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日本 戦争 記者会見
元従軍慰安婦への償い事業 光と影〜アジア女性基金解散にあたり
2007/04/18


日本語 英語通訳で配信


 6日、東京の日本外国特派員協会で。



 朴裕河(韓国・世宗大學教授)



 アジア女性基金 前専務理事 和田春樹氏(東京大学名誉教授)



 財団法人・女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)の解散にあたって、同基金の前専務理事・和田春樹氏(東京大学名誉教授)と、韓国・世宗大學教授・朴裕河(パク・ユハ)氏(※)が6日、東京の日本外国特派員協会で、同基金の解散にあたって講演した。

 アジア女性基金は、村山内閣により1995年に設立され、「民間と政府の協力」という形で償い事業を続け、今年3月に解散した。日本政府としての正式な補償ではないとの批判や、韓国の元従軍慰安婦たちが補償金の受け取りを拒否するという動きもあったが、会見で和田氏は「過去の問題を直視し、近隣諸国との和解を目指す努力は続いていく。」「日本政府と国民は立ち止まらないだろう。」と語った。

 また、朴氏は、日本の“償い事業”の取り組みに関して、被害各国に十分に理解されていない点、被害国民の中にも加害的行為があったとする最近の研究で明らかになった事実を引いた上で、「日本がやったことの実態を知ることから、今後の目指すべき方向がある。」と話した。

※朴裕河氏(韓国・世宗大學教授)
(『和解のために―教科書・慰安婦・靖国・独島−』[佐藤 久 訳・平凡社・2006年11月]、『反日ナショナリズムを超えて〜韓国人の反日感情を読み解く〜』[安 宇植 訳・河出書房新社・2005年8月] 著者)

アジア女性基金 前専務理事 和田春樹氏(東京大学名誉教授)

【講演内容(全文)】
 
 この外人記者クラブでお話しさせていただく機会を与えられましたことを感謝します。「アジア女性基金」は本年の3月末をもって解散いたしました。今は12年間の活動をどう評価するかが問われておるわけです。まあしかし、成果の評価というのは見方によって変わるだろうと思います。基金はフィリピン・韓国・台湾において総理の謝罪の手紙・国民からの償い金・政府からの医療福祉支援という3つの構成要素からなる償いの事業を285人の元慰安婦の方に実施しました。

 さらにオランダでは国民からの償い金を除いた別のバリアントによりまして、79人が被害者に実施いたしました。合わせれば364人であります。こうしてオランダでは収容所から強制的に慰安所に送られた被害者のうち、生存しておられる方の殆どの方が事業を受け入れて、その結果、日本とオランダの和解のためにも基金は貢献できたと思います。

 アメリカの議会で証言なさったオヘルネさんは、「アジア女性基金」を拒否されたごく少数の方のお一人です。フィリピンでは政府が協力的であり、国家補償を要求している運動体も「老いた被害者が基金を受け取ると決断されるなら、その意思を尊重する」という態度をとられました。その結果多くの人が基金に対して申請をされまして、認定を受けた人は全員が受け取りました。

 その人々は殆どが、レイプにはじまって兵営などに拉致監禁され、レイプを続けられたという性奴隷的な存在です。フィリピンでも基金の事業は肯定的に受け取られています。しかし、韓国と台湾では「法的責任を認めよ」「国家補償を行なえ」という主張を掲げる運動体の影響が強く、被害者が「アジア女性基金」を受け取ろうとすると、それを認めないという圧力が加えられました。

 韓国では、政府認定の慰安婦被害者の過半が基金を受け取りませんでした。韓国と台湾では「基金を受け取らないと誓約する者に、政府や民間団体が300万円・200万円を支給する」という悲劇的な対決状況が生まれました。このような状況が生まれた責任がどこにあるか、ということは別にしまして、このような状況が存在するがゆえに、韓国と台湾では基金を受け取った人の数を発表することもできずに終わっています。

 基金を受け取った人の数は決して少ないものではありませんが、しかしまあ事業は中途で終わっていると、決して日本と韓国の和解は十分できたと思えません。しかし、韓国では朴裕河教授のような新しい主張が公然と提起されるにいたっております。私たちはそこに希望を持っています。

 インドネシアでは、スハルト政権の主張で、元慰安婦個人に対する事業ではなく、高齢者福祉施設を60戸建設してほしい、ということになりました。実際には10年間で69個の施設を建設しました。現在インドネシアには全国に235の老人福祉施設が存在します。したがって69戸の建設は小さいものではありません。

 当初は、インドネシアでは慰安婦のことを話題にすることもはばかられ、事業は間接的なものでしたが、最後にはインドネシア社会省の協力を得て、もと慰安婦14人が入居する民間団体の高齢者施設をつくることができました。中国・北朝鮮・東ティモール・マレーシア・ミャンマーなどへは事業をすることはできませんでした。これは色々な理由がありますが、残念なことであります。

 このような事業を行うために、かつ女性の尊厳のための事業という第2の目標とあわせまして、アジア女性基金は活動の経費・事業経費として12年間で35億500万円を使いました。個別被害者のための医療福祉支援には7億5000万円。インドネシアの高齢者施設建設のためには3億7000万円。合わせて医療福祉支援としまして11億2000万円を使いました。

 したがいまして、政府の資金はアジア女性基金を通じまして、46億2500万円が使われたわけです。他方で国民からの募金は5億7000万円が差し出されました。このように基金の費用は圧倒的に政府が負担しているものであります。それでいて、基金の中心には民間の有志がおり、政府と対等に議論をして基金の方針を決めておりました。

 基金は、日本の歴史の中で、したがって前例のない独特な組織であります。振り返ってみると、1995年に基金がスタートしたのは、戦後50年に政府と民間の総意を結集した結果でありました。その前が宮沢内閣の総力をあげた取り組みがありました。資料の調査、関係者の聞き取りがなされ、それに基づいて河野官房長官談話が1993年に出されたわけです。

 それに基づいてどのような償いの措置を考えるかということは、社会党と自民党と新党さきがけの連立政権・村山政権に委ねられました。3党間の話し合いは右翼的な議員からの圧力を撥ねのけてなされました。そのためには、社会党と自民党と官僚たちが意見を合わせなければなりませんでした。そうして戦後50年間他国の戦争被害者のために何もしてこなかった政府と国民が、それまでの壁を破って、癒しがたい精神と肉体の傷を負った女性たちに対する謝罪と償いのために行動する道に踏み出したわけであります。

 まあ、今になって思えば、あのときの条件の中では、「アジア女性基金」は最善の解決策だったと私は思います。政府と民間が協力したということの最大のポイントは総理の“お詫びの手紙”でした。基金の関係者はこれが得られなければ全員が辞職する覚悟でした。橋本総理は考えに考え抜いた末に決断されました。総理の手紙が被害者に対して極めて大きな意味を持ったということは知られております。

 こうして獲得した地平をアジア女性基金は守ってきました。歴代の総理は、小泉首相まで、お詫びの手紙に署名をして後退しませんでした。基金が事業を開始したのは、慰安婦問題に対する保守的な批判が高まっていくのと機を一にしていました、そのような右からの批判に抗して、基金は政府とともに、いわば“占領した高地”を守ってきたのであります。

 問題はアジア女性基金が解散するとき、政府と国民が基金の活動についてどのような評価を下すか、基金がなくなったのちにどうなるかということでした。昨年の9月、安倍晋三氏が総理大臣になられました。慰安婦問題について、これまで述べられた意見のことは良く知られています。しかし、総理に就任した後、安倍晋三氏は、村山談話と河野談話を継承すると明言されました。

 今年に入り、アメリカの議会の決議案が出た後、安倍総理は「アジア女性基金を支持する」、「歴代の総理の“お詫びの手紙”の精神を継承する」と表明されました。これによって河野談話・アジア女性基金の活動・村山談話・総理の“お詫びの手紙”は、新総理の承認を得たことになるわけです。

 安倍総理は、国民多数の意見、海外諸国の声を考えて、これまでの政府の基本見解をそのまま継承するというふうに表明されたのだろうと思います。政府の基本見解と国民のコンセンサスは守られたと考えます。

 アジア女性基金の12年の活動がそのことの土台となったと考えることは大きな喜びです。ひとたび、そのような確認がなされるとすれば、その確認に立った努力がなされるだろうと思います。

 アジア女性基金は国交がないために北朝鮮の元慰安婦に対しては事業をなし得ませんでした。北朝鮮の被害者のために、お詫びの気持ちに立った償いの事業は、今度は基金ではなく政府によってなされることになるだろうと思います。

 今ひとつ皆が心をそろえて努力をしていくべき課題は、記憶を維持し、歴史の教訓とすることです。アジア女性基金はインターネット上にデジタル記念館『慰安婦問題』と『アジア女性基金』を残そうとしています。我々の過去の問題を直視して、それに取り組み、近隣諸国との和解を目指す努力は続いていくと思います。今は、その努力の、“アジア女性基金”の時期が終わったということに過ぎません。

 私は、日本政府と国民は立ち止まらないだろうというふうに信じています。Thank You。

朴裕河(韓国・世宗大學教授)

(『和解のために―教科書・慰安婦・靖国・独島−』[佐藤 久 訳・平凡社・2006年11月]、『反日ナショナリズムを超えて〜韓国人の反日感情を読み解く〜』[安 宇植 訳・河出書房新社・2005年8月] 著者)

【講演内容(全文)】

 アジア女性基金に関しては、今、和田先生が十分にお話してくださったので、その具体的な内容に関しては、お話しません。時間があまりありませんので、私のお話は、ポイントだけに絞って簡単にして、もし時間がありましたら、質問を受けて、それに関して説明をする、という形で進めたいと思います。

 ちょうど安倍首相の慰安婦問題関連の発言が、今問題となってきましたので、それに関してお話ししたいと思います。ご存知の通りに、最近……本当はもう、結構前からの動きで、再び出てきたことなんですが、アメリカの議会で、慰安婦問題をめぐる決議案が出されようとしています。

 そういった動きに対して、今まではアメリカがわりと積極的な発言はしてこなかったと思うんですが、今回はワシントンポスト紙ですとか、あるいはニューヨークタイムスの方で安倍首相を批判する発言・意見を出しました。こういった反応に対して、当然ながら韓国のマスコミでは大変歓迎しております。しかし、そういった反応、或いはアメリカでの動きといったものに関して、少し違った意見を述べたいと思います。

 思いますのは、慰安婦問題をめぐる、“本当の理解”と言うか、今、和田先生がおっしゃったような、慰安婦問題をめぐる日本の対応の仕方を含め、戦後、あるいは植民地時代にもどってもいいんですが、慰安婦問題をめぐる真実というか事実といいますか、それに関しての理解がどうも韓国の中にも、或いはその他の国においても、ちょっと足りないような気がします。

 一番問題だと思うのは、多分……そういった行動の元にある気持ちというのは十分に理解し支持しているつもりなんですが……そういった行動に出るにあたって、恐らく韓国側の理解をそのまま受け取っての批判なり、意見だったのではないかというふうに思っております。

 つまり、アメリカでのそういった批判の中身を見ますと、或いはマイケル・ホンダ議員の決議案の中身を見ても、そこで言っていることは韓国の慰安婦問題を支持している団体の言い分をそのまま、言っているというふうにお見受けしました。

 あまり詳しい話はお話できませんけれども、まず、今和田先生がおっしゃったような慰安婦問題に対する日本の対応に対して、韓国では殆ど理解されておりません。具体的には、民間基金であるということで批判されたわけなんですが、政府が関わっており、首相の手紙がついているという、とても単純なことではありますが、象徴(的)なことであります……そういったことさえも、一般的な知識にはなっておりません。

 その理由に関してはいろいろ言えますが、とりあえず省略します。そのために、実際基金が……私自身は基金がやったことが、完全であったというふうには思っていませんが……やったことの中身がきちんと伝わらなかったために、返って逆効果と言いますか、基金の行動というのは、戦後日本の悪いところ、或いは、もっと戻って「植民地時代の本質が出たものだ」、というふうに理解されました。

 まずは、韓国において、そういった実際のことが理解され(ない)ままの誤解があったということを、まず1点目として申し上げておきたいと思います。で、そのことが、今批判の言葉として言われている「日本は謝罪も保障もしなかった」というような言葉として、韓国でまかり通っている、というふうに思っています。

 2点目なんですが、これは韓国にとってはとても大事なことだと思いますが、「慰安婦問題をめぐる本当のこと」と先ほど私は申し上げました。それは……これは日本の“右派”の人もよく言っていることなので慎重に言いたいと思いますが……「動員の過程において、韓国人も関わっている」といった事実があります。

 もちろんそういったことを言いましても、あくまでも植民地化という被害の中での加害でありますので、細かいことはもちろんいろいろ言えることはあります。しかし、そういったことに関して、韓国の人たちは殆ど知りません。個人的なことをちょっと申し上げますと、私は慰安婦の方とインタビューをしたことがありますが、義理の父親に売られて行った女性がいました。もちろん、このことは最近日本の右派の人も言っていることなので、誤解を避けるためにもう1回強調しておきたいのですが、それはやはり需要があったからこそ、そういうふうな動きがあったわけなので、そのこと自体に対する批判はしません。

 その方が、自分の苦労をいろいろ話した最後に、私が聞きました。「日本軍とそのようにした父親とどっちが憎いのか?」というちょっと意地悪な質問をしました。その方は、「お父さんだ」というふうに言いました。そこで、私が思うのは、私たちが責任を取るということは、やはり、そういった気持ちに応えるということだということです。そういうふうに思った時に、そういった加害性に関しての責任は、確実に韓国にもあるというふうに思うわけです。

 さらに言いますと、韓国戦争の時に、韓国軍隊も慰安隊を運営したという事実が出てきております。研究が出てきてます。こういったことを言いますのは、日本の加害性がそのことによって薄まるということではありません。そういったことによって、そのことを知ることがもしあったとすれば、日本に対する非難の内容が少しは変わってくるというふうに思うわけです。

 今、出ているアメリカでの批判も含めて、今、申し上げたように、韓国自身も、或いは韓国だけじゃなく、他の国もそういった慰安婦制度を持っていたということがあるのに、慰安婦問題を、日本だけのことにしてしまって、慰安婦問題の本質を考えるという機会が失われるのではないか、私は寧ろその点を憂慮しています。

 整理すれば、最初に申し上げました、実際の日本の対応に対する誤解があったことが、1点。それから……これはいろんな研究によって明らかになるわけですが……慰安婦問題をめぐる実際のことに対する不理解、この2点があって、今の状況を生んでいるというふうに考えております。

 安倍首相は「広い意味での強制性はあったけれども、狭い意味での強制性はなかった」というふうに言ってます。そのことの背後には、今申し上げたようなことがあるかと思います。ただし、ここで、もう1度考えなければいけないのは「誰が」「どうして」そのことを言うのか、ということだろうと思えます。

 これは個人の心理と限りなく近いことだと思っておりますが、安倍首相の言うこと自体は理解しつつ……それがまったく慰安婦はなかったと言っているかのごとく受け取られることに関しては残念には思いますが……やはり、ああいう言い方になると、ああいう誤解を招くことになるのも仕方のないことだと思っております。

 最後になりますが、韓国では、今、「お金だけじゃなくてちゃんと謝罪する言葉がほしい」というふうに言っておりますが、どんな謝罪をしたとしても……ちゃんとした法律じゃなかったということで、いろいろ言われるわけですが……それは「本当の心ではない」というふうに受けとられる可能性があり、そういったことを考えますと、やはりその謝罪を受け入れる(成立させる)のは、被害者の側であります。そういった意味では、まず、日本がやったことの実態をとりあえず正しく知ることが、今後の目指すべき方向ではないか、というふうに思っております。

 以上です。ありがとうございました。 

関連サイト
女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)

(編集部)


ご意見板

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[27042] よい記事です
名前:岡田克敏
日時:2007/04/21 15:19
 この問題に関しては断片的なことしか知りませんでした。それも何らかの色つき情報が多く、全体像を知る機会が乏しかったように思います。


 これは説得力があり、全体像をよく把握できます。納得しました。
[26976] この記事にホットしました
名前:忍野タカユキ
日時:2007/04/19 22:52
朴裕河氏が韓国における左派であるなら、日本の左派は朴裕河氏のような韓国の左派と意識を共有して未来指向で建設的な意見交換できれば問題解決に結びつくかも。
でもね・・・

日本の“自称”左派って反日政権の右派と同心円ですから。
困ったものです。
[26944] 相互理解
名前:山口一男
日時:2007/04/19 00:53
朴裕河氏の考え、こういう考え方をする人が韓国人に多くなり、日本に側にも人権問題としての慰安婦問題一般の事実認識において、朴さんと認識を共有する部分の多い人が増えれば、この件に関する日韓の過去のしこりとわだかまりを、超えられるのにと思えます。でも、実際は日本側にも韓国側にも相手への感情的反発意識が相互理解を難しくしているし、歴史の問題の相互理解には、未だ他にも多くの壁がありますが。