「勝つまでやるから、われわれは必ず勝つ!」
たしかに、政策論、技術論も重要ですが、危機管理上でもっとも重要なのは精神論、つまり心の持ち方であるとわたしは考えています。なぜなら、さきにも述べたように、企業の破綻の本質的な原因は、外部環境の悪化ではなくて内部崩壊にあるからです。
吉野家ホールディングス代表取締役社長 安部修仁氏
まず、リーダーに対しては「命令の変更に躊躇(ちゅうちょ)するな」ということを強調。社内報には、「朝令暮改を奨励する」というキーワードを用いて徹底しました。
というのも、わたしたちは政策も商品もどんどん変えていたわけであり、その変更の数とスピードが命だったからです。先週のオーダーと今週のオーダーが変わっていることに躊躇(ちゅうちょ)などしていたら、改革が先送りされてしまいます。
リーダーたちの指示の受け手となる一般社員に対しては、「向こう3カ月、何が起こっても腹を立てないでほしい。これだけは観念してくれ」ということをお願いしました。
命令がころころ変わるような環境では、誰でもストレスが溜まるものです。そのストレスが蓄積してはじけると、現場でさまざまな騒動が起きてくることは容易に想像できます。わたしは、そうした混乱を避けたかったのです。
「わたしたちは、いま新しく創業しようとしているのだ。初動の目標は、営業利益率が業界平均の5%、1店平均の客数を600人。これを牛丼抜きで達成しようじゃないか」とわたしは全社員に語りかけました。牛丼単品で培った価値づくりで、まずは業界平均に短期間で達することを合言葉に挑戦していったわけです。
幸いなことに、牛丼単品でやってきたリスクテイクの結果、無借金で手元には300億円近い流動資金がありました。そのおかげで、創業と変革と試行錯誤に耐えられたともいえるでしょう。
わたしはしつこい性格で、追求をはじめたらゴールに至るまで手を休めることはありません。「勝つまでやるから、われわれは必ず勝つ!」という、今考えれば、まるで論理性のない説得を重ねて叱咤激励を続けていきました。
失敗することを恐れてはいけません。誰だって仮説通りにはいかないものです。だめだったら、その理由を丹念に検証して、現実を直視しながら変えていけばいいではないですか。
その結果、6カ月目の9月からは、黒字転換することができました。
そして、2006年9月18日がやってきます。2年半ぶりに牛丼の提供を再開する日です。11時のオープンを前に、全店でお客様が行列。店長の「牛丼を再開します」という宣言で、その場のお客様から例外なく拍手をいただきました。
お客様の拍手に、現場の人たちは、込み上げるものを抑えきれなかったといいます。もちろん、牛丼の再開によって売り上げや利益の向上が図れるわけですが、これまで「牛丼を作って提供することが当たり前のこと」と思っていた現場の人たちにとっては、牛丼を作って提供できることの喜びを感じていたのです。これは、わたしたちが目的としている理念を、現場で実感できた瞬間でした。
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