きょうの社説 2010年3月14日

◎飼料用米の増産 強めたい地域の推進体制
 農林水産省は、食料自給率引き上げ策の一環として、2020年度の飼料用米の生産目 標を08年度の1万トンから70万トンに大幅に引き上げる方針を決めた。飼料用穀物の大部分を輸入に依存し、国際市場の価格変動の影響を受けやすい現状を徐々に改め、国産飼料による畜産を拡大していくことは、重要な食の安全保障政策である。飼料用米の増産目標は今月中に閣議決定される新しい「食料・農業・農村基本計画」に盛り込まれるが、これを実現するには、しっかりした地域の推進体制を築く必要があろう。

 飼料の自給力を高めることは、現行基本計画でも主要施策の一つになっており、05年 に国、自治体と農業団体などによる「全国飼料増産行動会議」が組織され、年度ごとに行動計画を策定して飼料の生産拡大を図ってきた。

 北陸では新潟、富山、石川、福井4県による北陸地域飼料増産行動会議が設けられてい るが、これまでの飼料増産の主な取り組みは、トウモロコシの作付けを増やすことや、稲を完熟前に刈り取って発酵させた粗飼料の増産、稲わらの利用拡大、休耕田を活用した放牧の推進などである。

 飼料用米の大幅な生産拡大は、従来の飼料増産政策を軌道修正するものである。飼料用 米の生産には、10アール当たり8万円が助成される。それでも収益の確保は困難視されているが、他の飼料作物に比べると手厚い助成であり、これまでトウモロコシの増産に力を入れてきた生産者らの間には戸惑いもあるのではないか。

 飼料用米の生産拡大は、助成金だけでなく、養鶏や養豚農家など販売先の確保と需要拡 大が大きな鍵を握る。飼料用米を用いて鶏卵や豚肉を生産・販売する取り組みが北陸でも行われているが、それら商品の消費拡大も不可欠である。飼料用米の生産増に合わせて専用の乾燥処理・保管施設の整備も進めなければならない。

 こうしたハードルを乗り越えるための協力体制を、消費者も含めてそれぞれの地域で再 構築しなければ、飼料用米の増産目標の達成は厳しいと思われる。

◎姿消す旧陪審法廷 歴史的建造物の保存の教訓に
 金沢地裁の建て替えに伴い、敷地内の金沢法曹会館が今月中に取り壊されることになり 、関係者から惜しむ声が挙がっている。昭和初期に旧陪審法廷として建てられ、全国で唯一、当時の場所に存在していた。金沢以外で残っていた京都、横浜地裁の陪審法廷は大学構内に移築、復元されただけに、同様の措置が講じられなかったことが残念である。

 町家の保存など、金沢市内で歴史的建造物を残す取り組みが広がってきた。それでも、 古い建物は老朽化で失われゆく運命にある。今回は移築場所や費用確保などの面で保存が難しいとの結論に至ったようだが、旧陪審法廷が全国で3つしかないという希少性はそれだけで価値がある。法曹会館は公的施設であり、裁判所や弁護士会など法曹界にとどまらず、保存の可能性をめぐり、広範な議論があってもよかったのではないか。

 非戦災都市である金沢には、文化財保護法で指定、登録された文化財以外にも「都市の 記憶」をとどめる建造物はたくさんある。悔いを残さないためにも、今回の取り壊しを教訓に、「歴史都市」にふさわしい建造物保存の在り方を考えていきたい。

 金沢法曹会館は、陪審法が施行された1928(昭和3)年に建てられ、制度が停止と なる43年まで放火事件など3件の審理が行われた。陪審裁判は、無作為に選ばれた市民が陪審員となり、裁判官から独立して有罪・無罪を決める制度である。金沢地裁の陪審法廷は内部が改装され、66年から金沢弁護士会が入居したが、地裁庁舎の建て替えが具体化して解体が決まった。

 戦後、全国の陪審法廷が壊されるなかで、京都地裁の法廷は立命館大、横浜地裁の法廷 は桐蔭横浜大に移築された。裁判員裁判が昨年始まったことで、同じく市民参加の陪審制の歴史にも光が当たっている。陪審法廷への関心は、時代の変化で建物に新たな価値が発見された一例と言えよう。

 たとえ名建築でなくとも、都市の記憶をとどめ、歴史的に意味を持つ建物は他にもある 。文化財を限定的にとらえず、価値を積極的に見いだしていくことで保存の幅を広げていきたい。