworthも改正に反対し、各国の同意が得られておらず提案の緊急性も低く早急な結論は必要ないとして、事務局長預かりとすることを主張した。ロシア代表のMonissovも改正に反対し、WHOが組織改革中の過渡期(新事務局長ブルントラント赴任に伴う改革)にこのような改正案を持ち出すことは適当でなく、改正によってWHOの活動に効果が発現する保証もないと述べた。スリランカのJeganathanも改正に反対し、人間の日常生活指標としてspiritual dimensionは非常に重要であり、健康の意味を理解するためには神聖な手法が必要であるが、それは宗教を超越したものでありspiritual dimensionを宗教と混同するのはよくないと述べ次回以降での再審議を主張した。これに対してバーレーン代表のAl Mousawiは、この提案を行った執行理事会の専門家は1984年に”spiritual dimension of health4)が総会で唱えられて以来、この提案に関わったことを重視すべきであるとして審議継続を主張した。リビアのAbudajajaは、健康定義は非常に繊細な問題でそのspiritual dimensionも重視されるべきであると述べたが、他の参加国が採択を見送る姿勢をとったためにそれに従った。

このような議論の結果、現行の健康定義は適切に機能しており審議の緊急性が他案件に比べ低いなどの理由が大勢を占め、審議入りしないまま採択も見送りとなった。今後は健康定義を含めた他の憲章改正案と共に一括で、事務局長が見直しを続けていくこととなった。

日本では健康定義の改正議案を総会へ提案することが執行理事会において可決された時点で、その改正案の内容が新旧対照表の形で大きく報道された。さらにspiritualdynamicを日本語でどのように表現するかを、公衆衛生関係者が早くも議論の対象としてしまったために、健康定義改正があたかも既定路線のように感じられてしまったようである。

 

W.アラブ諸国からの健康定義改正案提出と世界的な伝統医学への回帰の流れ

 

アラブ諸国における健康観に強く影響を与えているユナニ医学1)の起源は、6世紀初頭にアラビア半島で成立したイスラム国家が、7世紀前半からのサラセン帝国都市化に伴う医療需要増大に対応して、ヒポクラテスに代表されるギリシャ医学を輸入したことに始まる。ユナニとはギリシャ的という意味のペルシャ語で、ユナニ医学の起源がギリシャ医学であることを示している。イスラムに伝えられたギリシャ医学はその後、エジプト医学やシルクロード経由のインド、中国医学の影響を受ける。アラブ発祥の医学ではないため独自性は薄いが、イスラム文化の影響を強く受けた発展を遂げ、10世紀にユナニ医学の創始者と称されるアビセンナによって体系化された。アビセンナが著した「医学規範」はユナニ医学の最高峰であり、ここから西洋医学が分化している。「医学規範」は総数1326編の詩からなり、そのなかでアビセンナはギリシャの4大自然観である火、水、風、土が体内にもあり、これらのバランスが崩れたときに病気が起こると述べ、治療には自然治癒を重視している。その他、生薬療法、浣腸寫血による解毒、養生法を述べている。現在、世界医学の主流を占めている近代西洋医学の見地からみれば、ユナニ医学をはじめとする伝統医学は代替療法といわれる範疇に分類される。代替療法が含む具体的内容を表3に示す。

 

表3  代表的な代替療法

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ホメオパチー、ナチュロパチー、ホリスティック医療、心理療法、心霊療法、

呪術療法、祈祷療法、アロマテラピー、ヒーリング・リラクゼーション、鍼灸、

指圧、整体、食餌療法、ライフ・スタイル指導、薬草療法、気功療法、水療法、

運動療法、マッサージ、電気治療、超音波療法、光療法、カウンセリング

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ユナニ医学に限らず、代替療法と呼ばれる世界の伝統医学が程度の差こそあれ、表3で示したような療法を現在でも医療として実践している。そして、これらの療法は地域に根づいている宗教あるいは宗教類似の精神運動による影響を色濃く受けている。また伝統医学は近代西洋医学よりも当然長い歴史を持っているが現在では、その対極的な位置づけ、あるいは反近代西洋医学といった解釈をされがちである。これは、近代西洋医学がデカルト的二元論やラ・メトリーの人間機械論といった哲学に基づき、科学的に構築されたが、その過程で精神と肉体の分離や人間の身体の細分化が進み、心理的アプローチが次第に欠落し、疾病に対して心理的、社会的側面からアプローチを行うこれら伝統医療に対して極めて排他的になるに至った結果である、とも考えられている。しかし近代西洋医学が成熟と成長限界を迎えると、病に対して心の問題を含めて全人的なアプローチを行ってきた伝統療法の「癒し」の効果へ関心が集まり、真に効果をもたらすものを選別、評価し、西洋医学と統合し第三の医療ともいわれる統合医療へ再構築しようという動きが近年活発になってきている。アラブ諸国が今回の改正案を提出したことも、我々西洋医学を実践している当事者にとってみれば、あまりに無味乾燥かつ客観的な健康評価を行ってきたと反省する要因を窺い知ることができる。

  さて代替療法に関していつも問題となるのはその効果と信憑性であるが、それを否定することは、道徳性、倫理性を含めてその医療システムを社会的に受容、認知している共同体全体を否定することにつながる。伝統治療を含めたあらゆる医療行為は、共同体の文化、信条と密接なつながりをもっており、経験的に納得の行く形で体系化された産物である。近代西洋医学も科学的有効性が客観的に大きいというだけの理由で社会的に普遍性を得たとは考えられない。むしろ効果や信憑性を議論するよりも医療体系が成立した文化的背景を考察するほうがその共同体の理解につながるだろう。医療や公衆衛生の分野で最近人気の高いevidence-based某についても、このような視点からもう一度見直す必要があるかと思われる。

spiritualという言葉に関しては第101WHO執行理事会の議事録から、議員が医療と宗教の混同を指摘したり、定義改正による代替療法の横行を危惧していることがわかる。またdynamicという言葉は健康と病気が連動した一体のもの、すなわち時間的経過での一体性や健康臓器と疾患臓器の一体性を表現することであり、今では普遍的に受け入れられてもおかしくない。しかし、審議がspiritualに集中したために、この点については十分な論議が行われなかったことは残念である。

議員が問題としている医療と宗教は、両者とも健康を課題として取り組むという共通点があるが、文化的背景によってアプローチ手法が異なってくる。このアプローチ手法をどの程度明確に区別できるかという点において、指摘されている医療と宗教の混同という問題が生じてくる。例えばキリスト教では宗教と、政治、日常生活、医療健康問題などは相互に影響を保持していても厳密には区別される。しかし、イスラム教ではこれらが渾然一体となっており、健康や医療の概念に関しても宗教性を抜きにしては考えられないほどである5)

日本国内においても当然独自の文化、宗教的背景に基づいた健康観があり、また近年の看護、介護や高齢化など他国とは異なった健康政策上の問題点も数多く抱えている。わが国においての健康維持・増進等の公衆衛生学的アプローチは、この点に配慮する必要がある。たとえば、「高齢者=老人」にするような文化的、宗教的、社会的環境では、これまでに実施されているようなヘルス・プロモーションは大きな成果を上げることが期待出来ないことは明白である。高齢者の多様性を認識して、社会に貢献できる、独立した健康的高齢者イメージを確立する、我々独自の文化・社会環境などをまず構築することが、明日の高齢者に対する健康政策にも大きく反映してくると思われる。

我々は現行の健康定義の実現に向けて努力しているが、現実には、この健康目標達成の施策と評価方法も明確ではない。WHOでは最近、従来の平均寿命から、傷害を除いた健康寿命を評価対象にするようになってきたが、ここでも、WHOの健康定義の一部しか評価しておらず、精神的及び社会的福祉の状態を加えた総合的な健康評価については未だ明確な指針は出されていない。21世紀には精神的及び社会的福祉の状態が肉体的状態よりもさらに重要になってくることが予想されるので、現行の健康定義の拡大もさることながら、これらの3要素を有機的に統合した新しい指標を構築していくことの重要性がいっそう高まる。このような状況において、加盟国それぞれの国民が持つ健康観によって自ずとその解釈に幅が生じるものであろうspiritualの問題にWHOが一応の結論を出したことは評価されるべきであろう。

 

文献

1)  アヴィセンナ.医学の歌.志田信男、訳、注.草風館.1998

2)  World Health Organization. Definition of Health (Preamble). Executive Board, 101st Session.EB101/1998/Rec/2. 1998; 40-43.

3)  World Health Organization. Amendments to the Constitution : Item 16 of the Agenda (Document A52/24) . Fifty-Second World Health Assembly. A52/B/SR/3. 1999; 8-10.

4)  World Health Organization. The Spiritual Dimension in the Global Strategy for Health for All by the Year 2000. Thirty-Seventh World Health Assembly. Resolutions WHA37.13. 1984.

5)厚生省大臣官房厚生科学課.WHO憲章における「健康」の定義の改正案について.第14回厚生科学審議会研究企画部会議事録.1999
資料1.健康定義改正案を審議した101WHO執行理事会会議の議事録要旨

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賛成の理由

Badran, エジプト:健康評価においてspiritualな要素と他の指標との相関性は明らかであり、定義への追加は当然。

Pico, アルゼンチン:spiritualは人間の尊厳と倫理性において非常に重要。

De Silva, スリランカ:spiritualは健康にとって重要要素であり、健康定義の拡大にもつながる。

Stamps, ジンバブエ:最近、個人のspiritualに関する自由が侵害されることによる健康被害が多くなっている。spiritualな健康は各個人の責任で実現するもので、健康には不可欠なものである。Lopez Benitez氏が言うような宗教とは関係がない。spiritualな健康は特に伝統医学で薬の効果を最大にするときに使われる。健康定義改正を検討する場合、マルクス主義者の反対があって1948年の健康定義制定の際にはspiritualの挿入が実現しなかった経緯を無視することはできない。しかし、個人の自由を侵害しない限り、spiritualを健康定義に加えることに賛成。spiritualは社会的、肉体的、精神的と同様に本質的なものである。

Williams, クック諸島:spiritualは道徳的、情緒的、社会的、また健康上も多様な意味をもっており健康定義に加えるべきである。

Hurley, アイルランド:改正によって個人生活に支障が生じることはない。

Ngedup, ブータン:spiritualは幅広い解釈が可能でこれ以上の言葉はない。

Mulwa, ボツワナ:spiritualは健康定義を語るときに不可欠である。世界では信仰治療が医療において重要な役割を担っているところもある。

Stamps, ジンバブエ:Leowski氏の発言に関してだが、WHOの役割の条文はWHOspiritualな健康に対してなすべき事を規定しているのではない。それは社会的健康などほかの言葉についても同じである。しかし言葉が含まれていないからといってその意味するところが除外される訳ではない。spiritualは様々な部分で暗黙のうちに含まれている。spiritualな健康は主観的なものであり、それによる快適さは健康の源となるものである。

Fikari, アラブ首長国連邦:spiritualを健康定義に加えるという提案の原案が東地中海地域地方事務局長から出されていることを考慮して、私も改正に賛成。

 

保留または“賛成だがもっと審議”の理由

Van Etten, オランダ:spiritualという健康目標達成のために加盟国が行う施策と評価方法が不明確。

Sanou Ira, ブルキナファソ:加盟国は現在の健康定義の実現に努力しているが、spiritualまでは余裕がない。

Lopez Benitez, ホンジュラス:専門家委員会が十分検討した結果であれは、どちらでも問題はない。ただspiritualという内面的健康は特定宗教には依存せず、宗教との混同は好ましない。人は病気になって初めてspiritualな健康を求める気持ちを知る。spiritualは健康定義にあるsocialが意味する社会的とは反対の内面的健康を意味し、またdynamicという言葉は健康と病気が一体のものであることを表現している。

Shin, 韓国:spiritualな健康は公衆衛生活動の基本目標であり、改訂に賛成。しかし19991月の103回理事会までには、まだ熟考の余地がある。健康定義改正によるWHOや健康政策、学術産業界へ与える影響を考慮すべきである。この問題はもっと幅広い層から委員を集めて議論すべき。

Ferdinand, バルバドス:もっと幅広い意見収集を前提とした上で、改正に賛成。私の所属部署ではすでにspiritualを健康促進憲章に使っている。

Calman, イギリス:生活の質や健康はspiritual抜きにして考えられない。しかしこの問題にはもっと議論が必要。

Sulaiman, オマーン:改正には賛成だが、総会決議に最終結論を委ねるためには健康定義についてもっと議論を重ねる必要がある。アラビア語の専門家委員会資料にあるspiritualはうまく翻訳されていない。

仲村英一、日本:健康定義改正といった大問題にはもっと時間をかけて議論すべき。

Leowski, ポーランド:もっと議論が必要。定義改正を行うと、WHOの役割をはじめとした他の条文との関連性がなくなるのではないか。

Sanou Ira, ブルキナファソ:改正に賛成だが、spiritualWHOなりの意味付けをするためにはやはりもう少し議論が必要。

Al Mousawi、バーレーン:改正に賛成。しかしspiritualの追加は代替療法推奨と理解される可能性があるため定義の明確化が必要である。

Shin、韓国:改正に反対ではないが、健康定義は重要問題なのでより幅広い層からの意見と合意を得た上で採択を行うべきである。

Van Etten、オランダ:脚注でspiritualを付記すればどうでしょうか。

Sulaiman、オマーン:spiritualという言葉は、多くの国の宗教家から民間医まで幅広い層が実践している様々な伝統医学を受け入れる含蓄ある言葉なので脚注を付けるのは相応しくない。

Calman, イギリス:改正に賛成。しかし定義改正は健康政策の重要な転換となり、今後更なる議論と合意が必要。この会議で採択は賛否が分裂するので賛成できない。議論継続を要求している参加者は棄権せざるを得ない。この理事会では改正に賛成の参加者が多いようあるが、改正には更に総会での議決が必要。ただ、spiritualが代替療法の意味を持つことは賛成できない。

Reiner, クロアチア:理事会は健康憲章の改正をここ2年間審議しており、一定の結論を出す時期にきている。しかし、まだ総会までは18ヶ月あり、最終結論が出るまでには十分時間がある。

Meloni, ペルー:spiritualという言葉の深い重要性は認めるが、改正によって生じるWHO業務への影響を考えればもう少し検討が必要ではないか。

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 (日本公衛誌 平成12年 第47巻 第12号 1013-1017に掲載)