疋田智の「週刊 自転車ツーキニスト」 |
この記事の発行者<<前の記事
|
次の記事>>
|
最新の記事
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┏━┫ 週刊 自転車ツーキニスト "Weekly Bicycle Tourkinist" ┣━┓
┃ ┗┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳┛ ┃
┗━━┛ ┗━━┛
警察庁の二年がかりの“二枚舌”に慨嘆する334号
今回の334号は、本来、ちょっと先に出る雑誌に載せるつもりの原稿だった。
だが、6/1の改正道交法施行を受け、またもやヘンチクリンな議論がメディアに報じられ始めた現在、今出さねばいつ出す、との思いから、ここに掲載する。
というのか、私は悔やんでいる。
すまん、発表するのが遅すぎた。ほんとに申し訳ない。
■驚きの警察庁ポリシー
自転車活用推進議員連盟という超党派の国会議員の集まりがありましてな。
私も理事を務めるNPO自活研はその外郭団体という形で発足したわけだが、その自転車議連、先日(4月24日)2008年の総会があった。
我々も同席し、国交省、警察庁、文科省、経産省の課長クラスが招かれていた。
まあ、昨今、自転車については色々かまびすしいからね。三人乗り自転車がどうの、自転車レーンの社会実験がどうの、なんてことが、テレビや新聞を賑わしている。
昨年6月に衆参を通過した改正道交法が、今月6月、いよいよ施行されるからだ。
施行に際して、現在、全国で98ヶ所にモデルレーンを敷き、自転車の通行帯に関する社会実験が行われているのは、すでにご存じの方も多いだろう。そのマネジメントにはかなりの疑義があるものの(私はこのままでは亀戸(江東区)も幡ヶ谷(渋谷区)もダメだと思っている)まあここではおいておく。話すと長くなるもので。
それより何より、私がここで申し述べたいのは、今回の自転車議連総会の中の、警察庁の説明のことだ。
忘れもしない、07年の2月に、この席で「パンドラの箱」を開けたはずの警察庁(詳細は拙著「それでも自転車に乗り続ける7つの理由」(朝日新聞社)を参照のこと)だった。
今回の説明に、私は少なからず期待していた。というか、少なくとも安心していた。
改正後の自転車はどうなるのか。自転車はどう走るのか。
今回の議連において、彼らは次のようなポリシーを打ち出した。
自転車は原則として車道、ただし、以下の場合は歩道も通行可とする
◆1 普通自転車歩道通行可の規制が実施されている場合
◆2 児童・幼児などが運転する場合(そのほか政令で70歳以上、身障者、児童幼児を載せた保護者等も含める)
◆3 自転車の安全確保のため、歩道を通行することがやむを得ない場合
1については、従来とまったく変わらない。要するに「いわゆる“自歩道”はオッケーだよん」という意味だ。
2についても、年齢幅に少々の疑義はあるものの、まあ既定路線通りだ。
問題は、3である。
3については、確かに去年2月にもそう書いてあった。
問題なのは「やむを得ない場合」の具体例である。やむを得ない場合とはどんな場合か。いったいこの3は何を意味しているのか。今回の警察庁の見解はこうだ。
道路工事や、連続した駐車車両などのために車道に左側の通行が困難な場所を通行する場合や、著しく自動車などの交通量が多く車道の幅員が狭いなどのために、追い越しをしようとする自動車などとの接触の危険がある場合
なんなのだこれは。
そもそも昨年2月、私はハッキリ憶えているが(だいたいビデオカメラが回っていたではないか)警察庁交通局横山雅之交通企画課長(当時)は、同じ席でこう言ったのだ。
「やむを得ない場合というのは、道路工事および、それに準ずる緊急のやむを得ない場合に限定する」と。
ところが、今回の倉田潤課長は、道路工事の後に、二つも付帯条項を付け加えてきた。地の文では分かりにくいんで、分かりやすくズバリ言うならこうだ。
「車道の左端に、駐車のクルマがズラリと停まっている場合」
「クルマが多いか、道幅が狭いために、後ろから来るクルマがぶつかってきそうに感じられる場合」
……。
これでは、都内幹線道路は、全部ではないか。
それよりなにより、去年言ってたことと、まるっきり違う。警察庁はウソを言っていたのか。
私はあまりにアタマにきたので、即座に質問に立った。倉田課長からの返答は次の通りだ。
「前任者がこの席で何を言ったかは知りませんが、警察としては、何でもかんでも歩道に上げようとしているわけではございませんでして……云々」
「前任者がこの席で何を言ったかは知りませんが」である。
語るに落ちたとはまさにこのことだろう。前任者がいなくなると、その前任者が公の席で言ったことが、もう反故になるのである。日本の官僚システムというのはそういうものだったのか。
■警察官僚への信頼が、目の前で崩れていく
私はね、日本の官僚というものは、アタマが堅いとか、動きが鈍いとか、一度動き始めたら停まらないとか、色々ありながらも、信頼するところは信頼していたのだ。
やるべきコトはきっちり手堅くこなし、おおむね誠実かつ謹厳実直で、間違いが少ない。ウソをつかない。そして、キチンと連続性を保っている、と。
こうしたことが目の前でガラガラと音を立てて崩れていく。
「きっちり手堅く」「間違いが少ない」などの部分は、例の一連の社会保険庁問題などでかなり怪しくなってきたとはいうものの、ラストの「連続性」については、まだかなりの信頼が残っていた。
政権がどう変わろうが、アメリカのように総取っ替えになるようなことはなく(共和から民主に変わったりするとあの国では政策スタッフから何から全部変わってしまう)、一度決めたことは、ちゃんと申し送りされ、実行されるものと思っていた。
ところが、それは誤解だったのだ。
衆議院第一議員会館の中は、谷垣禎一会長をはじめとする国会議員、自活研、第二弁護士会をはじめとする民間人、そして、国会記者クラブの記者たちと、100人程度の人がいた。そしてその中のかなりの数は、07年総会のメンツと重なっているのだ。その席で堂々とこうした二枚舌を使う企画課長。
これが警察庁だったのか、と私は驚きを禁じ得なかった。
……。
でも、まあいいのだ。
本当はよくないが、まあいい。
なぜなら、こうした「やむを得ない場合」を警察庁が認定したとしても、要は「現状と何も変わらない」からだ。「やむを得ない」からといって「車道は禁止」にすることができない。
06年の11月から07年の2月にかけて、我々は改正道交法案に含まれていた<提言2-4-2>に必死で反対し、そして、ひっくり返すことができた。それはこういうところに生きてくる。<提言2-4-2>とは次のようなものだ。
【提言2-4-2】特に危険な道路については、自転車の車道通行を禁止するなどの措置を講ずることができる
もしもこの条項が生きたまま、今の時点に至っていたらどうなっていたことか。
「車道の左端が、駐車のクルマがズラリと停まっている場合」→ はい、危険ですな、車道走行禁止。
「クルマが多いか、道幅が狭いために、後ろから来るクルマがぶつかりそうに感じられる場合」→ はい、これはもっと危険ですな、車道走行禁止。
なんという悪夢。こういうことを考えても、あの時期、本当に冷や汗ものだったというのが、分かろうというものだ。
■分かっている、そんなことは
警察は言うだろう。「しかし現実として今現在のママチャリを車道に下ろすなんてできない」と。
そう、今回のあほらしさの裏には、そうした現状を30年にわたって放置し続けたことを棚上げし、なおかつママチャリ市民の猛反発を避けようとする、安易な考えがある。
私も現実認識について必ずしも否定はしない。
だが、そんなことは最初から分かっていたではないか。30年間の自転車歩道政策で、もはやこの国の自転車市民はデタラメさに慣れきってしまった。それを一気に押し戻すのは一朝一夕には難しい、いや、無理だ。
だからこそ、自転車政策は一度、根本に立ち返り、少しずつ少しずつ考え直していかねばならないといってきたのだ。たとえば「車道歩道を問わず、まずは左側通行の徹底から」とかね。
ホントに思うんだけど、今回の法改正とは、いったい何だったのだろうか。
今回の警察庁の発言はどうしたって看過するわけにはいかないと思う。
一つには「ウソ」だったからだ。
公の前でつかれたこんなにあからさまなウソを放っておくわけにはいかないではないか。このことに関しては、議連の原田義昭事務局長(衆・自民)だって怒ってた。そりゃ怒るさ。
もう一つは、それぞれの「やむを得ない」に対するあまりの努力の欠如だ。
駐車車両が多い? 取り締まればいいではないか。
クルマが多い? 幅員が狭い? 車線を減らせばいいではないか。そもそも車道はシェアしなくてはならないのである。そういうことをまったくせずに「やむを得ない」と、涼しい顔なのが今回の警察庁だ。
私が「そういう対策もせずに、何が『やむを得ない場合』か」と質問すると、倉田課長は「対策をするのは前提だ、していないわけがない」と答えた。
何を、言うに事欠いて、というのか、どのツラ下げて、というのが、私の正直な感想だ。
その証拠に、世田谷区三軒茶屋の、渋谷区幡ヶ谷の「ブルーゾーン」とやらを見てみればいい。いずれの自転車レーンも違法駐車車両でびっしり埋まっていたのは、見た者なら誰もが知っているところだ。
あろうことか、その様子は、読売新聞、毎日新聞の夕刊一面に、証拠写真が載っている(笑)。それも注目の初日に。
たかだか400メートル弱の社会実験の違法駐車も摘発しないでおいて、なにが「前提」、なにが「努力している」だ。
だいたい警察官乗車の白チャリは、いまだに大多数は歩道を通りつづけているではないか。彼らにとっても“歩道”と“自歩道”の区別など、なきに等しい。
なんというデタラメ。
ホントにもう警察はいつまでこのようなおタメごかしを続けるつもりなのだろうか。
-----------------------
【ヒキタ解釈のオススメ本(たまに非オススメあり)】
「ロードバイクの科学」ふじいのりあき著 スキージャーナル社
大傑作。この本はいつか自転車本の古典となるだろう。
だけど、何だか今日はこれを評する気力がない……。
-----------------------
最新刊「疋田智のロードバイクで歴史旅」(木世(えい)出版社)
「自転車をめぐる冒険」(東京書籍・ドロンジョーヌ恩田と共著)
*現在、全国各書店で大好評平積発売中です。よろしく♪
「それでも自転車に乗り続ける7つの理由」朝日新聞社
「自転車生活の愉しみ」朝日新聞社
「天下を獲り損ねた男たち(続・日本史の旅は自転車に限る!)」木世(えい)出版社
「疋田智の自転車生活スターティングブック」ロコモーションパブリッシング
「自転車とろろん銭湯記」ハヤカワ文庫
「大人の自転車ライフ」光文社知恵の森文庫
「自転車ツーキニストの憂鬱」ロコモーション・パブリッシング
いずれも好評発売中。ネット内でのご注文はこちらにどうぞ。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url/index=books-jp&field-author=%E7%96%8B%E7%94%B0%20%E6%99%BA/249-6371737-5693951
【自転車通勤で行こう】
http://japgun.infoseek.ne.jp
バックナンバーはこちら。
http://www.melma.com/mag/03/m00016703/
この記事の発行者<<前の記事
|
次の記事>>
|
最新の記事