【コラム】キム・ヨナを「ユナ・キム」と呼ぶワケ(下)

 もちろん、バンクーバーでも、冬季五輪の開催期間中、赤いメープルリーフ(かえで)の葉をかたどったカナダ国旗を掲げた車が行き交っていた。国旗を帽子のようにかぶり、国旗をマントにして、「カナダ人! カナダ人!」と連呼する光景も見られた。しかし、ほとんどのバンクーバー市民は、こうした「民族、あるいは国民が団結する」光景に慣れ親しんでいない様子だった。応援のためソウル市内の中心部を埋め尽くした韓国人の目から見れば、かわいいといった程度なのにもかかわらずだ。

 バンクーバーは多民族・多文化都市だ。カナダ人以外にも中国系・インド系・イラン系・フィリピン系・ベトナム系などが入り交じって暮らしている。韓国人・韓国系も、留学生を含め約7万人いる。しかし、この街で肌の色や言葉による差別が問題になったことはほとんどない。移民が刑事事件にかかわっても、出身国を明らかにすることはない。人権裁判所が別にあり、こうした侮辱を感じた場合には直ちに訴訟を起こすことができる。訴訟の結果とは関係なく、訴訟を起こされたということ自体に恥を感じる社会なのだ。

 「単一民族」であることを誇りに思って生きている韓国人に、こうした「花束社会」は不可能だろう。それでも、韓国人は「自分たちとは違う人々」と入り交じって生活するしかない。韓国に住む外国人は既に100万人を超えている。中国の朝鮮族はわたしたちが入居するマンションの建設に携わり、フィリピン人の青年は外国人労働者が多い京畿道安山市内の工場で機械を操作し、スリランカ人は東海(日本海)沖で漁船に乗る。それに、韓国語が分からない東南アジアの女性たちは韓国の農村で韓国人の子供を産んでいる。その子供たちは、自分の顔がなぜほかの子供と違うのか、はじめはよく分からないだろう。

 韓国人は、韓国社会の中に入ってくる外国人をどのように受け入れているのだろうか。彼らを「別種」扱いする優越感が、韓国人の心の中に潜んではいないだろうか。バンクーバーのコリアンタウンを通り過ぎた道沿いに、「5.99(カナダ)ドル(約530円)スペシャルランチ」と書かれてあるレストランがあった。店主は韓国で働いたことがある中国・朝鮮族の夫婦だった。「韓国にいたころ、わたしは仕事仲間たちから朝鮮族だとバカにされ、食堂で働いていた妻は従業員たちにいじめられた。だからここに来る決心をしたのだが、韓国で経験した差別は自分のためになったとでもいうか…」

 世の中とは皮肉なものだ。このような韓国人が海外へ移住し、家族の誰かが異国の地で「小さな」差別を受ければ大きく傷つき、ロシアで韓国人留学生が相次ぎ襲撃されたと聞けば驚きを隠せない。

崔普植(チェ・ボシク)記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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