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社説

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政権交代から半年―新たな政治の芽を育てる

 政権交代から半年がたった。

 朝日新聞社がこの週末に実施した全国世論調査によれば、鳩山由紀夫政権発足当初7割に及んだ内閣支持率は、3割程度にまで落ち込んだ。

 首相に実行力がない。言葉が軽い。政策は迷走続き。政治とカネの問題に真剣に取り組もうとしない――。

 支持率続落の要因は、はっきりしている。政治が変わると期待したのに、あまり変わったように見えないという幻滅だ。当然の反応である。

 しかし、そちらの面だけに目を奪われて現状を嘆くばかりでは、建設的でも賢明でもないだろう。

 私たち有権者が目を向けるべきもっと大切なことがあるのではないか。

 それは、鳩山政権のこれまでの仕事ぶりには失望を禁じ得ないにしても、有権者は政権交代を起こしたこと自体を後悔しているわけではないという事実である。同じ世論調査で、政権交代が起きたことを「よかった」と答えた人が7割近くもいた。「よくなかった」と答えた人は2割にすぎない。

 この数字が物語っていることの意味は、実はとても大きい。

■「過去」との決別切実

 改めて考えてみたい。

 有権者は昨年、なぜ政権交代を選択したのか。何より、あまりに長く続いた自民党支配の政治という「過去」の清算を選んだのだろう。

 民主党のマニフェストや政策の実現性をおおいに疑ったにもかかわらず、有権者は民主党を圧勝させた。その後、鳩山政権の支持率はじり貧でも、自民党支持率には回復の兆しがない。

 「過去」との決別を望む有権者の思いがいかに切実かを示す証しである。

 だからこそ、鳩山政権が古い自民党そのままの体質や政治手法を見せたときの、有権者の拒絶反応が並大抵ではないのは当然なのだ。

 不透明な政治資金の問題しかり。予算配分をてこに選挙で票を得ようとする利益誘導戦術しかり。政策よりも地元回り優先の選挙至上主義しかり。

 小沢一郎民主党幹事長は言った。

 「国民が主権を行使できる機会は選挙しかない。すぐ『選挙のために。選挙のために』とメディアが言うけれども、当たり前だ」

 選挙に勝ったら、後は好きにやらせてもらう。有権者は次の選挙まで黙っていて欲しい。そんな発想だろうか。だが、選挙に勝つことが何のためなのかを有権者に十分説明できなければ、小沢氏は結局批判を避けられまい。

 かつての政治への後戻りは御免だが、それに取って代わる「未来」の政治の姿は確かな形で見えない。それが政権交代半年の現状としても、手がかりがないわけではない。

■「未来」の政治文化は

 民主党がかねて重視してきたのは、統治の仕組みを官主導から「政治主導」に切り替えることであり、「お上にお任せ」の政治文化の一掃である。

 無駄な予算をあぶり出す事業仕分けや、日米密約の検証などは政権交代の成果だ。

 まだ足りない点は多いし、混乱も続くが、統治構造の変革という壮大な野望が簡単にかなうはずはない。時間をかけても、官僚の力や民間の知恵を政治主導に取り込んでいくことだ。

 同時にこの試みは、私たち有権者にも相応の覚悟を求めるものである。

 鳩山首相は、選挙という民主主義の回路とは別に、「政治や行政への積極的な参加」を有権者に呼びかける。また、みずからの政権の「神髄」を、「新しい公共」と表現する。「官」が主に担ってきた公共的な役割を、「民」が積極的に担っていこうという考え方である。

 例えば「コミュニティースクール」だ。公立の学校で、地域住民がクラブ活動や、総合的な学習の時間で指導する。算数や国語の授業にもボランティアが入る。

 「民」を後押しする政策づくりの中心が、政府の「『新しい公共』円卓会議」である。会議のメンバーを含む有志は、インターネット上での「新しい公共電子会議」も始めた。

■「参加」と「熟議」が鍵

 選挙抜きの民主主義はないけれど、選挙だけが民主主義ではない。そんな発想から民主主義を進化させようという模索は、なにも鳩山政権のオリジナルではない。

 住民自身が予算の配分を決める「参加型予算」。無作為抽出した市民に議論してもらい、民意のありかを探る「市民討議会」。「参加」と「熟議」をキーワードにした試みが、あちこちでとっくに始まっている。

 政権交代は、こうした新しい政治文化をくっきり目に見えるものにした。政権交代がもたらした功の部分であり、有権者の7割が「よかった」と感じる理由の一つであろう。

 鳩山政権ははがゆい。日米関係、財政や成長戦略など、基本政策でも不安の種は尽きない。鳩山、小沢両氏による今の民主党体制の困難は増す。

 現政権の先行きはどうであれ、私たち有権者は政治に背を向けては生きていけない。安易に政治を見放して手痛いしっぺ返しを食うのは、私たち自身にほかならない。

 私たちは「自分たちで選ぶ」ことで歴史的な政権交代を実現させた。さらに歩を進め、「自分たちでつくる」政治をめざす。退くわけにはいかない。

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