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アスカ大戦 後編
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<帝劇>

アスカが帝劇にやって来てから数日が過ぎた。それ迄は、マヤとマナの2人だけで舞台
をしていたのだが、次の新公演からはアスカも出演することになる。

「なんでアンタがヒロイン役なのよっ!」

「花組のトップスターは、わたしだって決まってるのっ!」」

「なーにがトップスターよっ! 子役の間違いなんじゃないのぉっ!?」

「なんてこと言うのよっ! あなたみたいに気品の欠片も無い田舎娘が、ヒロインなん
  てできると思ってるのぉっ!?」

「ぬわんですってぇぇぇっ!」

ヒーローはマヤにトラブルもなく決まったものの、ヒロインを決めるに当たってこの騒
ぎ。アスカとマナは、お互いのほっぺたをむぎゅーっと引っ張り合い睨み合っている。

「2人共いい加減にして。また、ミサトさんに怒られるわよ。」

「だってっ! この子役娘がっ!」

マナの顔にぐいと人差し指を突き立てて、アスカが怒鳴り散らす。

「だってっ! このお下品娘がっ!」

アスカの顔にぐいと人差し指を突き立てて、マナもブーブー文句を言う。

「「なんですってーーーーーっ!」」

互いの悪口が耳に入り、くっつかんばかりに顔を押し付け睨み合う、花も恥らう恋に恋
する乙女2人。

「はいはい。2人共。次のヒロイン役はもう決まってるんだから、喧嘩しないの。」

マヤがパンパンと手を打って、2人を宥め様とするが・・・。

「アタシよっ!」
「わたしでしょっ?」

「はぁ〜。」

もう溜息をつくことしかできないマヤ。近頃ミサトに話をしているが、この先このメン
バーのリーダーを勤める自信が全く無くなってきている。

「次の舞台のヒロインは、小さな子供なのよ? シナリオ読んでないの?」

その言葉を聞いたアスカとマナは、再び顔を見合わせる。

「なーんだ。それなら子役娘がぴったりじゃなーい。」
「なーんだ、それならお下品娘がぴったりじゃなーい。」

「「ムッ!!!」」

互いの悪口が耳に入り、くっつかんばかりに顔を押し付け睨み合う、花も恥らう恋に恋
する乙女2人。

「小さい子だったら、子役の役目でしょうがっ!」

「わたしの何処が子役よっ! 気品の欠片も無い、あなたこそお似合いよっ!」

「はぁ〜。」

お願いだから静かに話をさせて欲しいと願う様に溜息をつきながら、マヤが2人に話の
続きをし始める。

「ちゃんと子役の娘は新しく来ることになってるから、あなた達のどちらでもないのよ。」

「え? また新しい娘が来るの?」

「それならそうと早く言いなさいよっ! で、アタシは何するの?」

「あなた達は、子供を誘拐する悪の組織の手下よ。」

「「いやーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」

「はぁ〜。」

予想していたことではあったが、猛烈な抵抗をする2人に、その後マヤは永遠と説得を
繰り返すことになった。

                        :
                        :
                        :

その日の昼下がり。新しく花組のメンバーとなる5歳の女の子が紹介された。その娘は、
ジャンポールという熊のぬいぐるみを胸に抱いた、赤い瞳に蒼い髪の少女。

「クスクス。」

花組のメンバーを前に、絶えず笑みを浮かべている少女に、ミサトは中腰で話し掛け始
める。

「さぁ、自己紹介して?」

「綾波レイよ。クスクス。」

ニコニコと笑う小さな女の子というのは、可愛らしいものである。しかし、アスカもマ
ナもその笑みに身の危険を本能的に感じていた。

<帝国軍総司令本部>

その頃、ようやく長い航海を終え帝都に戻って来たシンジは、軍の中枢部である総司令
本部へやって来ていた。

「司令。只今戻りました。」

海軍の白い軍服を着て敬礼をするシンジを前に、ゲンドウは大きなテーブルに肘を付き
両手を組んだままの姿勢で、久々に見る息子を迎える。

「碇少尉。」

「はっ!」

「新たな指令は聞いているな。」

「はっ! 帝国華激団への赴任と聞いております。」

「うむ。その前に丁度今、陛下が呼んでおられる。付いて来い。」

「はっ!」

ゲンドウに導かれたシンジは、陛下が待つ玉座の間へと場所を移した。陛下とは言って
も、シンジにとっては幼い頃から知っている半ば親友。久し振りに会うことができ、少
し嬉しくなってくる。

「陛下。シンジが参りました。」

「やぁ、碇。久し振りだな。」

「はっ!」

「そうかしこまるなって。昔の様に、ケンスケでいいよ。」

「しかし・・・。」

そうは言われても、今は公的な立場で対面している為、そんなに気軽に話し掛けるわけ
にもいかない。

「ところで、ゲンドウ。」

「はっ!」

「また碇を、新しい任務に付けたと聞いたが?」

「この度の任務は、碇少尉が適任かと会議で決まりまして・・・。」

「碇は傍に置いて欲しいと言ったはずだけど?」

「いや・・・しかし・・・。」

「んーー? どういうことだ?」

グリグリとゲンドウの頭を足で踏み付け、親友のシンジとまたしばらく会えなくなるこ
とに御立腹の陛下。

「お、おゆるしを・・・。」

「どうして、俺の命令がきけない?」

グリグリ。

更に、足でゲンドウの頭を踏み付けるケンスケ陛下。

「お許し下さい陛下。既に決定事項でして・・・。」

涙目で謝罪するゲンドウ。

「全く・・・お前という奴はっ! 罰としてこれから1週間、俺の邸宅全てのトイレ掃
  除を命じる。」

「なっ! ぜ、全部ですかっ!?」

「文句でもあるか?」

「い、いえ・・・。」

例え帝国軍総司令とは言え、陛下を前にしては逆らうことなど適わない。ゲンドウは、
涙目でその命令を受諾するのだった。

「じゃ、碇。またしばらく会えなくなるけど、頑張ってきてくれよな。」

「はいっ! 陛下っ!」

「だから、そんな堅苦しい挨拶するなって。ははははは。」

しかし、この場だとどうしてもこういうやりとりになってしまうので、ケンスケ陛下は
その後シンジを別室に招き、昔小川で仲良く遊んだ思い出話などに食事をしながら花を
咲かせるのだった。

<帝劇>

新しい綾波レイというメンバーも加わったので、今日はささやかなパーティーが催され
ていた。食堂には少し豪華な料理が並び、まだリーダーとして任務が残るマヤが来る前
に、アスカ,マナそしてレイの3人でパーティーが始められている。

「ねぇねぇ、レイちゃん? そのぬいぐるみ可愛いわね。なんて名前?」

「クスクス。ジャンポール。」

前面に座ったマナがにこやかに話し掛けると、レイは笑みを浮かべながら嬉しそうに答
えた。余程気に入ってる熊のぬいぐるみなのだろう。

「へぇ、ジャンポールって言うんだぁ。アタシにもだっこさせてよ。」

今度は隣に座っていたアスカが、鳥の足を口に頬張りながら話し掛けて来る。

「駄目。」

「どうして? ほら、手も綺麗よぉ?」

「馬鹿がうつるから。クスクス。」

「ぬ、ぬわんですってーーーーーっ!!!!」

「あーら、やだ。子供相手にムキになっちゃってぇ。」

「むぐぐぐぐ。」

マナに白い目で見られたアスカは、確かに大人気無かったかもしれないと、怒りの矛先
を納め、立ち上がり掛けた腰を元に戻す。

「お姉ちゃんになら、いいわよねぇ。」

今度は、マナが両手を差し出してみるが・・・。

「駄目。」

「どうしてぇ?」

「ツルペタ用済み。クスクス。」

「な、なんてこと言うのよーーーーーっ!!!!」

「あーら、大人気無い。」

髪を逆立て立ち上がり掛けたマナを、白い目でニヤリと笑いながらジロリと見るアスカ。
マナはしぶしぶ腰を落ち着ける。

「レイちゃん。お味噌汁嫌い。」

「あらぁ、残しちゃダメよ。栄養あるんだから。」

「レイちゃんのいたフランスに無かったの。」

「アタシがいた村じゃ。毎日飲んでたわよ?」

「クスクス。田舎っぺ用済み。」

ブルブル。

拳を震わせるアスカ。相手が子供だろうと、立て続けの悪態許すまじ。目もマジ。

「コ、コノーーーっ! ケンカ売ってんじゃないわよっ!」

「子供に好き嫌いさせない様にするのは、年上の役目ね!」

マナも先程のことを根に持っているのか、今回ばかりはアスカに加勢してレイをジロリ
と睨み付けた。

「さぁ、好き嫌いはダメよっ!」

レイの体を椅子の後ろからガッチリと掴み押え付けるアスカ。

「さぁ、食べましょうねぇ。」

みそ汁を手近にあったスプーンに掬い、口元に運ぶマナ。ある意味、14歳の少女が5
歳の女の子にこんなことをしては、苛めになるはずなのだ・・・が・・・。

シュン!

次の瞬間、レイの姿が椅子から消えた。

「えっ!?」

何が起こったのかと、空になった腕の中を見つめ唖然とするアスカ。

「なに?」

目の前のレイが、手にしていた味噌汁のおわん共々消えてしまい、何がなんだかかわか
らないマナ。

ジョーーーーー。

「キャーーーーーーッ! あつーーーーいっ!」
「いやーーーーーーっ! あつーーーーいっ!」

唖然としている2人の頭に、突然熱い物が降ってきた。その熱湯に驚いて飛び跳ねるア
スカとマナ。見上げると、レイが宙に浮いており、味噌汁を2人の頭にぶちまけている。

「クスクス。これ、お姉ちゃん達にあげる。」

「コ、コノっ! 熱いじゃないのよっ!」
「なんてことするのっ!」

シュンシュンと消えては現れるレイを追い掛け回すアスカとマナ。ようやく任務が終わ
りマヤがやってきた時には、豪華な料理はぶちまけられ、テーブルはひっくり返り、見
るも無惨な惨状になっていたのだった。

<司令室>

司令室に呼ばれたマヤは、ミサトの話を聞いて愕然としていた。また新しい少女がやっ
て来ると言うのだ。

「む、無理ですっ! もうわたしには、リーダーなんてできませんっ!」

「どうしたのぉ? もう少し頑張って。」

「ど、どうして、わたしを苛めるんですかぁっ?」

「苛めてなんかいないわ。」

「だってっ! 来る娘来る娘。みんな個性の固まりじゃないですかぁっ。もうわたしに
  は、耐え切れませんっ!」

「今度は大丈夫よ。頭の良い娘よ?」

「この間も、”可愛い5歳の娘”って言ったのにっ!」

「本当のことでしょ?」

「顔は可愛いし、確かに5歳ですけどっ!」

「ならいいじゃない。」

「瞬間移動できる、悪戯好きの娘なんて聞いてませんでしたっ!」

マヤは、アスカが来て以来のここ数日の生活で、泣きそうになっていた。リーダーとは
名ばかりで、とても自分が統率できる様な娘達ではない。

「今度は大丈夫よ。じゃ、夕方にみんなを集めてねん。」

「ミサトさーーーんっ!」

いくら泣いて懇願しても、マヤの願いは一切聞き入れて貰えなかった。

そして、夕刻。

「新しい仲間を紹介するわ。」

アスカ達の前に立つのは、14歳の金髪の少女。なぜか白衣を着ており、手には数字が
沢山並んだ難しい資料を持っている。

「赤木リツコよ。」

少女が右手の人差し指でくいと押し上げた眼鏡が、怪しい光を放つ。

「わたし、マナちゃん。」

「クスクス。」

「よろしくっ! アタシは、アスカよっ!」

「エヴァの研究室は何処かしら?」

「え? 廊下出て階段を降りたとこだけど・・・。」

「そ。」

リツコは挨拶もそこそこに、眼鏡をギラリと輝かせるとそそくさと研究室へ降りて行く。
その様子を見たマヤは、また変な娘が来たと思いつつなにもかも投げ出そうとしていた。

<アスカの部屋>

夜も遅くなり、アスカは幸せな眠りについていた。

「むにゃむにゃ・・・もう食べれないわよ。むにゃむにゃ。」

何か幸せそうな夢を見ている様である。その時。

チュドーーーーーーーーーーーーーンっ!!!!

ガタガタガタ。グラグラグラ。

強烈な振動が帝劇全体に響き渡り、ベッドからほおり投げ出され床に叩きつけられるア
スカ。

「な、なにっ!? 使徒っ!?」

飛び起きると同時に、ボサボサの頭にお猿の寝間着姿のまま部屋の外へと飛び出して行
く。

「なになになに?」

時を同じくして、マナも飛び出して来ていた。暗い帝劇の中を、音がした方へ向かい蝋
燭片手にひた走る。

「何あれーーーっ!」

1階まで降りて来たマナが、悲鳴を上げた。そこには、地下のケージまで続く大きな穴
がぽっかり空いており、煙りがもくもくと立ち上っている。

「使徒っ!? 敵っ!?」

アスカは自慢の日本刀を抜き、その穴に首を突っ込んで除き込むが暗くて何も見えない。
その時、背後から顔を真っ黒にしたリツコが、よたよたと階段を上って来た。

「リ、リツコっ!?」

「フッ。時には天才にも失敗はあるわ。」

「ア、アンタ、何してたのよっ!?」

「マナのエヴァの機能強化してたんだけどね。」

「!!!!」

その言葉を聞いた瞬間、マナは顔を真っ青にしてケージへと駆け下りて行く。そして間
も無く・・・ぽっかりと空いた穴から悲鳴が聞こえて来た。

「な、なにーーーっ! これーーーっ!」

「汚れただけよ。破損はしてないわ。」

「よ、汚れただけってっ! いやーーーーーっ!」

アスカもマナのエヴァがどうなったのか気になり、ケージまで駆け下りて行くと、そこ
には緑の液体を全身に被りドロドロになった姿があった。

「わはははははははっ! 妖怪みたーーーいっ!」

「気品あるわたしのエヴァがぁぁぁ。いやーーーーっ!!!」

「この方がアンタには似合ってるってぇ。あははははは。」

泣き叫ぶマナの横で、大笑いするアスカ。その頃マヤの部屋では・・・。

もう嫌・・・。
この仕事やめたい。

エヴァの悲惨な惨状を見て、声も出せず自分の部屋に戻って来たマヤは、ベッドに潜り
込んで涙を流していた。

そんなこんなで、平穏な毎日が帝劇に流れて行った。裏事情は別にして、舞台はアスカ,
レイ,リツコという新たな女優も加わり、花組の人気にも拍車がかかる一方。

そんなある日。

帝劇の前に1人の少年が立っていた。

「おっかしいなぁ。帝国歌劇団・・・。ここって、劇場じゃないか・・・。」

確かに帝国歌劇団とは書いてあるが、探しているのは帝国華激団。少し違う。しかもこ
こは、とても秘密組織とは思えない劇場。

「ここだよなぁ。」

何度も地図と今いる場所を見比べてみるが間違いは無い。不安ながらもおずおずと中へ
足を踏み入れてみるものの、どう見てもただの劇場である。

父さんも、もう年だからなぁ。
漢字読み間違えたかな?

わけがわからないので、総司令本部に戻りもう1度確認しようと劇場を出様とした時、
ふいに背後から女性が呼び止める声が聞こえてきた。

「碇シンジくんね。」

「え? あ、はい。」

「わたしが、帝国華激団司令。葛城ミサトよん。」

「え? じゃ、じゃぁ?」

「話するから、中入って。」

「はい。」

まさか司令が女性だなどとは聞いていなかったシンジは、いったい何がどうなっている
のかわからないながらも、その女性に連れられて奥の部屋へ入って行き説明を受けた。

「じゃ、じゃぁっ!?」

「そうよん。帝国歌劇団とは仮の姿なの。」

「そうだったんですかぁ。」

さすがは秘密組織。表の顔と裏の顔があるのだ。ミサトの説明を聞くに連れ、シンジは
この先この組織で屈強な兵士達と共に使徒と戦うんだと思うと、やる気も沸いてくる。

「帝国華劇団のメンバーは、今衣装室にいるわ。挨拶してらっしゃい。」

「はいっ!」

軍人家系で根っからの軍人気質のシンジは、丁寧にミサトに敬礼をすると、言われた通
り衣装室へと足を運んだ。

よしっ!
最初が肝心だな。
年が若くても、リーダーとして認めて貰わなくちゃっ!
頑張るぞっ!

行き込んでドアのノブに手を掛ける。やる気まんまんである。

<衣装室>

時を同じくして、扉一つ隔てた衣装室の中。

「あーーもっ!なんでアタシだけ後片付けさせられるのよぉ。」

そこでは、ジャンケンに1人負けし、舞台の道具をようやく片付け終わったアスカが、
少し遅れて着替えていた。

「はぁ、汗掻いちゃったわ。下着までべとべとぉ。全部着替えなくっちゃ。」

下着を脱いで、手近にあった大きめのタオルで汗を拭う。その時だった。

ガチャッ。

「碇シンジっ! ただいま赴任しまし・・・・えっ!?」

兵士達を前に大声で挨拶をしたつもりだったシンジの目の前には、裸同然で立っている
女の子の姿。

「!!!!」
「!!!!」

一方アスカは、あまりの突然のことに驚いてタオルをハラリと落とす。目の前には、見
たことも無い少年が、扉を開けて立っている。

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

「あ、あの・・・。」

「キャーーーーーーーーーーーーっ! へんたーいっ! ちかーんっ!信じらんなーいっ!」

「わっ! わっ! わっ!」

次々と衣装室のありとあらゆるものが飛んで来る。シンジはなにがどうなっているのか、
咄嗟にわからないまま慌てて扉を閉めた。

ガチャンっ!

「な、なんなのよっ! アイツはっ!」

扉の閉まる音がしたアスカは、ほっと一安心してその場にぺたりと腰を下ろし、落ちた
タオルを拾い上げ様とした。

「あ、あの・・・ぼくは、覗こうなんてしたんじゃなく・・・。」

声がしたのでビクっとして顔を上げると、先程の少年がなんやらかんやらと言い訳をし
ている。扉を閉めたのはいいが、少年は中に入ったままだった様だ。

「ア、ア、アンタバカーーーーっ!!!!!?」

「えっ!?」

ドゲシーーーー!!!!!

シンジはキラキラ光るまばゆいばかりの星屑を見たかと思うと、その意識は次の瞬間に
はブラックアウトしていた。

<司令室>

頬に痣を作ったシンジは、カンカンに怒っているアスカを含む花組のメンバーの前で紹
介されていた。

「まぁまぁ、アスカもそんなに怒らないで。わたしが、衣装室にみんないるって言っち
  ゃったのよ。」

「だからってっ! アタシは、玉の素肌を見られたのよっ!」

「シンジくーん。得したわねぇん。」

「いや・・・べつに・・・。」

「べ、べつにぃぃぃっ!!!!!??? どういうことよっ!! べつにってのはぁっ!」

裸を見られただけでも頭に来ているというのに、それに輪を掛けて”べつに”呼ばわり
されては黙っていることなどできない。

「まぁまぁ、アスカも。そんな品祖なもん見られたくらいで、ムキにならなくても・・・。」

「品祖は、アンタの胸でしょうがっ!!」

「な、なんてこと言うのよぉっ!」

「アンタが先に言ったんでしょうがっ!!」

「クスクス。煩いのね。頭を冷やした方がいいわ。」

レイはシュンと瞬間移動すると、手近にあった花瓶の水を、ヒートアップしてぎゃーぎ
ゃー言い合うアスカとマナの頭にかける。

「つ、冷たいっ! 何すんのよっ!このっ!」

「クスクス。」

追い掛けるアスカ。しかし、瞬間移動を繰り返し部屋中を飛び回り逃げるレイ。

「ブツブツ・・・。そうだわ。エネルギーパックを2つ直列に繋げば・・・ブツブツ。」

マイペースでエヴァの資料をブツブツと独り言を言いながら、眺め続けるリツコ。そん
な騒然とする司令室の中を、シンジは唖然と見ていた。

「あ、あの・・・。ぼくが、リーダーになるんでしょうか?」

「そうっ! そうよっ! 頑張ってねっ! シンジくんっ!」

不安そうにおどおどと言葉を発したシンジに、有無を言わさずマヤが肩を叩いてエール
を投げ掛けて来る。ここで、シンジに逃げられてはマヤとしては1番困る。

ぼくが?
この娘達の?
ちょっとぉぉ・・・。
あんまり、騒がしい娘は好きじゃないんだけどなぁ。
特に、あの赤い髪の娘・・・苦手だな。

想像していた任務と掛け離れた現状を目の当たりにしたシンジは、早くも任務を放棄し
て海軍へと戻りたくなるのだった。

<アスカの部屋>

あれからシンジはいろいろと考えた。その結果、これも任務は任務。与えられた限り、
努力して完遂しなければならない。と思い直し、今アスカの部屋の前まで来ている。

メンバーとの仲違いが一番良く無いよな。
昼間のこと、謝っとかなくちゃ。

多少怒られることは覚悟の上で、シンジは扉の前に立ち、息を大きく吸い込んでその手
をノブに掛ける。

時を同じくして、アスカの部屋の中では・・・。

ったくっ! 今日は酷い目に合ったわっ!
乙女の裸見ておいて、言い訳するなんて最低ねっ!
しかも、べ、べ、べつにったぁぁぁっ! どういうことよっ!
女の子の玉の素肌見た、責任感ってもんが無いのかしらっ! あのバカっ!

アスカは疲れを癒そうと、早めに眠る用意をしていた。今は、パジャマに着替えている
ところ。下着を脱ぎ、お気に入りのお猿さんのパジャマをタンスから取り出している。

ガチャ。

「あの・・・今日のこと謝りたく・・・。!!!!!」

そこへ入って来たシンジは、裸同然のアスカの姿を見て、ドバッと冷や汗・・・いや脂
汗を噴出させる。

「・・・・あ、い、いや・・・その・・・。」

「ア、アンタってヤツはぁぁぁぁぁぁぁっ!」

ノシノシノシ。

そそくさとパジャマを体の前にあてがい、右手にぐぅ!を作ってノシノシと怖い顔のア
スカが近付いて来る。

「い、いや・・・。これは、事故なんだ。そう。事故。」

「言い訳ばっかりっ! この無責任男っ! さっさと出ていかんかーーーーーっ!」

ドッカーーーーーーン。

ぐぅ!でおもいっきり顔面にストレートを食らわされたシンジは、廊下の壁に思いっき
り顔面をぶつけて気を失ったのだった。

<病院>

翌日シンジは病院へやって来ていた。朝早く目覚めると、廊下で気を失っており、昨日
殴られた顎が痛かったのだ。

「軽い打ち身ですな。ほっておけばそのうち直りますよ。」

「そうですか・・。」

「しかし、顎なんか何処で打ったんですか?」

「いや・・・その戦闘訓練中に・・・。」

「おや、そうですかぁ。軍人さんも大変ですなぁ。」

「ははは・・・。」

まさか、裸を見てしまった女の子にぐぅ!で殴られたなどとは、とても恥かしくて言え
ない。当たり障りの無い言い訳で誤魔化す。

「湿布を出しておきましょう・・・ん?」

薬が並ぶ棚をごそごそと医師が漁り始めるが、どうやら湿布が見当たらないらしい。

「ちょっと、湿布が切れてますね。看護婦に買いに行かせますので、しばらく待合いで
  待っていて貰えますか?」

「はい。わかりました。」

医師にそう言われたシンジは診察室を出ると、待合い室の長椅子に座り、もう一度呼ば
れるまで待っていることにした。

<帝劇>

その頃帝劇では、大変な騒ぎになっていた。ゼルエルが3体も第3新帝都に現れたのだ。
しかも、シンジは医者に行くと言って出たきり戻って来ていない。

「マヤ。碇少尉がいないから、今回はあなたに指揮を任せるわ。」

「えっ・・・。」

おもむろに嫌な顔をするマヤ。ふと見渡すと、アスカ,マナ,レイ,リツコのメンバー
がプラグスーツを着て自分の方を見ている。

「わ、わたしがですかっ!?」

「そうよん。碇少尉がいないときは、元リーダーのあなたが適任でしょ。」

「・・・・・・・シンジくん・・・ひどい・・・。」

しかし、既に帝都ではゼルエル3体が暴れ狂っている。とにもかくにもぐずぐずしてい
られない状況なのは間違い無い。マヤは観念して、出動を命じる。

「みんな行くわよ。」

「しゃーないわねぇ。行ってやるか。」

「まぁ、エースパイロットのマナちゃんが出ないと、片付かないもんねぇ。」

「アンタのどこがエースなのよっ!」

「むぅぅぅっ!」

「お願いだから、アスカもマナも早く出動して。」

懇願する様に、アスカとマナの背中を押してシューターへと導くマヤ。

「クスクス。レイちゃん、喉乾いた。」

アスカとマナに構っているうちに、レイが1人食堂の方へトコトコと歩き出している。

「ちょっと、レイちゃんっ!」

ジュースを飲んでいる様な時ではない。マヤは、レイの手を引っぱるが、シュンと瞬間
移動で擦り抜けると、再びトコトコと食堂へ歩いて行く。

「もうぉ〜。じゃ、ジュースわたしが持って来るから、待っててっ!」

マヤは急いでコップに1杯のジュースを入れてくると、レイにそれを飲ませてシュータ
ーへと入って貰う。

「ブツブツ・・・。エヴァの装甲版をあと12%強くしたら・・・。」

「リツコちゃん、今計算してても仕方ないでしょ。早く。」

「もう少しで、この計算が・・・。これで、もう私をヘボ科学者なんて・・・。」

「お願いだから、計算は帰ってからにしてーーーっ!」

リツコもシューターに押し込み、なんとかかんとか全員を出動させたマヤは、ようやく
自分もエヴァへと乗り込んで行ったのだった。

<第3新帝都>

アスカを乗せた赤のエヴァ。武器は日本刀。
マナを乗せた紫のエヴァ。武器は長刀。
マヤを乗せた黒のエヴァ。武器はピストル。
レイを乗せた黄色のエヴァ。武器は無く、ヒーリングとテレポート能力を持つ。
リツコを乗せた緑のエヴァ。武器は怪しげな新兵器がいっぱい。

計5体のエヴァが、帝都のゼルエル3体が暴れる場所へ向かって出動して行った。

ズドーーーン。
ズドーーーン。

敵を目前にしたマヤが、先頭を切ってピストルを発射する。それと同時に、エヴァを敵
とみなしたゼルエルが迫って来た。

「アスカちゃんっ! マナちゃんっ! 来たわっ! 食い止めてっ!」

近距離戦を専門とするアスカとマナに、攻撃を命じるリーダーのマヤだったが・・・。

「アタシが先に行くって言ってるでしょうがっ!」

「エースはわたしよっ! あなたは後に付いて来たらいいのっ!」

「ざけんじゃないわよっ!」

アスカとマナは、敵を目前にして日本刀と長刀を振り回し喧嘩していた。

「アスカちゃんっ! マナちゃんっ!」

焦ったマヤは、2人の傍に駆け寄りながら、ひとまずこの場を食い止め様とレイとリツ
コに指令を出す。

「レイちゃんっ! リツコちゃんっ! 敵を・・・えっ?」

レイの方へ目を向けると、黄色のエヴァが力無く崩れ落ちている。何ごとがあったのか
と、視線を漂わせると、どうやらレイがエントリープラグから瞬間移動して外へ出てし
まった様で、少し向こうの店主が避難したかき氷屋で、かき氷を食べていた。

「レイちゃーーーん。何してるのよぉ・・・。はっ! リツコちゃんはっ!?」

最後の頼みはリツコだ。緑のエヴァに視線を送ると、なにやら新しい武器をゼルエル目
掛けてセットしている。

「よくやったわっ! リツコちゃんっ! 敵をそこで食い止めてっ!」

「任せなさい。私の新発明よ。」

ゼルエル目掛けて配置した4つのミサイルの導火線に、順番に火をつけていく。照準は
完璧。当たれば効果絶大。

「行けっ! 私のミサイル君っ!」

ズドンっ! ズドンっ! ズドンっ! ズドンっ!

しかしそのミサイルは、敵に目掛けて発射はされず、その場で4発とも自爆してしまっ
た。

「お、おかしいわね・・・。ブツブツ。」

エヴァに乗ったままその場に座り込んで、機械の再チェックを始めるリツコ。そんなこ
とはおかまいなしに、ゼルエルが接近して来る。

「リツコちゃんっ! そんなのもういいから、戦ってぇっ!」

「そんなのとは何? 天才の私の発明よっ。おかしいわね・・・ブツブツ。」

マヤの言うことなど聞く様子も見せず、計器のチェックをひたすら繰り返している。

「あぁ・・・もぅっ! アスカちゃんっ! マナちゃんっ! 早く戦闘してっ!」

「アタシが先に行くのよっ!」

アスカが飛び出そうとすると、マナがその足をひっ捕まえ転ばせて来る。

「エースパイロットのわたしをおいて、どういうつもりぃ?」

アスカが転んだところを見計らって、飛び出していくマナ。その腰にタックルをかまし
て阻止するアスカ。

「アンタはアタシの華麗な戦いを見てればいいのよっ!」

「離してっ! 離してったらぁっ!」

長刀を振り回して、アスカから離れ様とするマナ。

「どっちでもいいから戦ってよーーーっ!」

ズドン。ズドン。

マヤが必死でピストルを駆使して応戦するが、ゼルエル3体はどんどん迫ってくるばか
り、花組早くも絶対絶命だった。

<帝劇>

使徒が現れたことを知ったシンジは、湿布どころではなくなり、慌てて帝劇へと駆け戻
って来ていた。

「碇少尉っ! 急いでっ!」

「はいっ!」

プラグスーツに着替えたシンジは、ミサトから戦場で揉めている花組みの様子を聞き、
そんな状態でいったいどうやって戦えというのかと不安になったものの、とにかく出撃
するしかないとエヴァへと乗り込んで行く。

「エヴァンゲリオン。発進しますっ!」

シンジを乗せた白いエヴァンゲリオンは、ゼルエル3体と花組のメンバーが戦う戦地へ
と向かい、射出されて行った。

<第3新帝都>

シンジが到着した時、戦局は泥沼になっていた。お互いの足を引っ張り合うアスカとマ
ナ。パイロットがいなくなり、だらりと力無く横たわるレイのエヴァ。ただひたすら新
兵器のチェックばかりを続けるリツコ。

唯一、マヤ1人がピストルを撃ち、ゼルエルの進撃をかろうじで食い止めているといっ
た状況。

はぁ・・・。
いったい、どうなってんだよぉ。これは・・・。

ミサトから状況は聞いていたが、今まで軍隊の中で育ったシンジは、あまりと言えばあ
まりの醜態に愕然とする。

「マヤさんっ! 遅れましたっ!」

「シンジくんっ! も、もう持ち応えられないわっ!」

「マヤさんは、そのまま防衛をお願いしますっ! みんなに加勢を頼みますからっ!」

「それが言うことを聞いてくれないのよ。」

「うーーーん。ちょっと話してみますね。」

「話して聞いてくれる娘達じゃないわよ・・・。」

なにやら、マヤが半分愚痴の様なことを言っているが、とりあえず仲間に話し掛け始め
るシンジ。まずは、近くでかき氷を食べていたレイにスピーカーで呼び掛ける。

「レイちゃんっ!?」

「クスクス。美味しい。」

ほっぺを膨らませ、かき氷を口いっぱいに頬張って嬉しそうに食べているレイの姿が見
える。

戦ってって言っても無理だろうなぁ・・・。
うーん・・・。

「ねぇ、レイちゃん?」

「クスクス。今、これ食べてるの。」

「美味しそうだね。」

「クスクス。」

「でも、早く帰ってさ、一緒にアイスクリーム一杯作ろうよ。アイスクリームも美味し
  いよ?」

「え? アイスクリーム?」

「うん。 ぼく、料理得意なんだ。あの悪い奴やっつけたら、一緒に帰れるからさ。一
  緒に作って、いっぱい食べよ。」

「クスクス。アイスクリームだぁっ!」

アイスクリームに目を輝かせたレイは、瞬間移動するとエヴァに乗り込む。黄色のエヴ
ァに火が灯った。

「クスクス。あの悪い奴をやっつけたらいいのね。」

「そうだよ。だから、瞬間移動で、驚かせてあげてよ。」

「アイスクリームは、本当?」

「本当だよ。終わったら、一緒に作ろう。」

「わーいっ! お兄ちゃん大好きっ!」

レイはまだ見ぬアイスクリームに目を輝かせると、瞬間移動を繰り返して、ゼルエルを
翻弄し始める。

「リツコさんっ!」

「おかしいわねぇ。私の設計にミスなんて・・・ブツブツ。」

「その強力な地雷。凄いねっ! さすが天才のリツコさんだねっ!」

「え? じ、地雷? 天才? おほほほほほっ! そうなのよっ! そうよっ! これはミサ
  イル君じゃなくて、地雷君だったのよぉっ!」

「そうだよね。それじゃ、その地雷君。ゼルエルの周りに置いたらいいんじゃないかな?」

「そ、そうよっ! 私も今そうしようと思ってたのよっ!」

「さすが、リツコさんだぁ。やっぱり、天才は違いますね。」

「ほほほほほ。任せなさい。」

リツコは上機嫌になると、ミサイル発射装置の失敗作をゼルエルの周りに配置し始める。
近づいたところで、導火線に火をつけドカンという作戦だ。

「マナ? ゼルエルに突撃してくれるかな?」

「わかってるんだけどぉ。でも、この娘が邪魔なのっ!」

シンジは喧嘩している2人に近寄ると、アスカの行く手を遮りマナを先に行かせる。

「やっぱり、ここはエースパイロットはマナが行くべきだね。頑張ってね。トップスタ
  ーさん。」

「え? わたしが? エース? トップスター? あははははっ! 聞いた聞いたっ!? や
  っぱり、わたしがエースパイロットなのよっ!」

エースパイロットと認められたマナは、それはもう決起盛んにゼルエル3体に突進して
行く。しかし、残されたアスカは、これ以上不満なことはない。

こ、この覗き魔がっ!
アタシの裸みた癖にっ!
乙女の裸みといて、へらへらとっ!
今度はマナに手を出そうってのっ!?
無責任男っ!
変態っ! 変態っ! 変態っ!

「アスカっ! 最後尾のゼルエルを、一緒に倒しに行こうっ!」

「ダレがアンタの命令なんかっ! このいい加減男っ!」

さすがにシンジは悩んだ。昨日のこともあり、素直に自分の指示に従ってくれそうには
ない。だが、今戦わなければ帝都が危ない。

「アスカぁ。お願いだよ。今だけでいいから、ぼくの言うこときいてよっ!」

「フンッ! ダレがっ!」

困ったなぁ。
アスカ無しで戦うか・・・。
いや、駄目だ。
みんなで戦ってこそ意味があるんだっ。

1人を無視した作戦の進行など、人間的にも作戦指揮の上でも、愚かな選択というもの
だ。シンジは背後から迫るゼルエルに焦りながらも、説得を繰り返す。

「今そんなこと言ってる時じゃないだろ。ぼくを信じて戦ってよっ!」

「アンタの何処を信頼しろってのよっ! 無責任男っ!」

シンジはアスカの言葉を聞いて思った。昨日のことに始まり、自分のリーダーとしての
信頼性と責任感に、アスカは疑問を抱いてしまっているのだと。

このままじゃ駄目だっ!
こんなことじゃ、この先みんなで戦っていけなくなるっ!
この戦いで勝って、信頼を取り戻すんだっ!

シンジは決意を漲らせると、通信回線に繋がるマイクを力強くぎゅっと掴んだ。その頃、
アスカは・・・。

なによっ!
人の裸見た癖にっ!
いい加減男っ!

作戦の責任感や信頼性のことなどは、微塵も考えていなかった。頭にあるのは、昨日裸
を見られてしまった上、謝りもせず”べつに”と言った言葉への怒りのみ。

碌に謝りもしないでっ!
しんじらんないっ! しんじらんないっ! しんじらんないっ!

その時、シンジから決意の篭った声が通信回線から聞こえて来た。

「今迄ごめん。ちゃんと、責任ある態度を示すから、ぼくを信じて付いて来てよっ!」

「えっ!?」

アスカは自分の耳を疑った。とても信じられないセリフが突然聞こえてきたのだ。唖然
としてスピ−カーに目を向ける。

責任ある態度・・・。
信じて付いて来てって・・・。
そ、それって、もしかして、もしかして・・・。
プ、プ、プロポーーズぅぅぅ???
や、やだ。
裸を見たから?
じゃ、じゃぁ、アタシの乙女を尊重して、責任取るってーの?
ちょ、ちょっと・・・。
そんな・・・いきなり・・・。
アタシにも考える時間ってもんが・・・。

よくよく考えてみると、顔は好み。性格は優しそう。それでいて、いざこういう戦闘行
動となると、しっかりしているところを見せる少年。

え? で、でも・・・。
突然・・・。
そんな・・・。
や、やだ。
どうしよう・・・。

その時、再び通信回線から声が聞こえてくる。

「お願いだよ。ぼくを信じてよ。」

お願い?
お願いまでして・・・。
そ、そんなにアタシのことが好きなの?
もしかして、一目惚れして覗いちゃったの?

「アスカ、返事は?」

えーーーっ!?
もう、返事を言わなくちゃいけないの?
せっかちねぇ。
ど、どうしよう・・・。
はっ!
なに迷ってるのよ。
即断即決即行動がアタシのモットーじゃないっ!

再びシンジのことを考えるアスカ。顔は好み。性格は優しそう。それでいて、いざこう
いう戦闘行動となると、しっかりしているところを見せる少年。

「え、ええっ! いいわっ!」

「よしっ! じゃ、ゼルエルを倒すよっ!」

そ、そうねっ!
まずは、恋の邪魔をする目前の敵をっ!

「うんっ! わかったっ!」

その頃、アスカがようやく作戦行動を開始してくれたので、シンジはエントリープラグ
の中でほっとしていた。

よしっ!
これで、全員で敵を倒せるっ!
ぼくも少しは仲間に信頼して貰えたかな?

こうして、シンジという触媒を介し、全員の心が1つになった花組の強さは並大抵では
なかった。

接近戦で強烈な破壊力を見せるアスカとマナ。
正確な遠距離射撃で敵を追い詰めるマヤ。
敵の進行を新兵器で阻止するリツコ。
仲間の損害をヒーリングでサポートするレイ。

ゼルエル全滅。被害無し。

<帝劇>

帝劇に戻って来たシンジを始めとする花組のメンバーは、皆嬉しそうにケージから出て
来ていた。しかし、アスカだけが、なんだかいつもの元気が無く顔が赤い。

あれ?
どうしたんだろう?

そんなアスカの様子をおかしく思ったシンジは、司令室へ歩いて行くメンバーから少し
遅れると、後ろからとろとろと歩いて来るアスカの傍へ近付いて行く。

なんか、顔が赤いな。
熱でもあるのかな?

シンジはアスカの真ん前に立ち、顔を近付けおでこに自分のおでこを当てがった。その
途端、更に真っ赤になるアスカの顔。

キャッ!
キ、キス?
そ、そんなっ!
いきなりっ!
ど、どうしよう・・・。
いきなり・・・。
困るわぁぁ!

そんなことを考えながら、顔をゆでダコの様にしながらも、唇を突き出すアスカ。

「うん。大丈夫みたいだ。さ、早く行こ。」

やだぁ。
シンジったら照れちゃって・・・。
そっか、こういうことは後で2人っきりでってことね。

何かを自分で納得したアスカと、熱が無さそうだったので安心したシンジは、司令室へ
と入って行く。

「良くやったわ。碇少尉。」

「ありがとうございます。」

花組の最初の戦闘で完全な勝利を納めたシンジを、ミサトは鼻高々と言った感じで笑顔
で褒め称える。

「やっぱり、この花組のリーダーは碇少尉しかいないわねん。」

「ぼくも、なんとかやって行けそうに思えてきました。」

そんなシンジを、花組のメンバーが見詰める。

クスクス。
レイちゃんの好きなアイスクリーム作ってくれるお兄ちゃん大好き。

いつの間にかシンジに懐いてしまい、早く約束のアイスクリームを作りに行きたくて仕
方の無いレイ。

ほほほほほ。
さすがは少尉ね。
この私の天才を見抜くなんて。

今迄、いかさま科学者などと言われ続けてきたリツコは、自分の才能を高く評価してく
れるシンジを、嬉しそうな目で見る。

この花組を一瞬にしてまとめるなんて・・・。
年下で可愛い顔してる子なのに、頼りになるのね。

自分がどうしても纏めれなかった花組を、一瞬にして統率したかわいい顔の年下の少年
を笑顔で見つめるマヤ。

見る人が見たら違うわねぇ。
やっぱり、マナちゃんがエースパイロットよっ!
トップスターよっ!
なーんか、ちょっといい感じかもぉ〜。

自分の実力を認めて貰ったマナは、優越感を感じつつこれからもシンジに付いて行こう
と誓う。

「帝都を守れたのは、碇少尉のおかげね。自信を持っていいわ。」

ミサトもシンジを褒め称える。

「そんな・・・。愛する”物”を守るのは当然です。」

少し謙遜しつつも、ミサトに誉められて嬉しく無いはずもないシンジは、笑顔でそう答
えた。それと同時にアスカの頭から湯気が立ち上る。

愛する者を守る為だってぇぇぇ・・・。
いやぁぁぁん。
そ、そこまでアタシのことを・・・。
みんなの前でぇぇ。

花組全員が好意的な目でシンジを見詰めてはいるものの、中でも1人アスカだけは、少
し何処か別の世界へトリップしてしまった様な潤んだ瞳でシンジに熱い眼差しを送って
いる。

「それじゃ、今日はみんなご苦労様。報告はこんなもんかな。」

ミサトへの報告も終わり、花組のメンバーに向き直ったシンジは、笑顔で語り掛ける。
その時・・・。

「シ、シンジ・・・。丁度いいから、その・・・一緒に報告しといたら?」

「え? 何が?」

もじもじしながらぼそぼそと言うアスカ。シンジは何を一緒に報告するのか、言ってい
る意味がわからず聞き返す。

「やだぁ。その・・・アタシ達の・・・その婚約よ。」

「へ? こ、こんやく? え?」

「「「「えーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」

きょとんとするシンジを余所に、アスカの言葉を聞いたメンバー全員が絶叫を上げた。

「シンジったら、戦闘の最中にラブコールを何度も何度も送って来るんだもん。びっく
  りしちゃった。」

「ら、らぶこーーーーるぅぅぅ???」

何がなんのことかわからないシンジは、腰を抜かさんばかりに驚いて声を上げるが、も
う誰もシンジの言葉など聞いていない。

「ちょっとっ! アスカっ! どういうことよっ!」

真っ先に抗議の声を上げたのはマナ。

「言った通りよ。」

「ダメダメダメ。あなたなんかに、碇少尉は似合わないわっ!」

「な〜にぃ〜? やきもちぃぃ?」

「だ、誰がやきもちなんかぁっ! ただ、あなたみたいな田舎猿には似合わないって言
  ったのよっ!」

「ぬわんですってぇぇぇっ! ダレが田舎猿よっ!」

「どっからどう見ても、そうじゃないっ!」

「ムキーーーっ!もう一度言ってみなさいよっ!」

大喧嘩し始めるアスカとマナを余所に、レイはシンジの手を引っ張る。

「ねぇ。早くアイスクリーム作りに行こう。クスクス。」

「あ、そ、そうだったね。で、でも・・・。」

先程のアスカの爆弾発言が気になって仕方の無いシンジは、レイに引っ張られながらも、
この場から離れることができない。

「ふっ。人はロジックじゃないとは良く言ったものだわ。」

あまり動ぜず、冷静に状況を観察するリツコ。

「もう、アスカちゃんったら・・・おままごとみたいなこと言ってぇ。」

マヤはあまり相手にしていない様だ。

「よーーーしっ! 今日は、戦勝パーティーに兼ねて碇少尉とアスカの婚約パーティー
  をしようっ!」

そんな中、エビチュを飲みながら、ニヤニヤと笑みを浮かべて盛り上がるミサト。

「えっ!」

焦るシンジ。

ぼ、ぼくは・・・あまり、おてんばな娘は好きじゃないんだけど・・・。

「ダメダメダメ。そんなのダメーっ!」

1人猛反対するマナであったが、結局いもづる式にシンジとアスカの婚約発表へとその
場は流れて行った。

が・・・。

そのパーティーで、初めてミサトの手料理を食べた面々は、禄な話しも何もできずに、
夜も早くから布団の中で寝込むことになってしまった。

<シンジの部屋>

その夜。

シンジは布団の中で痛むお腹を押さえながら、今日のことを考えていた。

どうして、婚約なんかになっちゃったんだろう?
あの娘、見た目は好みだけど・・・。

軍人の家系で育てられたシンジは、基本的にしっかりとしている面も持っているが、両
親からあまり甘えさせて貰えなかったので、優しくしてくれる娘が好みだった。

性格があまり好きじゃないんだけどなぁ・・・。
どうしよう・・・。

しかし、どっからどう見ても、アスカはそういうタイプに見えない。シンジは、どうや
ってこの婚約を断ろうかと思案に暮れる。

ガチャリ。

その時、シンジの部屋の扉が開いた。

「いたたたた。」

「ん? アスカ?」

布団から顔を上げると、前のめりでお腹を押さえながらパジャマ姿のアスカが入って来
ていた。

「どうしたの?」

「ひっどい料理だったわね。」

「そうだね。あ、あのさ・・・実は・・・。」

「これ、アタシのおばあちゃんが持って行けって言って持たせてくれたお腹の薬なの。
  飲んだら楽になるわよ。」

そう言いながら、コップに入れた水と一緒に薬をテーブルの上に置いて、よたよたと部
屋を出て行ってしまうアスカ。もうカレーを食べてから数時間が経過してるというのに、
まだアスカも痛みが収まらない様で、かなり痛がっている。

「おばあちゃんの薬か・・・。」

シンジは腹痛を我慢しながら、ゆっくりと上半身を起こすとその薬を水で胃に流し込ん
だ。

本当に効くのかなぁ?

そんなことを考えながら、しばらく横になっていると、わずか15分程度で驚く程腹痛
が収まってきた。

へぇ、さすがおばあちゃんの薬だ。
よく効くもんだなぁ。
えっ?

よくよく考えると、こんなに効くクスリを持っているのに、アスカはやけに痛そうにし
て部屋へ入ってきていた。しかも、こんなに夜遅くに・・・。

アスカ・・・。

考えられることはただ1つ。1つしか持ってこなかった薬を、今迄必死に探して、自分
の為に痛みをこらえて持ってきてくれたのだ。

シンジの部屋に月の光が差し込める。

いろいろあったけど、初任務は成功だな。
よしっ! 明日からも頑張るぞっ!

シンジは、月の光に照らされまだ少し水が残るコップに視線を送る。

愛する”者”を守る為に・・・。

fin.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp

宰相  >こ、皇妃様!こ、ここ、今回は逃げますよ!(@@)
皇妃様 >わ、分かってるわよ!!冗談じゃないわ!!(@@)

皇妃様と宰相・・・謁見もせずに退場(爆)

そして・・・

先帝陛下>・・・・・・・・・・・・/▼▼#\
皇太后様>・・・・・・・・・・・・(▼▼#
大公妃様>・・・・・・・・・・・・(▼▼#
大公殿下>・・・・・・・・・・・・(▼▼#
皇太后様>・・・あれ程言ってあったのに・・・(▼▼#
大公妃様>アタシ達の・・・(▼▼#
大公殿下>出番が無いではないか!!凸(▼▼#
先帝陛下>・・・・・・・・・・・・/▼▼#\
皇太后様>どうやら私達は甘く見られた様ね(^^#
大公妃様>ええユイ。くっくっく・・・(^^#
大公殿下>はっはっは・・・(^^#
先帝陛下>・・・・・・・・・・・・/▼▼#\
皇太后様>・・・ちょっと、あなた?
先帝陛下>・・・・・・・・・・・・/▼▼#\
大公妃様>ゲンドウさん?
先帝陛下>・・・・・・・・・・・・/▼▼#\
大公殿下>い、碇・・・?
先帝陛下>・・・ふ・・・ふふ・・・ふははははは!!!!!
皇太后様>・・・・・・・・・・・・ま、拙いわ(−−;
大公妃様>・・・ちょ、ちょっと!?(−−;
大公殿下>いかん!これは只では済まないぞ!(−−;
先帝陛下>これより帝国は戦時下に突入する!各方面軍を召集!準備が整い次第総戦力を持って進軍する!!/〜\
皇太后様>・・・・・・・・・ま、仕方ないわね(−−)
大公妃様>・・・・・・・・・そうねぇ〜・・・(−−)
大公殿下>・・・・・・・・・今回は・・・煽る側に回るか(−−)
先帝陛下>ふ、ふふふ、くふふふふふ/〜\

物陰から

宰相  >あ〜あ、やっぱり・・・(−−;;;
皇妃様 >ったく!大人げないわね・・・でも止めない(−−;;;
宰相  >ま、まぁ・・・成り行き任せですかね?(−−;;;
皇妃様 >うん・・・幾ら何でもケンスケに足蹴じゃ・・・庇えないわ(−−;
宰相  >ですなぁ〜・・・(−−;


初公開日 2000/07/06

素晴らしい作品を送ってくれたタームさんに感想を送りましょう♪
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