都・マンガ規制の問題点を読売新聞が身を呈して実証
2010年03月16日08時28分 / 提供:PJニュース
【PJニュース 2010年3月16日】東京都の「青少年健全育成条例」の改正に、漫画家や識者が反対を表明している。15日、都庁内で記者会見とトークイベントが開催された。ここでは、今回の改正案によるマンガ規制の危険性と同時に、「表現規制」に関する大手メディアの反応の鈍さも垣間見えた。
■「みだり」って何? 「健全」って何?
東京都の改正案は、「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」を「非実在青少年」と定義。非実在青少年を「みだりに性的対象として肯定的に描写」するものを不健全な図書類と規定し、青少年への販売・頒布貸付・閲覧を規制する内容となっている。
15日、都庁記者クラブ内で行われた会見では、漫画家のちばてつや氏、永井豪氏、里中満智子氏をはじめ、多数の漫画家や識者が出席。同時に、改正反対を表明した60名以上の漫画家のリストも発表された。出席者たちの間では、青少年育成の必要性については異論がない。「みだりに性的対象として肯定」などの曖昧な規定による表現規制の危険性を指摘する声や、日本のコンテンツ産業を支える表現活動への悪影響を懸念する声が中心だった。
「都は、『過激な性表現が野放しになっているので、それに限って否定しているのだ』と説明しているが、これは事実ではない。すでに現行条例に基づいて規制や摘発が行われています。出版社や同人誌の側でも様々な自主規制が行われています。今回の改正案は、18歳未満に見えるキャラクターの性的行為を肯定的に描写しないような自主規制を求めている。しかし高校生の何割かにとっては性体験が現実で、女性は16歳で結婚できる。それを肯定的に捉えてはならないと定められるということは、表現に対して非常に大きな影響を与える」(東京都青少年健全育成条例改正を考える会・藤本由香里代表)
改正案の内容だけではなく、改正に向けたスケジュールや手続きも問題視されている。
「これほど広範な影響を与える改正案なのに、審議スケジュールが異例ともいえる短さ。2月24日に条例案が出され、一般で意見を述べることができる日は25日の1日のみ。その後、議会の代表質問が3月3日、一般質問が3月4日。質問内容は事前に提出しなければならず、議員にすら数日の猶予しか与えられない。そして3月18日の総務部会で事実上の決定を迎えてしまう」(藤本代表)
■新聞記者も知らなかった
引き続き、藤本代表の談。
「あまりに報道されないので不思議に思い、1週間ほど前に新聞各社の記者に聞きましたが、ほとんどの方がご存じありませんでした。ジャーナリストでさえ知らない間に、これほど大きな条例が決められようとしているということは、賛成か反対かを除いても、非常に問題ある手続きだと思います」
会見後、都庁内で行われた公開イベントには、およそ300人(主催者発表)の聴衆が詰めかけた。藤本氏はここでも、大手メディアの状況に言及した。
「この件は、ネットでちらほら見てはいたが、初めは『ネタだろ?』と思った。こんな条例が通るわけないと。ネットのニュースを検索しても、『痛いニュース』くらいしか出てこない(笑)。この分野(文化関連)を担当する主だった新聞の記者たちに尋ねても、このニュースを知っていたのは1人だけでした。その方も『知ってはいるけど、通るはずはないのではないか』という感触を持っていたということだったんです」
藤本氏の周囲の記者が都庁記者クラブ担当者とは限らないが、新聞・テレビが一切報じなかったということは、記者クラブも今回、都庁に記者を常駐させていながら“権力監視”が全くできていなかったことになる。
■読売新聞は権力の犬か
会見では、質疑に入っても記者クラブ加盟社からの挙手はなし。3人つづけて、記者クラブに加盟していないフリーランサーが質問してから、ようやく加盟社のフジテレビが挙手。続いて、同じく加盟社の『読売新聞』記者から、こんな発言が出た。
「18歳未満と判断されるキャラクターのセックスが全部ダメなのかという疑問に対して都側は『みだりに、というなどの限定をしていて、決してそうではない』と説明している。現行の条例で、実際に(漫画家の)先生方が委縮している例があるのか。また、今回の改正案によって、具体的にどのように影響があるのか。先ほど永井(豪)先生が、『ハレンチ学園』も影響するとおっしゃっていましたが、将来の危険は別として、現状の都の見解ですと『ハレンチ学園』は当然、該当しないという判断を示すと思うんですが、その点の改正案の危険性をお聞きしたいと思います」(読売新聞の記者)
「弁護士の立場から言うと、『みだりに』という言葉は、実務上の運用では『必然性がないのに』程度の意味です。東京都の役人が、『この作品にこのシーンに必然性があるや否や』ということを判断すること自体が、そもそもいかがなものか」(山口弁護士)
会見後、ほかの記者が出席者に囲み取材をしていたが、読売の記者は早々に姿を消してしまった。東京都の主張を代弁しただけの読売記者にかんして、我々フリー記者の間で「なんだあれ?」「東京都のサクラか?」「まあ、読売らしいっちゃ読売らしいが」と地味に話題に。
会見後のイベントで、山口弁護士はこう語った。
「先ほどの会見で読売の記者が、永井先生の『ハレンチ学園』は今回の改正でも大丈夫ですよ、と言うんですね(会場、笑)。こういう発言をできてしまうということが、改正案の条文がいかに恣意的に決定できてしまうか、ということでもある。正直、この条文通りだと『ハレンチ学園』も何となく当てはなりそうな気がすると、法律家として自信を持って言えちゃうくらいなんですけど(笑)。その点について永井先生、どう思われますか(会場、爆笑と拍手)」
「40年前に『ハレンチ学園』でボコボコに叩かれて、またこういうことで出てくるとは思わなかった(笑)。当時こういう条例が通っていたら、『ハレンチ学園』は世に出ていなかったろうし、私の運命も大きく変わっていたと思います。『マジンガーZ』でも、『ハレンチ学園』のヒロインは継承されているし、色っぽいシーンは売りになっている。(今回の条例改正案は)それも規制しようと思えばできてしまう。日本のコンテンツは、自由に描けることが基盤になって発展しているのに」(永井豪氏)
読売新聞の記事は、<都青少年・治安対策本部は「すべての性描写が規制されるわけでなく、大人への流通も制限されない」として、漫画家の創作活動には影響しないと反論している。>とする都側の言い分を掲載した。しかし、都の言い分に対する山口弁護士の会見コメントは一文字も紹介していない。【了】
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■「みだり」って何? 「健全」って何?
東京都の改正案は、「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」を「非実在青少年」と定義。非実在青少年を「みだりに性的対象として肯定的に描写」するものを不健全な図書類と規定し、青少年への販売・頒布貸付・閲覧を規制する内容となっている。
15日、都庁記者クラブ内で行われた会見では、漫画家のちばてつや氏、永井豪氏、里中満智子氏をはじめ、多数の漫画家や識者が出席。同時に、改正反対を表明した60名以上の漫画家のリストも発表された。出席者たちの間では、青少年育成の必要性については異論がない。「みだりに性的対象として肯定」などの曖昧な規定による表現規制の危険性を指摘する声や、日本のコンテンツ産業を支える表現活動への悪影響を懸念する声が中心だった。
「都は、『過激な性表現が野放しになっているので、それに限って否定しているのだ』と説明しているが、これは事実ではない。すでに現行条例に基づいて規制や摘発が行われています。出版社や同人誌の側でも様々な自主規制が行われています。今回の改正案は、18歳未満に見えるキャラクターの性的行為を肯定的に描写しないような自主規制を求めている。しかし高校生の何割かにとっては性体験が現実で、女性は16歳で結婚できる。それを肯定的に捉えてはならないと定められるということは、表現に対して非常に大きな影響を与える」(東京都青少年健全育成条例改正を考える会・藤本由香里代表)
改正案の内容だけではなく、改正に向けたスケジュールや手続きも問題視されている。
「これほど広範な影響を与える改正案なのに、審議スケジュールが異例ともいえる短さ。2月24日に条例案が出され、一般で意見を述べることができる日は25日の1日のみ。その後、議会の代表質問が3月3日、一般質問が3月4日。質問内容は事前に提出しなければならず、議員にすら数日の猶予しか与えられない。そして3月18日の総務部会で事実上の決定を迎えてしまう」(藤本代表)
■新聞記者も知らなかった
引き続き、藤本代表の談。
「あまりに報道されないので不思議に思い、1週間ほど前に新聞各社の記者に聞きましたが、ほとんどの方がご存じありませんでした。ジャーナリストでさえ知らない間に、これほど大きな条例が決められようとしているということは、賛成か反対かを除いても、非常に問題ある手続きだと思います」
会見後、都庁内で行われた公開イベントには、およそ300人(主催者発表)の聴衆が詰めかけた。藤本氏はここでも、大手メディアの状況に言及した。
「この件は、ネットでちらほら見てはいたが、初めは『ネタだろ?』と思った。こんな条例が通るわけないと。ネットのニュースを検索しても、『痛いニュース』くらいしか出てこない(笑)。この分野(文化関連)を担当する主だった新聞の記者たちに尋ねても、このニュースを知っていたのは1人だけでした。その方も『知ってはいるけど、通るはずはないのではないか』という感触を持っていたということだったんです」
藤本氏の周囲の記者が都庁記者クラブ担当者とは限らないが、新聞・テレビが一切報じなかったということは、記者クラブも今回、都庁に記者を常駐させていながら“権力監視”が全くできていなかったことになる。
■読売新聞は権力の犬か
会見では、質疑に入っても記者クラブ加盟社からの挙手はなし。3人つづけて、記者クラブに加盟していないフリーランサーが質問してから、ようやく加盟社のフジテレビが挙手。続いて、同じく加盟社の『読売新聞』記者から、こんな発言が出た。
「18歳未満と判断されるキャラクターのセックスが全部ダメなのかという疑問に対して都側は『みだりに、というなどの限定をしていて、決してそうではない』と説明している。現行の条例で、実際に(漫画家の)先生方が委縮している例があるのか。また、今回の改正案によって、具体的にどのように影響があるのか。先ほど永井(豪)先生が、『ハレンチ学園』も影響するとおっしゃっていましたが、将来の危険は別として、現状の都の見解ですと『ハレンチ学園』は当然、該当しないという判断を示すと思うんですが、その点の改正案の危険性をお聞きしたいと思います」(読売新聞の記者)
「弁護士の立場から言うと、『みだりに』という言葉は、実務上の運用では『必然性がないのに』程度の意味です。東京都の役人が、『この作品にこのシーンに必然性があるや否や』ということを判断すること自体が、そもそもいかがなものか」(山口弁護士)
会見後、ほかの記者が出席者に囲み取材をしていたが、読売の記者は早々に姿を消してしまった。東京都の主張を代弁しただけの読売記者にかんして、我々フリー記者の間で「なんだあれ?」「東京都のサクラか?」「まあ、読売らしいっちゃ読売らしいが」と地味に話題に。
会見後のイベントで、山口弁護士はこう語った。
「先ほどの会見で読売の記者が、永井先生の『ハレンチ学園』は今回の改正でも大丈夫ですよ、と言うんですね(会場、笑)。こういう発言をできてしまうということが、改正案の条文がいかに恣意的に決定できてしまうか、ということでもある。正直、この条文通りだと『ハレンチ学園』も何となく当てはなりそうな気がすると、法律家として自信を持って言えちゃうくらいなんですけど(笑)。その点について永井先生、どう思われますか(会場、爆笑と拍手)」
「40年前に『ハレンチ学園』でボコボコに叩かれて、またこういうことで出てくるとは思わなかった(笑)。当時こういう条例が通っていたら、『ハレンチ学園』は世に出ていなかったろうし、私の運命も大きく変わっていたと思います。『マジンガーZ』でも、『ハレンチ学園』のヒロインは継承されているし、色っぽいシーンは売りになっている。(今回の条例改正案は)それも規制しようと思えばできてしまう。日本のコンテンツは、自由に描けることが基盤になって発展しているのに」(永井豪氏)
読売新聞の記事は、<都青少年・治安対策本部は「すべての性描写が規制されるわけでなく、大人への流通も制限されない」として、漫画家の創作活動には影響しないと反論している。>とする都側の言い分を掲載した。しかし、都の言い分に対する山口弁護士の会見コメントは一文字も紹介していない。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 藤倉 善郎
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