きょうのコラム「時鐘」 2010年3月17日

 坂本竜馬になれたら本望だ、という元大臣の大仰な離党の弁に、この間まで流れていたテレビCMを思い出した。父親が白い犬という愉快な一家による携帯電話のCMである

土佐の海岸に侍姿の男が立っている。格好つけたポーズの男を見て、犬の父親が「竜馬かぶれか」と吐き捨てる。政局混迷の折も折、こんな竜馬気取りの出現を予想しないではなかった。同じようにかぶれる人たちが増えるのだろうか

土地柄、漆職人の仕事場に取材に通ったことがある。注意されたが、すぐに漆にかぶれた。程度の差こそあれ、大概の人がかぶれを経験するという。最初はかぶれず、気を緩めているうちにやられる人もいる。厄介なのはそんな人で、かぶれの症状は重く、治るのに時間もかかる。そう教わった

竜馬かぶれの若者は、いくらもいる。いい年をして、芝居がかったせりふを口にされるのは厄介である。聞かされる方がよほど気恥ずかしくなり、体がかゆくなる

「地球の命を守りたい」と演説し、議場の失笑を買った兄もいる。紙吹雪みたいにヒラヒラ舞うだけ。重みを失った言葉ばかりを聞かされる。