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日本の食卓を救う養殖マグロ

2010年03月16日
ノンセクション

関連キーワード :まぐろ

【勝ち組ビジネスの舞台裏】13日から開かれているワシントン条約締約国会議でクロマグロの禁輸がほぼ確実な情勢になっている。しかし「食卓から本マグロが消える!」と焦ることはない。養殖のクロマグロがあるからだ。近畿大学水産研究所が育て上げた「近大マグロ」はデパートで高値で売られ、天然物より美味との声も高い逸品。これを作り上げるのには苦心の連続だったというが、果たしてその養殖マグロの舞台裏とは!?
天然の半値で美味
「タイやブリの養殖と聞くと、みなさん脂っぽいだとか、みんな同じ味がするだとか言うでしょ。しかし、マグロの場合、その脂がおいしいわけです。ウチのマグロは赤身ですらトロの味がします。これが日本だけでなく、米国や中国など海外でも大好評です」 

 こう力説するのが近畿大学水産研究所長(和歌山県白浜市)の村田修氏(写真㊤)だ。近大は国との共同事業で1970年にマグロの養殖を開始。国はあまりの難しさに3年で撤退したが、近大はその後も独自に開発を続け、すでに40年。2002年にはマグロの完全養殖に成功するなど、エキスパートとして世界中にその名をとどろかせている。 

 近大マグロの特徴である完全養殖とはどんなものか?「養殖で育った親マグロから卵を取り、それをふ化。さらに陸上のいけすで稚魚まで育て、その後、海中の水槽で成魚まで2〜3年かけて育てたもの」だ。「通常のマグロの養殖は稚魚を海で捕まえて、それを大きく育てます。しかし完全養殖は全く自然のマグロを使いませんから、今回のワシントン条約は関係がない。しかも、水銀値は天然モノの半分。エサも我々が与えたものだけですからより安全なのです」(村田所長) 

2〜3年で、商業ベースとなる30キロ前後に育つ。シーズンにもよるが現在1週間で10〜20本のマグロが出荷されていく。近大マグロは学内で設立された加工販売会社の「㈱近大アーマリン」がデパートなどに卸しており、通常の養殖クロマグロが1キロあたり2000円台で取引されるのに対し、近大マグロは3000円台と、通常で約6000円台はする天然モノの半値。評価の高さがうかがえる。

 さて、クロマグロの禁輸が始まれば、近大マグロに対する期待がさらに高まるが、果たして今後、数を増やしていくことができるのか?
不安な海外からの逆輸入 
 村田所長は「技術的には数を増やすのは可能だと思います」と太鼓判を押す。マグロの養殖で一番難しいのは、卵から6〜10センチまでの稚魚に育てることだ。実は数年前までは1%台しか稚魚にならなかった。しかし、昨年度は5〜6%にまでアップ。近い将来10〜20%まで高められそうなのだという。「我々は大学ですから自らが大量に生産していく気はありません。しかし、日本の養殖業者さんに稚魚を売り、我々が培ってきた育成法のノウハウを提供すれば、どんな規制ができたとしてもマグロの数は確保できます」(同)

 現在日本の養殖マグロは6000トン、近い将来にはこれをすべて近大マグロでカバーすることも十分可能。つまり食卓から本マグロが消えることはないのだ。

 ちなみに、村田所長の心配は全く逆のこと。マグロの価格が下落することだ。「本マグロは1キロ大きくするのに、10倍のエサが必要です。育てるにはお金がかかる。しかし、養殖マグロが増えれば価格は下落し、業者は全く儲からなくなる。我々の技術はオーストラリアなどにも提供しています。海外から逆輸入で安い“近大マグロ”が入ってくる可能性もある。そうなると日本の水産業が大きな打撃を受けます」

 マグロ養殖で日本の水産業を盛り上げたいというのが近大水産研究所の願い。だが、海外からの要望を無視するわけにもいかない。ワシントン条約で日本が闘っている中、パイオニアの近大も大いに悩んでいるのだ。

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