[「同盟の闇」]密約問題は過去の話か

2010年3月14日 09時58分この記事をつぶやくこのエントリーを含むはてなブックマークLivedoorクリップに投稿deliciousに投稿Yahoo!ブックマークに登録
(1時間9分前に更新)

 旧大蔵省の柏木雄介財務官と米財務省のジューリック特別補佐官が沖縄返還交渉にからんで1969年12月に結んだ文書は、我部政明琉大教授が10年以上も前に米国で入手した秘密覚書だ。

 この覚書を手がかりに、財政に絡む日米密約を独自に調査していた財務省は、日本側がニューヨーク連邦準備銀行の口座に1億300万ドル超の資金を約27年にわたって無利子で預金していたことを確認した。

 菅直人財務相は記者会見で、この無利子預金を「広義の密約」だったと認めた。一人の研究者の執念が「同盟の闇」を照らし出したわけだ。

 沖縄返還に伴う核の再持ち込みや日本側の財政負担については、交渉当時から不透明感がつきまとい、国会でもたびたび取り上げられた。自民党政権はこれまで、判で押したように密約の存在を否定し続けてきたが、外務省の有識者委員会に続き財務省の独自調査でも、国民不在の密約外交が暴かれたことになる。

 鳩山政権による日米密約調査はこれで区切りを迎えることになるが、密約問題を過ぎ去った過去の話だとして見過ごすわけにはいかない。

 秘密覚書は米国立公文書館で公開されているが、日本側の文書は見つかっていない。秘密覚書の存在が米公文書によって明らかになったにもかかわらず、日本側にその文書がないのはなぜなのか。

 返還交渉の闇の部分を、闇のままに葬り去るために、意図的に廃棄したのではないか。そのような疑いをもたれても仕方がないだろう。

 「当然あるべき文書が見つからず、見つかった文書にも不自然な欠落が見られる」と外務省有識者委員会の報告書は指摘している。

 過去の忘却や歴史の歪曲(わいきょく)は許されない。米国では25年後に外交秘密が原則公開されるが、国会で密約の存在を否定し、うその答弁を続けてきた過去の政権は、この種の文書の公開に消極的だった。

 政策決定過程の検証を可能にするためにも、重要文書の保存・公表のあり方を見直すべきである。

 「暗黙の合意」による核持ち込みの密約に対し、岡田克也外相は「非核三原則を堅持する」との考えを強調した。だが、問題は決して簡単でない。

 非核三原則を「国是」としながら米国の「核の傘」に頼ってきた矛盾を整理しない限り、核持ち込みをめぐる虚構の構図は、以前と少しも変わらずに生き続ける。

 柏木・ジューリック秘密覚書を分析した我部教授は、沖縄返還に伴う財政負担の密約に思いやり予算のルーツがあると言う。それは米軍普天間飛行場返還に伴うグアム移転経費の問題にもつながる。

 巨額の税金がどのように使われてきたのか。使われようとしているのか。納税者である国民はそれを詳細に知る権利がある。

 復帰後の38年は、日米密約や、地位協定にからむ非公開の合意が少しずつ明らかになっていった歴史でもあるが、「同盟の闇」は依然として深い。

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