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オール個室化、なぜ進まない? 学校の男子トイレ事情

2010年3月14日

デザイン拡大  写真西南学院小の男子トイレは1カ所6室の個室しかない

 福岡市早良区に4月に開校する私立西南学院小学校の男子トイレには、立ってする小便器がない。全部個室だ。「学校で大便するとからかわれる」と我慢してしまう男子に配慮した。男子トイレをオール個室化する学校が登場したのは9年前で、当時は話題を呼んだが、実はその後あまり広がっていない。背景にある学校の男子トイレ事情とは――。

 できたての西南学院小の校舎。トイレに入ると、男子用なのに個室しかない。全部洋式で6室あり、3階まで各階に1カ所ずつある。

 小学校設置委員会のメンバーが設計プランを検討していた2007年、04年開校の私立山梨学院大学付属小(甲府市)を訪問した際、すべて個室のトイレを見た。それまでトイレを巡る議論は、和式も残すかどうかという程度。男子トイレの個室化も検討課題に加わった。当時の議事録によると賛否両論あった。

 「児童が大便できずに我慢している状況を考えると、個室化が望ましい」と推す声が高まる一方で、「外では使う小便器が無くてよいのか。大便の問題は教室で教えればよい」という反論も。小学校時代に大便をこらえた記憶をたどり、「つらかった」と振り返る男性委員もいた。

 トイレ大手のTOTO(本社・北九州市)が03年に発表したデータが後押しした。小学生約千人に実施したアンケートで約4割が「学校ではウンチをしない」と回答。男子では「扉つきのトイレに入ると友人にからかわれる」が理由の多くを占めた。

 西南学院小設置準備室の三苫正淳・副課長は「結局、心身共に健康でいられる学校にしようという結論になりました」と話す。

 使い勝手はどうなのか。

 4校統合で06年に開校した山口県の下関市立豊北中学校は生徒用トイレ7カ所のうち2カ所が完全個室だ。そばに教室がある1年生の上田和哉さん(13)は「家と同じやり方で普通に使ってます」。同学年の榊田彰史さん(13)は「周りを気にせずに使えて便利。大便中に人がくると恥ずかしいから」と話す。小川浩三教頭は「個室トイレは落ち着いて一息つける場所でもある」と意義を語る。

 大改修で01年に全国で初めて完全個室化を試みた神奈川県の茅ケ崎市立松林小は、一時期、テレビや新聞で話題になった。細井由美校長は「当初は『男児たるもの座ってするとは何事か』という声もありましたが、違和感なく使っていますよ」と話す。

 ただ、市教委によると、その後は市内のほかの学校ではやっていない。松林小の検証アンケートで、個室でもおしっこを「立ってする」男子が8割を超した。「飛び散るしぶきで掃除が大変」「個室だと数が確保できない」などの声があったという。

 私立立命館小(京都市)のように、検討はしたが「公衆トイレやデパートでは小便器がある。慣れておかないといけない」などの理由で個室化を見送った学校もある。

 TOTOなどでつくる「学校のトイレ研究会」が今年度実施した学校トイレに関するアンケートでは、回答を得た自治体のうち、完全個室の男子トイレは必要と答えたのは23%に上り、実際に検討した自治体も7%あった。だが、同研究会が把握するかぎり、個室のみの男子トイレがある学校は西南学院小を除くと4校にとどまる。

 研究会でも相談にのっているが、通常の小便器と大便器がある場合より便器数が減ることや、清掃面での面倒を伝え、「一長一短」と説明するという。「注目されてはいても、なかなか踏み切れないようです」と分析する。(井上恵一朗)

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