【萬物相】論文の代筆
北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記は1964年に金日成(キム・イルソン)総合大学を卒業したが、当時の卒業論文のテーマは、「軍の位置と役割」だった。主な内容は、都市と農村の格差をなくし、農村を都市のレベルにまで引き上げるに当たって、軍がすべきことだ。金総書記はこの論文を書き上げるのに、およそ1カ月をかけたという。この論文について『金正日伝記』では、「大学の卒論というレベルを超える新たな理論」と称賛している。後日、国家情報院が提出した報告書によると、この論文はソウルで大学教授をしていて後に北朝鮮に渡った経済学博士、チョン・ヨンシク氏が代筆したという。チョン氏は金総書記の大学時代の指導教授でもあった。
1971年にボストンで学位論文を代筆する企業があるというニュースが流れ、社会を騒がせた。この企業はわずか1年間に1万本の論文を売りさばき、巨額を稼いだ。論文の作成には大学教授や大学院生などが動員されたようだが、修士論文1本の価格は140ドル(現在のレートで約1万2400円、以下同じ)だった。その後、ハーバード大学の学生二人が全く同じ論文を提出したことがきっかけとなり、この企業による論文販売が摘発された。問題の学生二人も、無期停学の処分を受けた。
1981年には、高麗大学前で論文の代筆を行っていた50代の男性が警察から取り調べを受けたというニュースが、韓国社会を騒がせた。高麗大学新聞が「大学周辺で論文の代筆を行っている業者が存在する」という記事を報じた直後だった。93年には学位論文を代筆した7人と、依頼した42人が逮捕された。2003年にも、インターネットを通じて論文を売りさばいていた代行業者と代筆者、さらに現金を支払って論文を買い取った16人が摘発された。当時、論文1本の価格は博士論文が500万ウォン(約38万7000円)、修士論文が300万ウォン(約23万2000円)、卒業論文が50万ウォン(約3万9000円)だった。
昨日、本紙には「論文の代行が今も盛んに行われている」という記事が掲載された。あるインターネット・ポータルサイトには、論文代行を行うというカフェだけで30以上存在するという。それによると、論文の価格は博士論文が300万ウォン、修士論文100万ウォン(約7万7400円)、卒業論文20万ウォン(約1万5500円)で、7年前に比べると価格は大きく下がっている。それだけ業者の数が多く、どこでも簡単に、代筆された論文を買い求めることができるということだ。
1977年にウンベルト・エコーが書いた『論文作法』は、94年に韓国でも翻訳出版され、今でもよく売れている。論文を書くということは、それだけ難しく苦痛が伴うということだ。米国に留学して数年間苦労し、最後に博士論文が通過した直後、指導教授が「博士、おめでとう」と握手を求めてきたとき、「自然と涙が流れてきた」という経験談もよく耳にする。国会図書館に所蔵されている博士論文や修士論文は110万本を超え、毎年数万本が新たに加えられている。学位を単なる「箔(はく)を付けるもの」程度にしか考えず、論文の売買が気軽に行われるような韓国の国会図書館には、いったいどれだけの代筆論文があるのか気になるところだ。
趙正薫(チョ・ジョンフン)論説委員
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