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ルポ 新「保守」 (上)

2010年03月15日

写真

「行動する保守」などが呼びかけたデモ行進。女性を先頭に立て、在日本大韓民国民団の本部前まで歩いた=2月21日午後、東京都港区、福留庸友撮影

●右翼超える「市民の会」

 警官隊に制止されながら、100人を超す男女が、日の丸を手に叫び声をあげる。
 「日本から出て行け」「ゴキブリ」「キムチ」
 各国の外交施設が集まる東京都港区。2月21日、韓国大使館領事部や在日本大韓民国民団の入るビルの前で、「行動する保守」を名乗る人々が、インターネットで呼びかけた街頭デモがあった。
 この翌日は、日本と韓国が領有権を争う竹島(韓国名・独島)について、世論を喚起しようと島根県が定めた記念日。「軍事力を含めた手段で竹島を奪還せよ」。横断幕に太文字の主張が躍る。
 「攘夷」。参加者が持参した旗や看板にも、いかつい言葉が並ぶ。新聞にそのまま書けない、在日韓国・朝鮮人を犯罪者扱いする表現もある。
 彼らが「反日」と見なすものすべてが非難の対象だ。看板には民主党や中国、北朝鮮を批判する文言も。取材する記者にもヤジが飛ぶ。デモの後、人々は近くのオーストラリア大使館に移動して拳を上げた。「(捕鯨問題で)日本を侮辱する白人と開戦するぞ」
 バス停に立ち、遠巻きにデモ隊を眺めていた一般の女性が記者に聞いてきた。「あの人たちって右翼なの?」

 彼らは「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などここ数年に結成された保守系市民団体の集合体だ。黒塗りの街宣車や特攻服に象徴される、従来の「右翼」と呼ばれる政治団体とは異なる。
 参加者に声をかけた。デモのために日の丸を買った中野区の女子大生(19)、「報道は偏っている」と話す横浜市青葉区の外食チェーンの男性管理職(49)、拉致問題の「救う会」に入っていたという茨城県つくば市の化学会社の男性社員(36)……。口々に「周辺国に、日本人はなめられている」などと答える。「これまでは『愛国運動』と言えば右翼。私たち普通の市民が参加できる運動がやっとできた」とも。
 参加団体の中で最大の在特会は2006年末に結成された。ネット上の登録会員はこの1年でほぼ倍増し8千人になり、3月から全国に23支部を置いた。この日、名古屋や福岡でも、外国人参政権反対などをテーマに街宣を行った。
 特に関西で活動が先鋭化する。「キムチ臭い」。昨年12月、日本の小学校にあたる京都の朝鮮初級学校前に集まり拡声機で騒いだ。学校が隣の公園を運動場代わりに使っていることに対し、朝礼台やスピーカーを公園から撤去する実力行使に出て、互いに刑事告発する事態になっている。
 京都弁護士会は、在特会側の行為を「公園使用の批判を超え、差別を助長する嫌がらせ」と非難する声明を発表。右翼団体「一水会」顧問の鈴木邦男さん(66)は2月発売の著書で、彼らの活動を「右翼以上に過激」「右翼は乗り越えられた」と評した。

 東京都港区のデモが終わった夕方、参加者は、日の丸や段ボール製の看板をカバンにしまい、地下鉄に乗って家路についた。前橋市の男性行政書士(54)は家族に活動を「差別的」と非難されているという。名刺をくれた後、「話を聞いてくれてありがとう」と頭を下げて、立ち去った。
 罵声を浴びた民団では、在日本大韓民国青年会の会合が開かれていた。在日3世の金宗沫前会長(33)は「こっそりとした差別はあっても、憎しみを直接ぶつける市民デモなんて以前はなかった」と戸惑う。「興奮したサッカーのサポーターが騒いでいる感じ。近所に暮らす、普通の人だと思うと怖い」
     ◇
 民族主義的な主張や外国人の排斥を、公然と唱える新たな保守団体が現れ、勢いを増す。どんな人々なのか。(西本秀)

【同志社大の板垣竜太准教授(朝鮮近現代史)の話】
 在特会の主張は『マンガ嫌韓流』や類書がベースだ。誇張や事実のつまみ食いで、朝鮮半島や在日の人々を批判し、植民地支配を正当化する主張は、今やネットに蔓延する。「韓国併合」から100年たっても、日本社会の下地で朝鮮人蔑視が続く。さらに拉致問題で北朝鮮批判があふれ、関係ない在日への攻撃を黙認する雰囲気が広がる。フランスでは移民排斥を唱える極右に、市民団体が「私の友人に手を出すな」と呼びかけて対抗した。在特会だけが問題ではない。日本が、多様性に開かれた社会になれるか問われている。

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