きょうの社説 2010年3月16日

◎景気判断上方修正 法人税率の引き下げを柱に
 政府が3月の月例経済報告で、景気の基調判断を8カ月ぶりに上方修正したのは、国内 民間需要に多少なりとも自律的な回復の芽が出てきたのを評価してのことだろう。設備投資が下げ止まり、個人消費や住宅投資が持ち直してきたのは心強い。

 ただ、物価は依然として下落傾向にあり、デフレ下で景気回復が着実に進むとは思えな い。財政事情が厳しいなか、即効性のある需要拡大策はなかなか見つからないが、鳩山首相が言及した法人税率の引き下げは、景気対策の主要な柱になりうる。「大企業、中小企業を含めて、国際標準を考慮しながら考えていく」との言葉通り、実現に向けて動き出せば、劇的な効果を生むはずだ。

 デフレは、企業の収益悪化が雇用を直撃し、それが消費抑制、物価下落となって悪循環 に陥る。これを止めるには、企業に活力を与え、需要拡大を後押しするのが、一番確実な方法である。さらに議論を深め、政府の「成長戦略」として明確に位置づけてほしい。

 地方税なども加えた法人実効税率の国際比較で、日本の税率の高さが、かねてから指摘 されている。日本の40・7%に対して、韓国24・2%、中国25%、英国28%といった具合であり、企業の収益力に大きな差が出ている。

 法人税率の引き下げ案について、赤字で法人税を払っていない企業が多い現状から、法 人税減税による経済対策の効果を疑問視する声も聞かれるが、法人税率を下げて自国産業を支援するという国際的な流れに取り残され、日本企業の国際競争力や外国からの投資の呼び込みでマイナス要因になっていることは否定できない。法人税引き下げを打ち出せば、設備投資は一挙に上向き、デフレ脱却の環境が整うだろう。

 民主党の政権公約であった中小企業の軽減税率引き下げは、税収減を恐れる財務省など の抵抗で、2010年度実施が見送られた。中小だけでなく、大企業を含めた法人税率全体を国際的な水準にするという首相の考えを、これからまとめる成長戦略の実行計画に織り込んでほしい。そのためには、首相の強力な指導力が必要だ。

◎次世代産業創出 県境超えての視点も必要
 既存産業の育成、支援だけでなく、地域経済を牽引する新たな産業を育てることは自治 体に課せられた大きな役割である。雇用の拡大、自前の財源を確保するという自治体経営の面からも、その重要度は高まっている。

 5選を果たした谷本正憲知事は、100億円超の基金を造成し、次世代産業創出に取り 組む意欲を示したが、新産業を生み出す基盤である産学官のネットワークは近年、県境を超えた広がりをみせており、これからの自治体の産業政策は、隣県を含めた広域連携も重要なかぎを握る。

 県が次世代産業の中心に位置づける健康分野では、国の財政支援を受けた「ほくりく健 康創造クラスター」事業が富山県と共同で始動し、大学、企業間の研究協力が進んでいる。繊維産業にしても、「北陸三県繊維産業クラスター」が昨年発足し、一体的な取り組みが始まった。

 金融機関による商談会はすでに3県の枠組みが定着しており、自治体だけが狭い枠にと らわれていては新産業のすそ野も広がっていかないだろう。県が策定中の「産業革新戦略2010」でも、「北陸」の視点が必要である。

 県は2005年に10年間の「産業革新戦略」を策定し、今年度が5年目の中間評価年 に当たることから、経済動向などに合わせて見直しに着手した。世界同時不況や新興国の台頭、デフレの進行や厳しい雇用情勢など、国内外の激変を考えれば、それに合わせて戦略を再構築するのは当然である。

 新たな産業革新戦略の骨子では、基本戦略の一つとなる次世代産業創造として、医療機 器や診断機器、機能性食品を開発する「健康創造産業」や、炭素繊維関連製品や温暖化防止技術を開発する「環境価値創造産業」育成などが打ち出されている。

 健康や環境は政府の成長戦略の柱であり、隣の富山県でも力を入れている分野である。 地域間競争でしのぎを削るだけでなく、石川の産業づくりに生かせる資源があれば、積極的に連携を呼び掛け、ビジネスが生まれやすい土壌を広げていきたい。