自民党の与謝野馨元財務相の「新党宣言」が政界を揺さぶっている。発端は「文芸春秋」4月号の論文。「現執行部を刷新して『新生自民党』で出直す道もあるだろう。それがだめなら、思い切って、新党を含め新しい道を歩む決断をせざるをえない」。発売前の6日に与謝野氏が寄稿の事実を認め、党内は騒然となった。
「あんた谷垣さん(禎一総裁)の側近だろ。支えてくれよ」。大島理森幹事長は8日、与謝野氏に近い園田博之幹事長代理を党本部に呼んで説得した。園田氏は谷垣氏の出身母体の古賀派所属だが、財政再建路線で通じ合う与謝野氏とのつながりも深い。園田氏は「今すぐではないが、先々に新党を考えている」と明言、決裂した。
党内に反響が広がったのは、「谷垣降ろし」を公然とぶったことに加え、その延長線上に民主党の小沢一郎幹事長の影がちらつくからだ。与謝野氏周辺は「論文の末尾に『新たな旗の下で与野党議員を結集したい』とある。そこが一番のポイントだ」と強調する。小沢氏との連携も「当然そこに含まれる」というわけだ。鳩山政権の支持率が急落する中、今夏の参院選の結果、民主党会派が過半数を割り、衆院との「ねじれ国会」が再現すれば「政界再編もありうる」(小沢氏周辺)との観測も広がる。
民主党内では資金管理団体の土地購入を巡る事件で不起訴処分になる一方、世論からの辞任圧力が高い小沢氏の進退を巡り、小沢氏系と非小沢氏系の対立がくすぶり、選挙結果次第で党内分裂が起きる、という見方だ。
与謝野氏と小沢氏は囲碁仲間で気脈を通じている。自民党幹部は「財政再建と消費税が小沢氏との接点になる」と解説。小沢氏に近い民主党関係者によると、小沢、与謝野両氏は最近会っていないが、小沢氏周辺が園田氏と時々接触。「何かしようと思ったらすぐにつながる関係だ」と明かす。
自民党内の新党論の先駆けとなり、各種の世論調査の人気度調べで鳩山由紀夫首相をしのぐ舛添要一前厚生労働相は、与謝野氏の動きについて「私も同じ問題意識で発言し、行動している」と意を強くしている。
しかし、与謝野氏に同調する動きは広がりを欠く。10日、与謝野氏主宰の勉強会「正しいことを考え実行する会」には衆参両院議員ら16人が出席。与謝野氏は「危機感を共有してほしい」と呼びかけたが、大勢は「谷垣氏の下での執行部刷新」。小沢氏との連携という憶測は広がるが、勝算は見えてこない。
毎日新聞 2010年3月14日 東京朝刊