【コラム】「先進国化」という呪文(上)

 「“先進国の尻を追い掛ける”という言葉を、なぜこれほどまで好むのか」。ある高級官僚が、冗談めかして口にした言葉だ。政策の改善を意味する単語として使われる「先進国化」という単語に対し、この高級官僚は不満をあらわにし、「1980年代ではあるまいし、主要20カ国・地域(G20)首脳会議の開催を控えているというのに、口を開けば“先進国化”と口にする。おかしいとは思わないか」と続けた。そしていつの間にか、真剣な顔つきになっていた。

 「先進国化」という言葉は、経済担当の記者たちも聞き飽きている。政府が毎日発表する報道資料のタイトルにも、必ずと言っていいほど「○○の先進国化」という文言が入る。公共機関や国営企業、農林水産業も「先進国化」を掲げ、あらゆる業種で「先進国化委員会」という看板を掲げている。企画財政部が最も力を入れているサービス産業対策は、「サービス産業の先進国化対策」と名付けている。

 経済関係の省庁だけではない。昨年11月、釜山で室内実弾射撃場火災が発生したのを受けて打ち出された対策は、「安全に関する制度の改善および意識の先進国化総合対策」だった。大韓体育会は「競技団体の運営の先進国化対策」を進め、また山火事対策までもが「先進国化」の対象となっている。

 李明博(イ・ミョンバク)大統領も、就任演説の際、「工業化と民主化の時代は終わった。これからは先進国化の時代を切り開こう」と述べた。盧武鉉(ノ・ムヒョン)前政権下で、メディアと公務員の接触を制限する施策が実施されたときも、「取材支援システムの先進国化方策」と名付けられた。1991年、当時の盧泰愚(ノ・テウ)政権が発表した「第7次経済社会発展5カ年計画(92-96年)」は、「経済社会の先進国化と民族の統一を目指す」という基本目標を掲げた。また、88年に金融実名取引制度の導入を発表したときには、「経済の安定成長と先進国化、国民の団結のための経済対策」と銘打った。さらにさかのぼれば、全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領の国政での目標の一つが、「先進祖国の創造」だった。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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