国会の中心でヤジを叫ぶ
2010年3月15日 AERA
小沢執行部から新人議員たちに「ヤジ指令」が出た。ヤジを「国会の華」と見る向きもあるにはあるが、国会の中心で彼らは何を叫んでいるのか。
新年度予算案の審議が大詰めを迎えていた3月2日の衆院予算委員会。自民党の加藤紘一元幹事長が、長崎県知事選で農水省出身の官僚を擁立した民主党の選挙運動を取り上げた。
選挙前に地元で民主党議員と農水省幹部、自治体関係者による会合があったことを指摘し、こう訴えたのだ。
「自民党が権力を持っているときには選挙でストレートに官僚を使わなかった。農水省幹部が選挙活動をしていたら大問題だ」
「ヤジは国会の華」
すかさず与党席から新人の森本和義議員が「(自民党は)使っているじゃないか」とヤジる。すると、加藤氏は「ヤジにお答えするが、自民党がやってると思うのは、下手な自民党を見ているんです。選挙ぎりぎりの時にやったら下手だ」と応酬すると、続いて別の新人、畑浩治議員が「やっていることを認めているじゃないか」と畳み掛けた。民主党には143人の新人議員がいる。10班に分けられ、国会のある日はミーティングが日課だ。政治家としての振る舞いや、国会の基礎知識を教え込まれる。党の新人教育を取り仕切るのは小沢一郎幹事長の側近、山岡賢次国対委員長。山岡氏は「センスのあるヤジ、激励のヤジは国会の華」とヤジを奨励する。
例えば、衆院予算委員会にも出席が義務づけられ、輪番制で連日2班ずつが詰めかける。壁際のいす席や空いた委員席が新人たちの指定席だ。
ある班では、引率役の先輩が「質問に立つ自民党議員がいちばん嫌がるヤジは『お前が何やっているか全部知ってるぞ』だ」とノウハウを教えた。
引率役が手本を示すこともあった。当選3回の小宮山泰子議員は新人議員の前で仁王立ちし、予算委の審議を止める自民党の町村信孝筆頭理事に「ちゃんと議論してください」。同期の松木謙公議員は小沢幹事長の「政治とカネ」をただす棚橋泰文議員に「ほかに聞くことないのか」とすごんだ。2人とも、小沢氏系「一新会」のメンバーだ。
先輩のヤジに、新人が感心する光景もよく見られた。秀逸だったのは当選4回の伴野豊議員だろう。自民党の与謝野馨議員から偽装献金事件で「平成の脱税王」などと非難されて激高した首相に、伴野氏は「総理、冷静に。挑発に乗っちゃいけません」。その後、落ち着きを取り戻した首相。身内を窮地から救ったのだった。
指導の甲斐あってか、ヤジで目立つ新人も出てきた。2月10日、自民党の金子一義議員が予算の「個所付け」について質問していた時だ。斉藤進議員のヤジに金子氏は怒り、名前を質した。
金子「(個所付け漏出は)憲法違反にあたる話ですよ」
斉藤「いい加減なこと言うな」
金子「あんた誰だ、(名札を見て)斉藤進。大事な話でとんでもないヤジだ」
民主党の体質と関係?
ただ、積極的にヤジを飛ばす新人はほんの少数。小沢ガールズをはじめ大半は拍手やかけ声程度。ヤジを飛ばしても一呼吸遅く、先輩のヤジにかき消されがちだ。前出の畑氏は「ヤジは難しいが、質疑に集中するので勉強になる。相手もうなるようなヤジを飛ばしたい」。とはいえ、ヤジはヤジ。新人を事業仕分けや政務官などの政府の役職から排除する小沢流の管理教育が不満のはけ口をヤジへと向かわせている面も否めない。冒頭の加藤氏は皮肉る。
「民主主義を本当に壊してしまうのは、こうやってヤジるしか自己主張の場がない民主党の体質にあるのではないか」
編集局 山田明宏、山下 剛
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。