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ルポ 新「保守」(中)

2010年03月16日

写真

在特会の街頭デモに参加する人たち。インターネット上で生中継された=1月17日、名古屋市中村区、竹谷俊之撮影

●ネット発 危うい動員

 2月下旬のデモの様子を、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)はインターネットの動画サイトで生中継した。全国から同時にアクセスした視聴者は1千人を超す。
 「マスメディアは無視する。我々の武器は動画だ」
 在特会の桜井誠会長(38)はマスコミが報じない自らの主張を広めるため、ネットを自前の「放送局」にした。
 街頭活動に撮影隊が同行して中継するほか、録画を「ニコニコ動画」「You Tube」など動画サイトに投稿し、常時閲覧可能にしている。抗議相手や警官とのもみあいなど偶発的な事件が話題を呼んでアクセスが増えると、次の動員につながる。

 昨年12月に京都の朝鮮学校前で騒いだ動画は、早回しの映像に軽快なBGMが付いた、音楽ビデオのような導入で始まる。この3カ月で計9万回以上閲覧された。
 「嫌韓流」をテーマにした本の執筆者でもある桜井会長は「私の演説は一種のエンターテインメント。テレビの演出と一緒」と語る。約10分の「You Tube」画像の中で、「寄生虫」など外国人をののしる表現を差し挟むのがコツという。
 相手が留守でも、画像を撮るために「抗議」を演じることもある。
 千葉県浦安市の社会保険労務士の男性(32)は「最初は強烈。でも、繰り返し見るとオレもあれくらい怒ってもいいと思った」。いま男性は街宣でマイクを握る。「国賊」「反日マスコミ」。1月に東京・有楽町で声を張り上げた。
 ネット発の危うさと軽さ。在特会は、街頭活動を「祭り」と呼ぶ。ある話題で一斉に盛り上がるネット用語と同じノリだ。名古屋のデモには、ネットで見た岐阜の中学生5人組が、「売国奴」と書いた手製の看板を手に加わった。
 不透明な点もある。
 桜井会長の名はペンネームで、本名や職業は取材に明かさない。事務所や活動費は寄付で賄っているという。
 会員には、参院選に候補を擁立する保守系政治団体など既存団体の関係者も交じる。街頭デモの際は、警察への届け出や街宣車の手配など、手慣れた彼らが指南する。
 警察も活動を注視する。警察内で購読されている雑誌「治安フォーラム」は2月号で、民族主義的主張を打ち出す新たな市民運動を「過激な傾向を示す」と指摘した。

 在特会の主張は、在日韓国・朝鮮人らが日本に滞在し、普通に暮らすこと自体を、ほかの外国人と比べて「特権」と批判するものだ。生活保護の受給や外国人犯罪と、在日との関係を強調し、社会に潜在的にある差別意識や、生活不安をくすぐる。現在、朝鮮学校への助成廃止などを求め、自治体や地方議会への働きかけを狙う。幹部は語る。「過激な映像や批判的報道で、名前が売れた。次は行政との交渉力をつける番だ」

【北海道大大学院の中島岳志准教授(政治思想史)の話】 

 政治はここ10年、既得権たたきに躍起だった。規制緩和や郵政民営化、公務員改革、事業仕分けなど、国民の「自分より得しているヤツがいる」というねたみをあおり、支持を得る。ワイドショーも対立構図に乗った。在特会の「特権」という発想や、ネット動画の中で運動を演じるのも、劇場型政治の戯画だ。経済政策の選択の幅が狭まり、政治の対立軸として、夫婦別姓や死刑、外国人参政権など「価値観」を問う問題が前面に出てきた。「左・右」ではなく、「好き・嫌い」で政治を判断する時代になっている。

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