報道を国民の声、期待とするならば、総監の行為はその期待に応えられなかったことになる。規則に従った行動をして、国民の非難に晒されることになった。
国民にとっても、自衛隊にとっても不幸なことが待っている
2008年6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震の際に土砂崩れで埋まった宮城県栗原市の旅館「駒の湯温泉」で行方不明者の捜索と土砂の除去作業を行う自衛隊〔AFPBB News〕
なぜ、「災害派遣要請権者からの要請があった場合、部隊等を救援のため派遣することが出来る」という規定になっているのか。それは既に述べたように、自衛隊はできるだけ行動しないようにという考えで法律が作られているからである。
自衛隊は原則として行動させない、行動させる場合だけを法律に記載するという考えである。従って行動に関する全ての条文が「・・・ができる」という表現になっている。「このような権限の付与の仕方をポジリスト方式と呼ぶ」(色摩力夫・元チリ大使)。
横道にそれるが、このような法体系では当然のことながら法に記載されている以外の行動は一切できない。それは想定以外のことには対応できないということであり、情勢の変化に応じた対応もできないことになり、対応は遅れ遅れになることになる。
一方、「諸外国では軍隊の行動は国家主権の行使であり、原則自由、例外的制限を設けるネガリスト方式を取っている」(同元大使)。
この際、根拠法規がどうであれ、現実に大きな被害が生起しているのであるから状況に応じて柔軟に対応すべきであるという指摘があるだろう。しかしそれは当たらない。
法律を運用する場合、条文を趣旨に照らして解釈し良い結果を追求するということはあり得るが、趣旨に反することはすべきでない。一度行われれば例となり、それが蔓延していくからである。
毎年4兆円もの税金をつぎ込んで維持してきた自衛隊が、必要な時に適切な行動を取れないとしたら、国民にとっては不幸であろう。自衛隊員にとっても、営々と訓練を重ねてきたのに国民の期待に応えられないということは、不幸なことである。
放置したままでは将来に禍根を残す課題は多い
邦人輸送を例に取って所見を述べてきたが、新潟沖の不審船事案関連・領空侵犯対処等の法制上の問題、訓練の制約の問題、武器輸出三原則・調達等装備に関する問題等、さらには我が国防衛の根幹である日米共同に関わる基地・集団的自衛権等々、放置すれば将来禍根を残すと思われる課題は多い。
国民の期待と自衛隊の行動が合致するような法体系、態勢・体制の整備を、前もってかつ抜かりなく行っておくことが必要である。
そのためには、国民が我が国の防衛に関心を持って議論を深め、自衛隊に何を期待するのかを明確にしていくことも重要なことである。
ちなみに阪神淡路大震災のケースでは、その後法律が改正され次のような文言が付加された。
「ただし、天変地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を待ついとまがないと認められるときは、同項の要請を待たないで、部隊等を派遣することができる」
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