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きょうの社説 2010年3月15日
◎谷本氏5選 オリを取り除く勇気も必要
5選を果たした谷本正憲氏にまず求めたいのは、16年に及ぶ任期中に、オリのように
たまった「老廃物」を取り除くことである。知事の任期を人の一生に置き換えれば、壮年期を過ぎて熟年期に差し掛かったころだろう。加齢とともに血の流れが悪くなって、血糖値や血圧が気になる年になってきた。東洋医学でいう「悪血(●血)(おけつ)」は万病の元であり、健康な体をじわじわと 蝕んでいくという。人の体と同じように、組織もよどみができれば停滞し、活力が失われてしまう。自覚症状がないだけに、異常に気付いたときには手遅れということにもなりかねない。 谷本氏は、今こそ足元をしっかりと見つめ直してほしい。知事を頂点とした組織のどこ かに悪血がたまっていないか、血管が詰まって流れにくくなっているところがないか、子細に点検してほしい。場合によっては、外科手術に踏み切る勇気も必要だ。 県民は、北陸新幹線の金沢開業を控えた重要な4年間の舵取りを改めて谷本氏に託した 。圧倒的な得票率は、谷本氏の手堅い行政手腕への評価だろう。だが、慢心は禁物である。選挙期間中、他の陣営から「多選」を含めてさまざまな批判があった。単なる抽象論で具体性を欠いていたり、批判のための批判としか思えないものも多かったが、そうした声にも改めて耳を傾け、我が身を律する謙虚さを求めたい。 知事選告示の直前、県職員労働組合の役員選挙で、谷本氏の推薦を決めていた委員長、 書記長ら4役が執行部に批判的な新人候補に敗れた。知事選うんぬんではなく、組合内部の対立が原因とみられるが、時期が時期だけに、谷本氏の膝元での「波乱」をせんさくする声が飛び交ったのは事実である。県職員にとって、やる気のわく職場になっているのかどうか、谷本氏に足元を見つめ直してほしい理由の一つがここにある。 いかに高性能の船でも、航海を続けるうち船底にカキやフジツボが付着し、速力が落ち る。5選の節目に「谷本丸」をドック入りさせ、自己点検してはどうか。浮き出たサビやカキ殻をそぎ落とし、新たな一歩を踏み出してほしい。 ☆●はヤマイダレに於の二点がニスイ
◎新幹線トラブル ミス隠さず、徹底調査を
日本の新幹線は世界に誇りうる高速鉄道システムであり、海外輸出の有望分野でもある
。各国との採用競争が激しくなるなかで、今月3日に山陽新幹線「のぞみ」で起きたトラブルは、これまで築き上げてきた信頼を揺るがす深刻な事態といえる。JR西日本の調査で、ギアボックス破損の原因は、内部でベアリングの部品が外れて内 側から突き破ったことが分かった。製品自体の欠陥や組み立てミスの可能性が推測され、製品管理や検査体制が十分だったのかという疑問もわいてくる。最高時速300キロの最新鋭N700系だけに、高速と安全の両立への懸念も生じかねない。 JR西は「脱線や火災の危険はなかった」と説明したが、破損したのは鉄道にとって重 要な駆動部分であり、新幹線の安全性が問われていることを重く受け止める必要がある。2005年の尼崎脱線事故ではJR西の閉鎖的な企業体質も問題になった。原因を徹底究明し、たとえミスがあっても包み隠さず、正確に公表することが信頼回復への一歩である。 事故は車内に白煙が充満して分かった。ギアボックス内で外れた小歯車のベアリングを 、高速回転する大歯車が巻き上げ、ボックスを突き破ったとみられる。煙はボックスから漏れた潤滑油が気化して流れ込んだらしい。専門家からは、気づくのが遅れれば大事故になった可能性も指摘されている。 気になるのは、事故後に上越新幹線でも2001年に類似事故が発生していたことが明 らかになったことである。JR東日本によると、部品不良などでベアリングが確実に固定されていなかったとして、ベアリングの交換周期を早める対策を講じたという。JR各社はそれぞれ独自路線を強めているが、ささいなトラブルでも情報を共有し、安全対策に生かせる仕組みを再構築する必要がある。 新幹線は高速で安全に大量輸送できることに加え、航空機や自動車より環境に優しい交 通手段として国際的に評価が高まっている。トラブルが起きても原因を明らかにし、再発防止策を速やかに講じることが信頼維持の基本である。
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