1000店舗、社員2万人をかかえて創業同然の状態に
USビーフの在庫はまもなく尽き、牛丼の提供を休止したのが2月11日のことです。
まず、政策論として牛丼の代替メニューをどう進めていくか、矢継ぎ早に徹底させることに力を注ぎました。1~2月、3~5月、6~8月の3期に分けて定着させていくことにしました。
吉野家ホールディングス代表取締役社長 安部修仁氏
初動の1~2月では、まず新しい代替メニューを決めなくてはなりません。吉野家は牛丼の単品メニューを営々と続けていたので、牛丼抜きの新商品はもちろん初めて。牛丼抜きの吉野家は、言ってみれば創業と同然の状態でした。
1000店規模で、パートを含めれば2万人。こんな壮大な規模で創業同然のことをしたというのは、世界にも例のない壮大な実験だったといえるでしょう。
どういう手順をとったかといえば、少しずつメニューをトライアルしながら定着を図ったわけです。具体的にいうと、店で実績を見ながら有効なものを定着させ、だめなものはどんどんと変えていくという手法をとりました。品目を絞りながら定番化し、定番化しながら商品価値をつくっていったわけです。
とはいえ、全国に1000店ある店舗で、統一して新しいメニューを創作することは不可能。初動時期は、100~300店を1ユニットにして、ユニットごとに違うメニューにしたのです。
技術論としては、新しいメニューはハードの追加が必要ないもの、技術が不要なものでなくてはなりません。なぜなら、その時点ではまだハードもソフトも牛丼中心だったからです。ですから、新メニューといっても、加工度の高いものにならざるを得ません。極端な話、食品スーパーに置いてあるものに、ちょっと手を加えた程度のものばかりだったわけです。
社長であるわたしとしては言いにくいのですが、このような状況では、いいものが作れるわけがありませんでした。その時期に吉野家を利用した方に、この場を借りて深くお詫びしなくてはなりません。
第二期の3~5月は、全国1000店規模でメニューを徐々に定番化。そして、第三期に入る6月にはメニューを集約。全国で4品目に絞ろうということにしました。
このとき、1000店規模ではじめて、新しい設備として電磁調理プレートを取り入れました。1店あたり3台なので全国で3000台。これが7月末までにすべて揃ったところで、8月1日、4品目に絞ったメニューのプロモーションを仕掛けたのです。
この年の営業利益は12億円の赤字となりました。吉野家の会計年度は3月1日から翌2月末までですが、12億円の赤字のうち24億円が上期に一気に出ました。逆にいえば、下期は、一転して12億円の黒字となったわけです。
24億円の赤字は覚悟の上でした。というのも、デッドストックを廃棄するという、通常はやらない手を使ったからです。なぜ廃棄したかというと、わたしたちは目標客数と目標利益の達成を第一としていたため、早く軌道に乗せることを優先したからです。ロスは見切って、メニューを次々に切り換えたことが、上期の24億の赤字のかなりの部分になりました。
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