最新の医療ルネサンス・医療企画
- 最新の医療ルネサンス・医療企画とは
読売新聞朝刊くらし家庭面の連載「医療ルネサンス」から最新記事や夕刊医療面に掲載の企画記事を紹介しています。
連載は1992年に「心と体に優しい医療」の実現を願ってスタートし、すでに4700回を超えています。これまでに新聞協会賞(94年)、菊池寛賞(95年)、ファイザー医学記事賞(2007年)などを受賞しました。
がついている記事には、専門記者が最新情報などを書き加えた「情報プラス」があります。
シリーズ
- [夕刊企画]免疫吸着療法 拡張型心筋症に効果
大阪市の主婦、世利恵子さん(46)は2005年、ひどい息切れで歩けなくなり、病院で拡張型心筋症と診断された。入院して薬物治療を受けたが回復せず、医師は心臓移植の登録を勧めた。ところが07年、北里研究所病院(東京)が研究の一環で行った免疫吸着療法で回復。日常生活を問題なく送れるようになった。(佐藤光展)
拡張型心筋症は、心臓の筋肉が薄くなり、血液を送るポンプ機能が低下する難病。悪化すると、心不全や不整脈などを招く。患者数は約1万8000人で、どの年代でも発症するが、男性に多い傾向がある。
原因は複数あるとみられるが、風邪などのウイルス感染で免疫機能に異常が生じ、本来は体を守る抗体が、心臓を異物と誤認して攻撃することが一因と考えられている。このような抗体を「自己抗体」と呼ぶ。
血圧を下げるベータ遮断薬などの投与で、患者の5年生存率は8割近くに高まった。だが、薬物治療で目立った効果がない重症者の経過は、依然として悪い。
免疫吸着療法は、血液から分離した血漿から、自己抗体をフィルターで取り除く治療法。運動神経が障害されるギランバレー症候群などの治療で既に行われている。この治療を拡張型心筋症でも保険で受けられるようにするため、今年2月から北里研究所病院などで臨床試験が始まった。
世利さんは、同病院が臨床試験に先立ち行った研究に参加。治療前は「会話や食事だけで心拍が急増し、苦しくなった。絶望して泣くと更に苦しくなるため涙も流せなかった」という。
それが治療半年後には、停止の恐れさえあったポンプ機能が正常の下限近くまで回復。今も安定し、「夫と会話したり、思い切り笑ったりしても苦しくないのが何よりうれしい」と話す。同病院の研究では、世利さんを含む重症者8人中5人のポンプ機能が改善した。
今回の臨床試験は18歳以上の重症者約40人が対象。副作用や、自己抗体の検査値と効果の関係などをみる。入院期間は2週間で、1回2時間の治療を5回受ける。くじ引きで10回行う患者も選び、効果を比較する。
同病院循環器内科副部長の馬場彰泰さんは「最近の研究で、患者の8割から自己抗体が見つかった。治療効果には個人差があるが、有効な患者は多いのではないか」と話す。
子供の拡張型心筋症に対しては、血漿交換療法の開発が進む。患者の血液から分離した血漿を、献血で得た血漿と入れ替え、自己抗体を取り除く方法だ。
山梨大病院が開発し、昨年末以降、10歳代の子供2人に実施。同病院救急部教授の松田兼一さんは「寝たきりだった2人とも階段を上れるようになった。治療数を増やし、国の先進医療に申請したい」と話す。
(2010年3月4日 読売新聞)
シリーズ
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